英国歩く文化2020年0

青空とヘリコプター コロナ禍での「歩く」を考える

英国歩く文化2020年1 ロックダウン中、公共施設は、すべて閉鎖となった

 2019年末からのコロナ禍。それに伴い英国では、2020年3月末からロックダウン状態になりました。

 「ああ、どこかへ飛んで行きたい。」

 ド田舎に住んでいる私には、さほど影響もなく生活しているのに、見えない緊張感と閉塞感で押し潰れそうになり、息苦しくなるのです。どこにも行けず、ただただ空を見上げ、籠の中から飛び立ち自由になる鳥の妄想をする日々が続きました。


ロックダウン後のフットパス

 ロックダウン後、英国国内では車や飛行機の交通量が減り、大気汚染が改善され、ロンドンの二酸化窒素(NO2)量は、前年比で40%近くまで減り、全国の騒音が50%減った*1と報告がありました。私の家の周りも、鳥たちの鳴き声が響き渡り、遠くから羊の親子が呼び合う声がはっきりと聞こえてきます。星空はいつもより鮮明に見えるし、フクロウのホーホーと鳴く音が、妙に心を落ち着かせてくれます。そんな自然の癒しで少しでもリフレッシュしたいと、外を散歩したり、サイクリングしたりする人たちが通常の3倍ぐらいになり、フットパスはちょっとした混雑状態。今まで近所を散策したことがないであろう人たちの姿をたくさん見ました。ある友人は、「40年近く住んでいるこの土地で、今まで一度も歩いたことがなかったフットパスがあったけれど、今回初めて歩くことができたよ」と言っていました。

英国歩く文化2020年2 コロナ禍で、医療従事者に対する敬意と配慮が重視され始めた

 YouGov pollによるとロックダウン中74%のひとが、何らかの運動したと答えており、そのうち女性は10人中6人、男性は半数がウォーキングを選択したとのデータ*2があります。自分の周りにある自然は、人間にとっての非常事態とは無関係に、何事もなく進んでいくことに安心すると共に、人間だけがあたふたして置いてけぼり状態で、思わず苦笑いしてしまいます。それでも、みなが近所を散歩する姿は、先行きが不透明な今、何かを変そうな予感がして、微かな希望の光ように映ります。今課題になっているソーシャルディスタンスが、ただ感染予防という点だけでなく、今後人と人とのの関わり方と距離間を変え、人々がもっと外へと出て行く機会が増えそうな予感がします。

英国歩く文化2020年3 心身の健康保持とソーシャルティスタンスのため、ウォーキング、サイクリングをするひとが、圧倒的に増えた


私たちを影で支えている人たちを想う

英国歩く文化2020年4 ヘリコプターだけはロックダウン中も頻繁に飛行していた

 そんな静かな空を見上げながら散歩していると、突然爆音が平穏を切り裂くかのように、ヘリコプターの姿が現れます。自宅近くには、ヘリ工場があり、基地もあるため、よく飛行していくのです。ロックダウン中でも、多い時には1日20機ぐらい飛んでいきました。飛び越していくヘリの姿を、私は無意識に毎回目で追いかけてしまいます。18歳の夏、山小屋で1ヶ月住込みでバイトをしたことがあり、ヘリが物資を運んだり、人命救助にあたる姿をよく見ていました。そのため、ヘリはライフラインであり、最前線で戦うものと私の脳みそに刷り込まれてしまっているのです。誰かの命を守るため、日夜私たちの健康と安全な生活を守るために、飛んで助けに行くヘリを眺めながら、感謝の気持ちと共に、私はこんな能天気にしていていいのだろうかと、複雑な気持ちになります。今回のパンデミック下では、財力、権力、テクノロジーがそれほど役に立たず、近年社会からぞんざいに扱われてきた、医療、福祉、食品小売業、物流、第一産業など生活の基本となるものが、一番大切なんだと思い知らされました。どれだけの人たちが影から支えてくれていて、私たちの当たり前を成立させているのか、改めて考える必要に迫られているように感じます。

英国歩く文化2020年5 医療従事者に感謝の印として、子供達が描いた虹の絵を窓に貼っているのが、そこら中で見受けられた

英国歩く文化2020年6 近所の子供達の虹アートに感化されて、私も前庭に色付けした柳と羊の毛で虹を作ってみた


アウトドアスポーツは、危機管理能力を上げる

 私がここで書いている「歩き」を含めたアウトドアスポーツも、高揚感、癒し、達成感を求め楽しむ遊びではありますが、一歩間違えれば、ケガや遭難事故で悪夢となりかねない、紙一重の細い線を綱渡りしているようなもの。そんな遊びを実現させてくれ、少しでも安全で楽しめるよう、見えなところで守り続けている人たちがいます。器具調達、ルート確保と整備、食事やトイレ、情報提供(地図・天気・ルートなど)、宿泊施設、万が一の時には救助など、実に多くの助けが必要となるわけですが、それらをサポートしてくださる方々の功績は表には出てきません。私のような凡人のぶらぶら歩きですら同じで、どれほどの支えがあって、無事に行えることができているのか、歩く旅ができない今だからこそ、振り返り思うのです。そして、そんな彼らに何か少しでも恩返しをしたいと思った時、自分に何ができるのか考えていくと、「危機管理」という言葉にあたりました。もちろん、ボランティア活動や寄付などで直接奉仕することも素晴らしいと思いますが、まずはその人たちの努力を無駄にしないように、ひとりひとりのアウトドアスポーツでの危機管理能力をもっと高め、行動することが、最低限必要だと考えます。なぜなら、場合によっては、自分の遊びによって、彼らに大きな負担をかけ、最悪命を奪うことにもなりなねない。リクスをすべて回避できずども、下げる努力は常に忘れてはいけないなと思います。

 また、今回のパンデミックを含めた災害は、いつ起こるのか予測はできません。せめてできることは、災害などが起きた後に、周りにいる人間と協力して多くの人命を救助し、減災に努め、心身共々安定した生活へ戻せるかが重要であり、それしかコントロールできないのが、人間の限界だと思います。「想定外」のことが起こるのは、想定内なんじゃないかと。1995年に起きた阪神淡路大震災の時に「救出してくれた人は誰か」という調査で、自力が35%、家族に32%、友人・隣人28%、通行人2%、これらを自助、共助と呼び、合わせると97%となります。それに対し警察や自衛隊などの緊急時の救助を業務としている組織による助けは、公助と呼ばれ、それはわずか2%という結果*3がでています。災害が大きければ、公助には限界があり、政府や自治体に頼っていては命は救えず、自分たちで何とかしなくてはならない。今回のコロナ禍でも、改めて確信しました。それに、危機とは災害だけでなく、個人の日常生活上でも、いつ何時でも起こりえるものです。そのためにも、日頃から「危機管理」のトレーニングをしておく必要があるということだと思います。それができる場は、予測不可能な自然を相手にするアウトドアスポーツなのではと、素人の直感レベルですが、感じています。

英国歩く文化2020年7


自然災害大国日本が、世界にできること

英国歩く文化2020年8 ピーク・ティストリクトでのトレラン大会にて、緊急時のために待機していたチャリティー団体、Mountain Rescue England and Walesのスタッフ。彼らのような人たちの助けを忘れずにいたい

 そしてさらに図々しい主婦の私は、日本こそが危機管理能力向上トレーニングの最適な場となり、世界をリードしていける可能性があるのではと、勝手に大きな絵を想像しています。なぜなら、日本は世界有数の自然災害大国だからです。それを自慢することではありませんが、日本の自然、社会、そして文化は、この自然災害に良くも悪くも大きな影響を受けて成り立っている以上、それを一つの特徴とし、その経験値を生かして、リスク、そしてクライシスマネージメントの点から世界に貢献する役割があるように感じます。例えば、東北被災三県に2019年にオープンしたみちのく潮風トレイルのような、災害をひとつのテーマとして織り込むアウトドアスポーツやツーリズムによって、被災地を訪れ、経験談を聞き、今そこで生きていこうとしている人たちと交流することひとつとっても、危機管理意識の啓蒙活動に繋がるような気がします。トレイルのような歩く旅の醍醐味のひとつは、自分、他人、そして人と自然の見えない繋がりを日常を離れてじっくりと再確認することです。それは、危機管理を考える上で大事なベースにもなりえます。

英国歩く文化2020年9 7月14日に行われたWorld Trails Network代表ガレオ・セインツ氏のネット公開インタビューの様子

 ということで、私のような素人は、まず読図、ナビゲーション能力、応急処置法、ケガをしない体力づくりあたりから、危機管理能力アップを始めてみようと思います。そして、歩きまくる。歩くことは、災害避難の基本です。先日World Trails Network代表のガレオ・セインツ氏の公開インタビューがネット上で行われ*4、今回のパンデミックによる災害や自然災害の観点からも、安全で楽しめる歩く場がさらに求められるようになり、今後の街づくりにも大きな影響を与えると言っていました。

 ということで、まず歩こう!!影にいる人々に感謝しながら・・・。

* World Trails Networkが、新型コロナウィルス下でのトレイル利用と運営についてのガイドラインを世界に向けて発表しました。ぜひ参考にしてみてください。
Covid-19 and Trails Guidelines For Trail User Safety and Trail Protection


参照:
*1 British Geological Survey Press Release, 9th April, 2020
*2 YouGov, Changing consumer landscape:  Sports, dieting, and exercise, 21st May, 2020
*3 日本火災学会、1995年兵庫南部地震における火災に関する調査報告書
*4 World Trails Network Chair – Galeo Saintz, webinar interview with the Abraham Path Initiative, 14th July, 2020


掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2021
No Comments

Sorry, the comment form is closed at this time.