環境マニフェスト0

チャリティー団体と総選挙2017年

 「2017年総選挙、与党の保守党は過半数を獲得できず、宙ぶらりんの「ハング・パーラメント」。求心力を弱めたメイ首相、EU離脱交渉がますます困難に。」

 6月8日(木)、英国下院議会・解散総選挙が行われた翌日、英国国内に激震が走りました。日本を含む世界へもこのニュースは流れ、去年行われたEU離脱を問う国民投票以来の注目を浴びました。市民権保持者ではない私には選挙権がないため、いち住民として、またある意味傍観者として、ことの成り行きを見守ってきました。そんな中、総選挙に絡んで、チャリティー団体の動きが活発になり、ちょっと気になりました。SNS上には、景観・自然保護団体、スポーツ・レクリエーション推進団体が、国政選挙に向けて、どんなアピールや政策提言ができるのか、団体が関心を寄せている諸問題を各党がどう解決していこうとしているかなど、連日フィードに投稿されていきました。

環境マニフェスト1 選挙運動期間中、連日私のフェイスブックのフィードには、チャリティー団体から選挙関連の投稿が・・・。© CPRE

 私の勝手な思い込みですが、チャリティー(慈善団体)やNPO団体と聞くと、政治とは別枠、中立な立場で国がカバーできない部分を補い、市民のために活動をしているイメージがあったのですが、どうやらそうでもないようです。雇用、医療、難民、貧困、差別など国民ひとりひとりに直接関わることで、各党のマニフェストの焦点となる分野ならともかく、ウォーキング、サイクリング、乗馬などの、自然、スポーツ、レクリエーション、観光といった遊びは、生活に絶対になくてはならないものとは言い切れない(もちろん、必要だと思う方も多々いらっしゃいますが・・・)、政治とは別ものでは?これらの遊びは、もとは英国貴族から始まっており、生活(または心)に余裕がある人々が考えることなんだと、どこかで思っていました。地方や地域ベースだけでなく、国政レベルまでキャンペーンを展開するのは、やはりチャリティー大国ならではのことなのでしょうか。欧州でのチャリティーは、キリスト教の教えに基づく教会から起きた活動が元のようで、政治に関与することに、政教分離ではないけれど、なんとなく違和感があるのですが、国教がある英国は、日本とは状況が違うのかもしれません。毎日フィードに、絶え間なくアップされる投稿に 「こうゆうこと、するんだ・・・」とちょっと戸惑っていました。例えば、各団体の主張は、こんな感じです。


The Wildlife Trust(野生動物保護団体)

 自然を保護することは、自然の一部である人間を保護することである。我々は多くの野生動植物を守り、自然をもっと身近なものとするべきと考える。環境保護に関する規制は、現在EUベースで行われており、離脱後、独自の環境保護法を制定し、世界をリードする目標の高いものにする必要がある。また、海上の自然保護区をいち早く定めるべき。

 自分たちの選挙区の候補たちに、自然保護がどれだけ大切なのか、どのような保護活動を考えいるのか、話を聞きに行くよう勧める。理事長によるビデオメッセージも紹介。

環境マニフェスト2 ザ・ワイルドライフ・トラストのウェブサイトより。政策提言と理事長からのビデオメッセージが掲載されている。© The Wildlife Trust

Sustrans(サイクリング推進団体)

 我々は、よりよいサイクリング環境を作るために、他のサイクリング、ウォーキング推進団体と組んで、それぞれの政党に、3つの提言をする。

a)新しい大気汚染防止法の制定。毎年約4万人が大気汚染により死亡しており、全国の道路80%は、基準値をはるかに超える汚染度である。ディーゼル車の排気ガス規制、サイクリングやウォーキングを推進、排出ゼロへシフトできるような仕組みを強化するべき。特に離脱後も、継続してこれらの問題を解決できるような法整備が必要。

b)サイクリストや歩行者が安全な道を利用できるよう、道路整備の予算を、主に高速道路へ使うのではなく、地方道に使うべき。一マイルにつき、2万7千ポンドを投資するれば、イングランドの97%の地方道が整備される。(*高速道路は、一マイルにつき、110万ポンド。イングランド全体の3%の道しか整備されない)。

c)サイクリングやウォーキングを推進するために、予算をもっと割くべき。それにより、国民の健康向上、公共交通費の値下げ、商店街の活性化、大気汚染減少などの効果が見込まれ、最終的に大きな財政削減対策になりえる。

環境マニフェスト3 サストランズのウェブサイトより。車ではなく、持続可能な交通手段の利用を推進する団体。彼らの政府への要望は、かなり野心的。© sustrans

Living Streets(街における歩行者を守る団体)

 上記のSustransと組んで、キャンペーン活動をしている。3つの提言を、各政党がどのようにマニフェスト上で提言しているのか、比較したリストを公開。また、政権を握った政党が、きちんと提言通りに3つのポイントを実行するか、常に監視していこうと訴える。

環境マニフェスト4 リビンク・ストリートのウェブサイトより。サストランズと共同キャンペーンを展開中。それぞれの政党は、彼らの関心事をマニフェスト上で、どう提示しているのか、比較している © Living Streets

CPRE – Campaign to Protect Rural England(イングランド地方保護団体)

 総選挙に向けた団体独自のマニフェスト ”Stand up for the Countryside” を発表。

環境マニフェスト5 CPRE のマニフェスト。各政党が発表する前に、すでにリリースされていた © CPRE

 美しい田舎を守り、よりよいものにするということは、地方経済に大きく貢献することであり、人々の生活向上につながり、個人や地域のアイデンティティを確立するものである。これらのことを次世代に残すべき以下の提言をする。

1)緑地帯、国立公園、AONB(英国版国定公園)をより積極的に守る。特に近年の住宅開拓からこれらを守る必要がある。

2)財政面だけで農業、環境をサポートするのではなく、地産地消を推進することで、安全な食を国内で生産し、美しい景観を残し、レクリエーションの機会を増やし、地方経済を潤す、新たな補助金システムが必要。

3)財政を主要道中心とする公共事業ばかりに投資するのではなく、持続可能な社会を形成するために、鉄道やバスなどの公共交通機関の充実、サイクリングやウォーキングによる移動を可能にする環境作りが必要。

4)ゴミ処理による公害対策の強化。リサイクル環境をさらに良くし、美しい自然を守る。

5)EU離脱後も、現EU環境法を継続できるよう、そのまま国内法へ移行し、新たに強固な環境法を制定するべき。


The Ramblers:(ウォーキング推進・環境保護団体)

環境マニフェスト6 ランブラーズのマニフェスト。チャリティー団体が、政党顔負けのマニフェストを制作 © Ramblers

 総選挙に向けた団体独自のマニフェスト”Manifesto for a Walking Britain”を発表。

1)EU離脱に伴い、政府は農産業への投資を保証し、カントリーサイドへのアクセスを改善するべき。アクセス権(通行権含む)があるエリアを規定通りに管理している農家へは報酬を与え、逆に満たない農家へは、補助金を減らすシステムを提案。

2)国民の健康問題は、ますます深刻になり、財政面でも大きな負担となっている。歩くことは、人が心身ともに健康になる最適の方法である。それを実行するために、予算を確保し、歩ける環境整備と医療機関と連携ができるシステムを構築するべき。

3)都市は、車移動をベースにデザインされており、自転車や歩行者がより安全で、緑を楽しめるような環境にするべきである。次期政権には、国民すべてが、自宅から徒歩10分以内に緑地へ辿り着けるような環境作りを求める。

4)ナショナル・トレイル存続の保証。前政権は、2020年までにイングランドすべての海岸線を歩けるようトレイル整備への予算投入を約束。次期政権でも継続されるよう保証が必要。また、他のナショナル・トレイルが、長期存続できるような保全・管理体制を求む。

 上記のマニフェスト発表以外にも、”General Election 2017 Hustings Guide”として、選挙運動中の候補者に、どのように話をしに行くのか、どこで候補者による集会が開催されているのか、実際の集会でどのようなことを聞いたらいいのか、選挙後当選した国家議員をグルーブ・ウォーキングにどう招待するのかなど、具体的なアドバイスをしている。

環境マニフェスト7車、自転車、歩行者が、道をどう安全に共用できるのか、問われている

 ざっと、ランぶら歩きする環境を保護している代表的な団体が、選挙中提示した内容です。かなり積極的で、限られた国家予算をどれだけ自分たちの活動目的に役立てるか、法を制定できるか、非常に政治的な面が見えてきます。ただ、倫理的な気持ちベースでアピールするのではなく、多くのデータに基づいた政策提言であり、自分たちの利益ではなく、政府や国民にとっての利益のためにというスタンスは、絶対に外してはいません。また、具体的にどこの政党、候補者を支持しているということはありません。あくまでも団体のポリシーを表明し、それぞれの政党の考えを比較し、その情報を国民に公開することで、判断基準のひとつにしてもらおうとしています。もちろん、EUの厳しい規制に不満を持つ農家を筆頭にこれらの提言に反対する人々もいますし、アウトドア愛好家の中でも、政治色が強すぎるキャンペーンを嫌う人達もいます。ただ、環境を守るということは、自分の周りだけの問題ではなく、国全体、または欧州、果ては地球全体で考え、取り組まなくてはならない。自然現象に国境はない。その考えをベースに全EU加盟国が今まで協力して行ってきた環境保護が、英国EU離脱により、大きく変化するかもしれない。行き先の見えない不安が、一層これらの団体の声が上がる理由かと感じます。

環境マニフェスト8ロンドンでは、オリンピックを機に貸自転車をあらゆる場所に設置した

 自然保護やレクリエーションを楽しむために、政治の場面でも、イケイケで押し捲る、ガンガンプレッシャーをかけて、自分たちの目的を達成するアグレッシブさは、私には新鮮に映ると共に、どことなく感覚で理解できない部分があります。のどかな美しい田舎、森林浴でやさしい癒し、豊かな自然の恵みといった日本人が持つ、のんびりソフトな静のイメージからは想像しにくいものなのかもしれません。ただこの行動は、英国人(欧州人)特有の自然観からくるものと片付けられず、19世紀に起こった産業革命により、ほとんどの自然と多くの歴史的建造物を失い、公害による健康への悪影響で苦しんできた経験があるからこそ、ここまでのモチベーションを保てるのではと感じます。何かを失った人たちが持つ強い気持ちは、石のように硬い。今回は、ちょっと違う角度から英国政治を追う、私にとってそんな総選挙になりました。

環境マニフェスト9 選挙期間中のランブラーズ・ウェブサイト、2017年総選挙ページより © Ramblers


参考資料(総選挙関連ウェブサイトページ):
The Wildlife Trust
www.wildlifetrusts.org/GE2017
Sustrans
www.sustrans.org.uk/blog/general-election-2017-sustrans-cycling-and-walking-manifesto-asks
Living Streets
www.livingstreets.org.uk/what-you-can-do/blog/general-election-where-the-parties-stand-on-walking
CPRE
www.cpre.org.uk/local-group-resources/item/4595-general-election-resources-for-branches
The Ramblers
www.ramblers.org.uk/policy/vote-for-walking-manifesto.aspx


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