湖水地方・タイトル1

ジルちゃんとDeco Boco Walking in 湖水地方 #1

 秋だよ、歩くよ、どこまでも。友人ジルちゃんとぶらぶら英国散策、Deco Boco Walking。今回はついに英国人ウォーカーたちの聖地、湖水地方にやってまいりました。日本人観光客にも人気のこの地は、年間2000万人近くの人々が訪れる英国を代表するリゾート地です。1951年に国立公園に指定を受け、2017年には30年越しの夢を叶え、ユネスコ世界遺産に登録され、今後さらにその勢いは増しそうです。

イングランド北西部 湖水地方 ウィンダミア

 今回の拠点は、湖水地方南側の中心地、ウィンダミア。可愛らしい田舎町といった雰囲気で、ここに大勢の人々が来れるのかと驚くほどのコンパクトさです。駅周辺には、観光客向けの店が連なり、その奥にはB&B(朝食付き民宿)激戦区が続きます。どことなく、軽井沢や清里などの町並みを思い出させる、地元の人々の生活感が表に見えてこない空間がそこにはありました。今回は、初めての湖水地方ということで、コテコテの観光しながら、歩くことにしました。散歩レベルの歩きから始まった凸凹コンビが、まさか湖水地方へ上陸するとは…。高揚感が半端ない!

ウィンダミア
湖水地方11 大雨でウィンダミア湖を渡るボートには、私たちふたりのみ

 一日目:日本でも有名な湖水地方の代名詞ともいえる大ベストセラー児童書『ピーターラビット』。今回は、その生みの親であるビアトリクス・ポッターが暮らしていた家、ナショナル・トラスト所有のヒルトップを中心に歩きます。あいにくの雨。それでも我々の足を止めることはありません。ボウネス・オン・ウィンダミアから、ウィンダミア湖をボートで渡り、ファ・ソーリー(Far Sawrey)へ。そこからミニバスで、ヒルトップへと向かいます。朝から本降りで、ミニバスに乗ったときは、雨具も靴もびっしょり。服から滴る雫をどうすることもできずに、曲がりくねった道を進むバスに揺られ、小さな村ニア・ソーリー(Near Sawrey)に降り立ちました。

湖水地方12 ビアトリクス・ポッターが住んでいた家、ヒルトップ。多くの観光客が訪れる名所

湖水地方13 ヒルトップの階段の踊り場に展示してあった彼女の手紙からの引用。「雨続きで、我々のところも浸水しそうになってきていますが、とりあえず麦のタネを蒔きました。」今日のような大雨の中で書かれたのだろう。彼女と繋がった感じがする

 さすがこの雨で客はいないだろうと思っていたら、ヒルトップには私たちのような物好きがたくさんいるいる。道中、だれも人を見なかったのに、ヒルトップには、ウジャウジャ人がいるのです。どっから湧いてきたんだ、このひとたち?どエライ人気。そのため、土砂降りの雨の中、外で順番待ちをすることに・・・。雨に打たれながら「これ、夏に来たら悪夢だよ、きっと」と頷き合うふたり。ようやく順番が回ってきて家に入れましたが、照明がない家の中はあまりにも暗く、よく見えない。ヘッドライトを照らして見ている人もいました。展示を見ながら私個人としては、ピーターラビットより、ロンドンのお嬢様で、絵が得意だったポッターが、この湖水地方へ移り住み、最終的にピーターラビットの大ヒットで得た土地すべてをナショナル・トラストに寄付したことのほうが、大変興味がありました。湖水地方内に多くあるトラスト所有地のまさに三分の一が、彼女からの寄贈によるものだそうです。「えらい、金持ちだったんだ〜」と彼女の財力の重さが、ピーターラビットの可愛らしいイメージを吹っ飛ばしてしまいました。そしてもうひとつ興味深かったのが、彼女は若い頃生物学に夢中でしたが、女性ゆえに講義を受けることも新説を発表することも許されなかったそうです。時代が違えば、有名な学者になっていただろう彼女の才能は、別の形で開花したのでした。

湖水地方14 腹が空いては戦(歩き)はできぬ。困った時のパブ頼み

 せっかくここまで来たのに、今のところドヨーンと暗くて寒い印象しかなく、雨が一向に収まる様子もないこの状況に、この後歩けるのか不安で、気持ちがしぼんでしまいました。ここは、凸凹ウォークのポリシーのひとつでもある、「困った時は、パブ」。早めの昼飯がてら一度暖をとる作戦に変更。ヒルトップ見学もそこそこに、隣接していたパブへ直行したのです。営業時間10分前にも関わらず、強引なふたりを快く招き入れてくれたパブで、暖炉の前にあったテーブルを確保。さっそく脱いだ雨具と靴と靴下を乾かし始めました。恥もへったくれもない、外国人観光客ふたり。スープと地元のカンブリアハムのサンドイッチをじっくり食し、温まった素足で床の上をパタパタと叩きながら、雨が弱まるのを待ちました。なんて至福の時間なんでしょ。ヒルトップ見学よりポッターの世界にどっぶり浸れたように思います。エネルギーをジャージし、歩く気分も上がってきたので、勇気を振り絞って外へGO。

湖水地方15 忍者ジルちゃん。急遽沢登りへ変更!?

 まずは、ポーターもよく絵を描きにいていたモス・エクル・ターン(Moss Eccles Tarn)という小湖があるところまで登っていきます。「雨が止んでラッキーじゃん」と思ったのもつかの間、地面に降り注いだ雨が溢れ出し、道が小川へと変貌していました。もうここまで来たのだから歩くぞ!!と貧乏性外国人たちの決意は硬く。池のような水溜りは、石垣を忍者のごとくはって通り抜け、水がザーザー流れる坂道は、石を橋代わりに右へ左へと渡りながら歩いていきました。それでもせっかく乾かした靴に水は入ってくる。「足が濡れてキショイよー」と叫ぶジルちゃん。友よ、自然の中を歩くということは、そうゆうものよ。ましてやここは湖水地方。降水量が多いから湖がこれだけできるのがよくわかるっしょ。これも致し方ない・・・。どっぷり湖水地方の洗礼を受けたふたりでした。

湖水地方16 どこを見てもピクチャレスク。ポーターが惚れ込むのもわかる気がする

 濡れた足の不快感とは反対に、雨上がりの湖水地方は、なんと絵になることでしょう。空、雲、山、森、草原、川、湖。人間が思い描く美しい自然の要素全てがそこにはあり、時間とともに、刻々と姿を変えていく。大自然の舞とでもいいましょうか。全く飽きがこない。多くの人々がこの地を愛してやまない理由がわかります。日本人の私でもノスタルジックな気分にさせられ、胸がキュンキュンしてきます。とてもロマンチックなのです。流れていた雲から徐々に青空が顔を出すようになってきました。英国の自然といえば、ヒースなどの低木が群生している高原地帯ムアランド(moorland)のイメージでしたが、湖水地方には、立派な落葉樹が多く生息していて、すごく印象的です。紅葉した落葉樹は、陽の光で黄金色にキラキラと輝きます。日本の紅葉のイメージと少し違い、哀愁もあるけれど、それ以上に突き抜けた明るさを感じるのは、なぜでしょう。

 あっという間にMoss Eccles Tarnに到着。そこらじゅう水浸しの道を歩いて来たので、小湖を見ても、ふーんといった感じです。それじゃ、もっと歩いてみようと、先に進みます。目の前に広がる牧草地には、放牧された羊たちが天気など気にせず、草を毟るのに夢中です。ところどころでフサフサした大型犬が歩いていて「なんだ、ありゃ?」とふたりで不思議がっていました。のちにそれが湖水地方原種で、ポーターが多くを保護したハードウィック羊とわかったのです。あちゃ〜、もっとちゃんと見ておけばよかった。残念。

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湖水地方20 雨で濡れた石段がつるつる滑り、ふたりからブーイングの嵐

 徐々に下降しながら、ウィンダミア湖へと出ていくコースをとりました。今まで私たちが歩いてきた数々のナショナルトレイルは、どんぐりマークを追って歩くので比較的簡単でしたが、湖水地方は標識が少なく簡単なルートでも地図を見ながらでないと、すぐに道を間違える危険があります。今までのように、最悪タクシーを呼べばいいじゃんとは、いきません。湖に戻ってくるまで、あっちか、こっちかと不安になりながらも、なんとか降っていきます。読図に自信のない私たちの頼りは、紙のOSマップだけでなく、スマフォにダンロードしておいたOSマップ。現在地を示してくれるので、とても助かりました。読図力アップを心に誓いつつ、ついつい機械に頼るぐーたらなふたりです。

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湖水地方22 ジルちゃん、ブナと交信中

 針葉樹の森を「なんか、ここだけ暗くてカラーが違うなぁ〜」と思いながら抜け、完全に水が氾濫した道を「最悪ぅー!!」と叫びながら通り、丁寧に作られた石段の道を「誰だ、こんないらぬ仕事をしたバカは!」と、文句を言いながら、滑りそうになり、ようやく湖にたどり着きました。天気はすっかりよくなり、肌寒いけれど清々しい空気の中、湖の岸に沿って、今朝に降り立ったボート乗り場へと向かいました。天気が回復したためか、老若男女多くの人たちが夕方の散歩を楽しんでいました。湖水地方に来たらハイキングしなくてはならない・・・とは限らない。散歩してお茶してのんびりしてもいい。一日中本を読みながら、景色を眺めていてもいい。スケッチブックに絵を描くのもいい。サイクリングしてもいい。乗馬してもいい。トレランしてもいい。セーリングしてもいい。自分なりの流儀で遊び、この風光明媚を謳歌すればそれでいい。誰も干渉などしてこない。湖水地方出身で、ロマン派詩人、ウィリアム・ワーズワースは、湖水地方のことを、「見る目と楽しむ心を備えたすべての人が権利と関心を持つ、一種の国民的財産である」(小田友弥訳、2010)*1といいました。そんな雰囲気が、実際にここには満ち溢れていたのです。明日は、そのワーズワースが暮らした家を訪ねます。

 二日目につづく

 二日目は、こちら >>

湖水地方24

30th September 2017, Sat @ Hilltop & Moss Eccles Tarn & Belle Grange, Lake District, Cumbria

参照:
*1 湖水地方案内、ウィリアム・ワーズワス著 小田友弥訳(法政大学出版局 2010)


観光&トレイル情報:
湖水地方国立公園 www.lakedistrict.gov.uk/home
ナショナル・トラスト ヒルトップ www.nationaltrust.org.uk/hill-top


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