湖水地方・タイトル2

ジルちゃんとDeco Boco Walking in 湖水地方 #2

湖水地方26 路線バスを観光客に利用してもらおうと、二階をオープンにしたり、看板で情報をわかりやすく表示したりと、一生懸命工夫している様子がうかがえる

*一日目は、こちら >>

 二日目: 今日も長崎・・・、いやいや湖水地方は、雨だった〜♪ あちゃー、朝から本降りです。のちのち晴れる様子もないぶ厚い雨雲。今日も濡れるぞー!!と覚悟を決めて、B&Bを出ました。二日目は、湖水地方のもうひとつのシンボル的存在であり、英国を代表するロマン派詩人、ウィリアム・ワーズワースが暮らしていた家、ダヴ・コテージを訪ね、その周辺を歩きます。まずは、ウィンダミアからライダルという村へ、バスで北に向かいました。湖水地方は、マイカーで訪れる人が多く、自然環境や地元住民の生活への負担が懸念され続けてきました。2017年世界遺産登録をきっかけに、公共交通機関をさらに利用しやすくしようと努力を重ねています。その結果でしょうか、英国の田舎には珍しく、バスの本数はそれなりにあり、ストレスなく移動できました。運転手さんが、ヘッドマイクを装着し、運転しながら湖水地方の案内をしてくれていましたが、まだちょっと慣れていない様子。世界遺産のために頑張る彼らが微笑ましいです。ただごめん!訛りが強くって、聞き取りずらいよ〜、運ちゃん。

ライダル

 30分弱で、ライダルに到着。ここから、ライダル湖とグラスミア湖を左に見ながら、ぐるっと一周するコースをいきます。その途中にある村グラスミアに、ダヴ・コテージがあり、休憩がてら立ち寄る予定。バス通りから山側に一歩奥に入ったところにフットパスがあり、まずはライダル村の住宅エリアを抜けていきます。すると左側にライダル湖が姿を現しました。小さな山に囲まれ、その谷間に水が流れ落ちてできた小さな湖。山々には、オークなどの落葉樹の大木たちが、湖へ手を差し伸べるかのように枝を伸ばし、霧が葉の間を穏やかな川の流れのようにすり抜けていきます。昨日訪れた開放感のあるウィンダミア湖とは対照的で、ライダル湖とグラスミア湖周辺はとても可愛らしく、全体的にキュッとコンパクト。いつもは、くっちゃべり続けるふたりですが、今日は黙々と進んでいきます。カッパから伝わる雨音と濡れた大地をブーツが蹴る音だけが聞こえ、瞑想をしているときの気持ち良さが、歩きながら湧いてきました。母親の胎内にいるような、包み込む優しさが漂い、湿気った空気と共にスーと体に入ってきます。雨を通して、この地と同化したような感覚がありました。

湖水地方27 ライダル一周コース

 以前は外へ出る時、晴れ以外はハズレの日と思っていましたが、英国に住み始めてからは、今回のような雨でしか体験できない味わい深さがあることを知りました。それに、英国では、雨ぐらいで、外で遊ぶことをやめたりしません。歩くし、自転車漕ぐし、魚釣りもします。今日も雨がしっかり降っているのに、マウンテンバイクで通り過ぎていく若者たち、犬と散歩する人たち、そして私たちのように、散策するものたちで、フットパスはそれなりに賑わっていました。レバノンに長く住んでいた友人が、久しぶりに英国に帰国した際に、雨がどれだけ恋しかったか話していたことを、ふっと思い出しました。雨が続くと、みなブーブー文句を言いますが、場所が変われば、雨模様は貴重なんですよね。

湖水地方281822年に出版された『湖水地方案内』の原本。本物を見ると、ワーズワースに会えたように思えるから不思議。もちろん、代表作である詩『水仙』が掲載された詩集の原本も見れる

 一時間半ほどで、ダヴ・コテージ前に到着しました。さて、中を見学に行こうとする私に、ジルちゃんが難色を示します。もっと歩きたいと言うのです。「来る前に何度もコース説明したじゃん。この後も歩くんだよ。」ともう一度確認するも、「湖水地方までわざわざ来たからには、観光じゃなくて歩きたい。」と平行線。こりゃ、ダメだと思い、地図を広げられるカフェで一服するため、一度コテージから去りました。ワーズワース参りしないで、湖水地方もへったくれもあるかい!とちょっとイラっときていた私ですが、最近仕事や執筆活動で問題が山積し、ストレスマックスのジルちゃんの気持ちもわからなくも・・・。正直別のコースを考えていなかったし、雨もまだ降っているので、コースを変えずに納得してもらえないかと、なんとかなだめる私。ずぶ濡れの服を乾かすがてら、ダヴ・コテージを見学することを、ようやく承諾してもらいました。 早速コテージに戻り、まずは隣接している展示場で、コテージ内見学の順番待ち。ワーズワースの肖像画や当時出版された詩集本などを見て回りました。ロマン派詩人として、彼の英文学への功績はもちろん言うまでもないですが、私個人としては、今日の環境保護運動の先駆者としての尊敬の念が強く、ガラスケース内に1822年に出版された『湖水地方案内』の原本を見たときは、感無量でした。この本の中で、彼は湖水地方を、“a sort of national property, in which every man has a right and interest who has an eye to perceive and a heart to enjoy”ー見る目と楽しむ心を備えたすべての人が権利と関心を持つ、一種の国民的財産である(小田友弥訳、2010)と述べました。この考え方から、国立公園やナショナル・トラストなどが誕生し、今日議論されている環境問題や持続可能性などへと繋がっていくのです。日常で普通に使われるようになった「エコ」という言葉も、もしかしたら、ワーズワースがいなければ、世界中に認識されてることがなかったかもしれません。数ヶ月前に登録された世界遺産を機に、彼の環境思想は、学者たちの中で、再評価ブームがきているようです。約200年前に、新たな自然に対する視点が議論され、それが今私たちが当たり前のように感じ取っていることが、すごいことだなと感動していると、メモ帳片手に、真剣に展示物に見入るジルちゃんが・・・。なんじゃい、結構楽しんでるじゃねーか。

湖水地方29一生懸命メモしながら展示に見入るジルちゃん。文句言ってたの、どこのだれよ

 ついに、コテージ内を見れる順番がきました。ワーズワースと彼の家族、そして訪ねてきたロマン派の詩人たちについて、丁寧にガイドさんが説明してくれました。彼らの生活した跡が若干残っている空間で、彼らが歩き、遊び、食事し、創作し、旅行し、恋愛し、時に失敗し、そして、湖水地方の自然を愛していたんだな。偉大な詩人も私たち同様、人生を謳歌していたことがわかり、「なーんだ。私たちとそう変わらないじゃん。友達になれそう。」とふたりで笑っていました。このガイドツアーを通して、私には、ひとつの発見がありました。ウィリアム・ワーズワースの妹、ドロシー・ワーズワースです。彼女についての記録は少なく、肖像画もないので、どんな人だったよくわからないそうです。ただ、彼女は詩人の兄の片腕として、一緒によく行動をし、歩きにも行っていたことが、唯一残された記録である彼女の日記から読み取れます。まだ女性の地位が低い時代に、ドロシーはよく湖水地方内をひとりで散策をしていたそうです。彼女もまた女性ウォーカーという新たなムーブメントを起こしたひとであり、私たちふたりにとっては、ウォーキングの女神と言えるのではないでしょうか。といくことで、最後記念に私はドロシーが書いた日記本”The Grasmere and Alfoxden Journals”をゲット。なんとジルちゃんは、ワーズワースの詩集をちゃっかり購入していました(その後、ジルちゃん宅のトイレでこの本に再会しました)。ホレ、みたことか。すっかりハマってんじゃん!

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 さて、後半戦。雨は我々の望みとは裏腹に、止むことなくシトシトと降り続けています。もう天気には期待せず、あとは歩いて出発点に戻るのみとグラスミアの目抜き通りを抜けて、大きくUターンするように、来た道とは反対側の湖の辺りを歩き始めました。雨が服にも靴にも染み込んで、二人のメガネも汗と混じって曇り、不快感を通り越して諦めの境地。二人の距離も少しづつ離れ、会話もなくなり、ただただ修行僧のように黙々と歩を進めていきます。でも、不思議と嫌な気持ちにはなりません。ジルちゃんも当初の目的である歩きができて、満足そう。やっぱり、ここは湖水地方。一年の2/3が雨天。降水量は半端ないのだ。しかし、出発点のライダルに戻って来たときには、さすがにクタクタになっていました。さっさと宿に戻り、服を着替え、夕食にタイ料理を食べ、昔ながらの映画館でまったりして、体に温もりを戻していきました。なんだか、学生時代に戻った夜でした。

湖水地方33ワーズワース以外にも、詩人のコールリッジ、画家のタナーなどが多くの芸術家たちがこの辺りに滞在していた

 翌朝、カーテンを開けると、外は眩しいほどピーカンでした。体も心もすっかり洗い流された二人。「帰る日に晴れやがって。待ってろよ、また来るからな!!」と捨て台詞を吐いて、一筋縄ではいかない湖水地方をあとにしました。

30th September 2017, Sat @ Hilltop & Moss Eccles Tarn & Belle Grange, Lake District, Cumbria

参照:
*1 湖水地方案内、ウィリアム・ワーズワス著 小田友弥訳(法政大学出版局 2010)


観光&トレイル情報:
湖水地方国立公園 www.lakedistrict.gov.uk/home
ダヴ・コテージ wordsworth.org.uk


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