英国ブルーベル0

春を探しに森へ行く 英国流お花見とは

 英国の長い冬が明け、暖かさを感じ始める頃、牛舎に閉じ込められていた牛たちが野に放されます。牧草地を猛ダッシュで駆け回りながら、キャッキャッとはしゃぐように、飛んで跳ねる姿は、それはもう、なんとも愛くるしい。でもこの時期、はしゃいでいるのは、牛だけではなく、人間も同じ。

英国ブルーベル1 青い花の海が広がる、春の訪れ

 英国は、日本よりはるか北にあるのにもかかわらず、冬はそれほど厳しくはありません。ただ日照時間が短く、どんより雲と長雨でぬかるんだ大地に挟まれて、何とも憂鬱な気分になります。 ですので、イースターあたりになると、家に引きこもっていた人々が、一気に外へと飛び出していきます。太陽が少しでも照り出しそうものなら、薄着とサンダルで出歩き、公園の芝生で日光浴をし、パブの外でビールを飲む。中には、ビキニ姿になって日焼けしようとする人までいます。冷静沈着で理性ある態度が良しとされる英国人ですが、心の中では浮き足立って、ソワソワ、ワクワクし、今にも弾けそうになっているのが透けてみえるのが、これまたなんとも愛くるしいのです。

 そんな彼ら同様私も家を飛び出して、イングリッシュ・ブルーベルを見に、友人と近所の森へ出かけて行きました。4月末ごろから5月始めにかけて英国南部では、ヒヤシンス科であるブルーベルが開花し、澄んだ青紫色のカーペットが森の中に広がります。まさにその名の通り、ベル状の青い花が頭を垂れるように咲き、日本の春が桜なら、ブルーベルは英国において春の季語になる象徴的な花です。

イングランド東部 ウエスト・バーゴルト

 エセックス州ウエスト・バーゴルト(West Bergholt)にあるブルーベルの森で有名なヒルハウス・ウッド(Hillhouse Wood)に行ってみると、静かな小さな村に突如多くの人たちが次々と現れ、森周辺だけ車が道脇いっぱいに駐車されていました。以前全国紙で取り上げられたこともあり、知る人ぞ知る人気の森のようです。まだ新緑が生えてきていない木々の間からこぼれる淡い太陽の光を受けて、キラキラ輝く花たちが足元から広がっている森は、まるで水辺に立っているかのようです。その中を、なんとなしにブラブラとみんなが歩いています。犬を連れて歩いている老夫婦、昼食前の腹ごしらえも兼ねて森を散策している親子3代。きっとこのあとは、パブでサンデーランチを楽しむのでしょう。イヤフォンをふたりでシェアし、音楽を聞きながら歩いている若者カップル。おしゃべりが止まらない女友達。乳母車を押しながら静かに花を楽しむ夫婦。サイクリングの途中で寄ったであろう家族。森を探検する父と息子。週末のひと時、それぞれが自分たちのスタイルで歩くことを楽しんでいる、英国でしか見ることができない光景に思います。

英国ブルーベル2 親子でどこへ行くのかな?

 日本ではお花見に代表されるように、花を愛でながら宴会やお茶をするのが人気ですが、英国では、花や野生動物、森全体で感じる雰囲気、そしてそこから見渡せる美しい田園風景を、あてもなく歩いて楽しみながら愛でるスタイルが主流です。このような歩きをイギリスではレクリエーション・ウォーク(Recreational Walk)と言います。まさに、Re(再度)creational(創造するような)、身も心も心機一転、リフレッシュするために公園、森、田園、丘、川、海沿いなどをただ歩く。お金もかからず、健康にも良いという点においても、質素な英国人好みなのかもしれません。ただ彼らがすごいのは、そのブラブラ歩きをしたいがために、全国網の目のようにある歩道・フットパス(Footpath)をきちんと整備し、管理していることです。またその道を歩くことを保証するために通行権(Right of Way)を法律で定めています。しかもこの法律を通すまで、ああでもない、こうでもないと話し合いが行われ続けてざっと200年。ここまでの徹底ぶりとしつこさには、脱帽してしまいます。そこまでしても歩きたがる英国人の心理とは・・・?どうやら一筋縄ではいかない深いものがそこには潜んでいるように思います。

英国ブルーベル3 いくつになってもラブラブ♡

 このヒルハウス・ウッドにも、もちろんフットパスが通っていますので、道伝いに歩くことができます。またここはAccess Landにも指定されている森のため、フットパスから外れて、自由に歩き回れる散策権もあるエリアで、好き勝手に歩くことも可能です。とはいえ、最低限のマナーはみなさん守っていました。今後もずっとブルーベルを楽しみたいですもんね。そしてそれらの道を含めたこの森を、森林保護チャリティー団体・森林トラスト(Woodland Trust)と村のボランディアグルーブ・Friends of Hillhouse Wood が管理し、メンテしています。こういった地道な努力に支えられて、英国の歩く文化は発展し、今日も多くの人が訪れることのできる森として存在することを可能にしているんだなと感心しながら、笑顔で歩く人々の姿を私は愛でていました。

17th April 2016, Sun @ Hillhouse wood, West Bergholt, Essex

参考資料: 森林トラスト www.woodlandtrust.org.uk


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