シェイクスピアウォーク0

エイヴォンの詩人を訪ねて

The Bard of Avon エイヴォンの詩人。

 これは、英国を象徴する超有名人のニックネーム、その人物を表す隠語です。場合によっては、The Bardだけで呼ばれることもあります。このザ・詩人さん、詩はもちろん、劇作家として演劇・文学に多大なる影響を与え、彼のお芝居は世界中で上演されており、今もなお第一線で活躍していると言っても過言ではありません。また、英語という言語の可能性を広げた功績は大きく、英語圏の方にとっては、言葉の神のような存在です。そのため、彼の故郷であるストラトフォード・アポン・エイヴォン(Stratford upon Avon)には、世界中から巡礼に訪れる方々が、年間50万人以上に登るそうです。

ストラトフォード・アポン・エイヴォン

 その人物、エイヴォンの詩人こと、ウィリアム・シェイクスピア。今年2016年は、彼の没後400年記念の年で、各地で上演やイベントが一年通して行われています。

 お恥ずかしい話ですが、私は大学時代にシェイクスピアの授業を受け、とにかく彼の古典英語、特に詩がわからず、泣く泣く勉強した思い出があり、未だにシェイクスピア=小難しいイメージから抜け出せずにいます。ただ、英国に暮らしていると、新聞や雑誌の記事、テレビ報道、身近なところでは、結婚式スピーチなどで彼の言葉が引用されているのをよく見聞し、そのたびに彼の存在の大きさを感じさせられています。

 そんなシェイクスピアのシェの字もわかっていない私が、観光客魂丸出しで、冷やかし半分、シェイクスピア誕生記念パレード&式典が行われた4月最終週末に、ストラトフォード・アポン・エイヴォンを訪れました。ただ、単なる観光ではつまらんと、私なりの巡礼方法で、お参りさせていただきました。それは、Shakespeare’s Walking Weekという、地元ランブラーズ・グループによるイベントに参加し、歩きで彼の故郷を知るということです。ストラトフォード・アポン・エイヴォンは、英国中部地方都市・バーミングハムから、少し南下したところにある、エイヴォン川沿いの小さな町です。静かな田舎に、突如大勢の人たちで溢れかえるスポット出現。町中を歩いていても、英語だけでなく、世界中の言葉が飛び交っていました。記念行事があったためか、とにかくシェイクスピアに対する熱がすごい。彼の作品を理解できない私でも、人々の彼に対する深い尊敬の念は、肌でひしひしと感じられました。

シェイクスピアウォーク1Shakespeare’s Walking Weekへ参加

 そんな熱気に包まれた町の広場の一角に、ランブラーズのロゴがプリントされた反射チョッキを着た人たちが現れました。ストラトフォード・アポン・エイヴォンのランブラーズ・グループ(the Stratford-upon-Avon Group of the Ramblers)のみなさんです。ランブラーズ(Rambers)とは、英国におけるレクリエーション・ウォーキングとその環境保全活動をしているチャリテイー団体です。全国各地にウォーキング・グループがあり、自由に参加することができます。ストラトフォードのグループは、地元のウォーキング・ガイドブックを制作して観光案内所で販売したり、整備ボランティアを結成してフットパスをメンテしたりと、かなり精力的に活動しているグループで、この記念すべき年に、Shakespeare’s Walking Weekを企画したそうです。「普通なら、Walking Festivalと打ち出すところだけれど、そんな大げさなものではないから、あえてWeekにしたの。みんなで、一年前から準備してきたんだけれど、それはまるで誰かの結婚式を準備するみたいだった。ささやかだけれど、私たちなりの方法で、この記念すべき年を祝いたかったのよ。」イベント・リーダーのスーザンさんが話してくれました。実際に参加してわかったのですが、役所、観光局、シェイクスピア関連団体が関与しているわけでなく、純粋に彼らだけで計画した、手作り感満載のウォーキング・イベント。一週間シェイクスピアゆかりの地12コースを歩く、こじんまりとしたものです。コースは、7、8キロ程度の短いものが中心で、中には車椅子で参加できるものも用意されており、気軽に参加してもらいたい彼らの思いが垣間見えます。現グループ所属メンバーは、300人ほどいるそうですが、実際に歩ける人は半分ほど。つまり高齢者が多いということです。そのため、このような機会が新しいメンバーを増やすきっかけになればと考えているようでした。

シェイクスピアウォーク2 シェイクスピアが参加?!

 30人前後の参加者が集まり、道に溢れている大勢の人たちをかき分けるように、ウォーキングはスタートしました。地元や近郊からの参加もあれば、アメリカ、アジア、中東からの観光客も一緒に混じり、中高年から若いカップル、学生仲間、ひとり旅の女性など、さまざまな人がいる光景は、ここストラトフォードならではだと思います。町を一歩出ると、今までの喧騒がうそのように、静かで穏やかな田園風景が広がっていて、まるで時空を越えたかのよう。緑の麦畑と黄色い菜の花畑のコントラストが永遠に続く大地の真ん中を、エイヴォン川がゆっくり蛇行し、ストラトフォードの町を通過していきます。シェイクスピアが眠る教会の尖塔が、天を指差すような鋭さで輝きを放っていて、その奥には、日本でも人気があるコッツウォルズ地方が見えていました。ストラトフォードの町中には、チューダー様式の建物が多く残されおり、シェイクスピアが生きた時代を体感でき、訪れた人たちを楽しませています。ただ私には、それらの建物より、むしろ丘の上から町とその周辺の景色を、地元の人たちと一望に収めたときのほうが、シェイクスピアの世界をリアルに感じられました。

 散策しながらその土地を楽しむ。地元の人たちと歩を共にし、同じ時間を共有することで、その場だけが持つ独特のエネルギーと空気感をじっくり味わう。そこで生活している人々の話を通して、その地が刻んできた歴史や生活を知る。そうすることで、真の姿が見えてくる。歩く旅だけが持つ醍醐味のように思います。きっと英国人たちは、とうの昔にそのことに気がついていたのでしょうね。同じような歩くイベントが、UK各地で盛んに行われているのも、うなずけます。ストラトフォードという町は、シェイクスピアというひとりの天才によって成り立っているように思っていましたが、そこにある長い年月と共にできてきた自然と人々の暮らしが、彼の才能を開花させ、多くのすばらしい作品を残してくれたんだと、歩いていて初めて実感しました。そう思うと苦手意識の強かったシェイクスピアも、ぐっと身近に感じられ、自然に情が湧いてきます。「一度彼の演劇、観に行ってみようかな」とふと思う自分がそこにいました。

シェイクスピアウォーク3シェイクスピアも、この道を歩いたのかもしれない

23rd April 2016, Sat @ Anne Hathaway’s Cottage & Hansell Farm, Stratford upon Avon

参考資料:
ストラトフォード・アポン・エイヴォン ランブラーズ www.stratfordramblers.com


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