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歩くことが好きでたまらない英国人たち  ここ10年、世界中で「歩く」ことが再注目されています。デジタル革命により、価値観や生活スタイルが大きく変化する中、時間と情報に追われ続ける人々が、このもっともプリミティブでアナログな行為に、ある意味救いを求めているように見受けられます。この新たなムーブメント、実は昔にも同じようなことが起こっています。18世紀後半、産業革命の時代です。そして、そこから200年以上の月日をかけて現在にいたるまで「歩く」ことに並ならぬ情熱を持ち、一大文化までに発展させた国があります。それが、今私が住んでいる英国です。私は、たまたま英国人男性と結婚して、英国の田舎に住んで15年になります。住み始めてある日、「いつでもどこでも散歩している人が多いな」と気づき、「これは、なんなんだろう?」と疑問を持つようになり、日々観察してきました。今回は、いち日本人主婦の私が、彼らにとっての日常生活上でのウォーキング、「散歩文化」について、お伝えしたいと思います。  ここにひとつ、興味深いデータがあります。日本観光庁の2019年訪日外国人消費動向調査で、一般客一人当たり旅行支出を費目別にみると、中国の方々の買物代、5万3千円が最も高いです。ただ、 宿泊費は、英国がもっとも高く10万3千364円。飲食費、娯楽等のサービス費も、英国人が一番消費しています。訪問者数は、中国などのアジアに比べると圧倒的に少ないにもかからず、日本にかなりお金を落としてくれていっている、ありがたい国であることがわかります。では、彼らは日本でお金を使って何をしているのか。Experience=体験です。何かモノを買って得るのではなく、日本という東方のミステリアスな島国に滞在して、見て、聞いて、触って、食して、日本文化とは何か、日本人がどんな生活をしているのか、自分の体を通して理解を深めていこうとする体験型の旅です。それには、どんなスタイルの旅を彼らは好むのか・・・。すばり歩く旅です。  そんな英国には、大きく分けて2つのウォーキング文化があることを、ご存知でしょうか?ひとつは、日本でも慣れ親しみのあるアルピニズム。登山をメインとした、スポーツ要素満載の歩き。登頂、成功、制覇、踏破、達成という言葉が聞こえてくる、大きな目標、目的がある歩きです。もうひとつは、目的がまったくない野山歩き、ただ軽くその辺りをウォーキングするスタイル。つまり散歩です。とにかく彼らは、しょっちゅう散歩をしています。Sport England Active Livesによると、2019年、イングランドでは、週に2回以上、散歩するひとが1千9百60万人。人口比率でいうと35パーセント。この数字は、日常生活での歩きのみで、旅行や登山などの歩きは、含まれていません。しかも、去年一年で50万人増えたそうです。スコットランドでは、Sports Scotlandが2018年に調べたところ、人口の68パーセントが30分以上のレクリエーション歩きをしていると答えています。今ちょっとした散歩ブームです。世界の散歩人口の比較データがあるのかわかりませんが、英国は多分世界で一番散歩する国だと思われます。  では、その彼らの散歩、どんなものかといいますと、ガンガン歩きまくる・・・といったアルピニズム的なものとはまったく違い、ぷらぷら、ぶらぶら、ふらふら家の近くや旅行先で歩きます。散歩や散策をしていると日本語では言えるのですが、ちょっとニュアンスが違うように、私は感じます。彼らは、歩いてどこかへ行こうとか、歩くことで何かを得ようとか、はっきりとした目的はなく、彼らは、ただただ、街中や、自然の中を歩いているんです。頑張って歩こうとは一切思っていない。散歩に飽きたら、家に帰るし、途中で疲れたら、パブに寄って飲んでしまう。物見遊山という言葉が一番彼らの散歩スタイルに近いかもしれません。彼らは、歩くプロセスそのものを大切にしているようです。 英国を代表するナショナル・トレイルの一つ、サウス・ウエスト・コースト・パス  そのためでしょうか、英語で歩くを意味を指す単語、みなさんに馴染みのあるWalking Hiking Trekking以外に、Strolling, Roaming, Wandering, Ambling, Rambling, Scrambling, Stamping, Hillwalking, Fellwalking, Bushwalking, Tramping, Puttering, Sauntering, Mooching, Meandering, Moseying などなど、たくさんあります。意味は、それぞれ微妙に違いますが、ざっくり言うと歩くという意味になります。それだけ、彼らが歩くという行為に関心を寄せている。日常的な行為であり、意識を高く持っていることが、単語の数ひとつとっても、言えるのではないでしょうか。  そんな英国の散歩は、具体的にどんな感じか。まず、私の体験をお話しします。私が15年前に主人と結婚して英国に住み始めた頃、犬を飼いました。ジャックラッセルテリアという、小さい体にターボエンジンを兼ね備えた、エネルギッシュな犬です。そのため、毎日しっかり散歩に連れて行かなくてはならない。そこで、主人と一緒に散歩に行くようになったわけですが、私も日本で犬を飼っていたので、犬の散歩には慣れていました。ただ、毎日毎日主人と歩きに行くごとに、なんだか、今まで私が体験してきた犬の散歩とは、違うのです。まず、近所の原っぱ、農地、森、丘や川の岸辺など、毎日違うエリアへ家から車で行く。そこに到着するなり、日本で馴染みのかっこいいウォーキングブーツではなく、深緑のゴム製の長靴に履きかえる。そして犬をリードから放ち、犬も人間も歩きたい方向に勝手に歩いて行くのです。例えば、日本人の私は躊躇してしまう、膝ぐらいまで伸びた麦畑のど真ん中を、突っ切っていったり、放牧されている羊がいる中を平気で歩いたり。時には、人様の庭に入って行ったりするのです。これには、驚きました。しかも、長靴は、夏には、蒸れるし、冬になるとは、泥だらけになるし、歩きにくい。さらに、仕事がどんなに忙しくても、一回に最低45分、長い時は2時間ぐらい犬の散歩に、毎日行きます。天気もまったく気にしない。「今日は、寒いし雨も強そうだよ」と長い散歩やめようと提案する私に、「へっ、それがどうしたの?」とかまわず、主人はどんどん歩いていってしまう。「このダサくて、チープな散歩は、なんなんだ?」と。ヨーロッパでは、もっとオシャレに犬と歩くイメージがあった私ですから、戸惑いました。「へんなひとと、結婚したんだ」と思っていたら、彼の家族も全く同じことをしている。「今日はどこかへ飛ばされるぐらい、すごい風ねぇ」とか、「暑くて、汗だくになりそう」といいながら、義理の両親も、毎日ぶらぶら歩きに出かける。そんなこと言うなら、行かなきゃないいのにと、鬼嫁の私は思うのですが・・・。「変わった家族なんだな」と納得しようとしていたとき、ふっと気づいたら、そうゆう変人たちが、大勢外を歩いていたんです。これは、ただごとではないぞと思いました。そこから、英国のウォーキング文化に興味を持ち始めたのです。 歩く行為が文化へと発展する  この文化がどこからきたのか、多くの研究者が語っていますが、私は、やはり彼らが狩猟民族であることが、大きいのではないかと考えます。英国人は、中世からハンティング、シューティング、フィッシングといった野外で遊ぶことを楽しんできました。特に王族、貴族がこれらをレクリエーションとして、発展させてきた。散歩も昔は、お金と時間が有り余っている上流階級のすることでした。英国において、スポーツと言う言葉の概念は、この「遊び」からきている。日本では、わざわざアウトドアスポーツといいますが、彼らの感覚としては、スポーツのベースには、「野外でアクティビティをする。思いっきり遊ぶ。」楽しいイメージが根本にあるように思います。そして、18世紀末ごろに起こった産業革命により、その野外活動が一気に一般に広がり、労働者階級のひとたちも、過酷な仕事や生活環境からリフレッシュしたいと強い思いを持ち始め、自然のある場へと足を運び、それが一大ブームになっていきました。彼らにとって、歩くことが、ただの交通手段から、レクリエーションになったわけです。そしてスポーツの概念もコンペティション、フィットネスといった要素が加わったことで、歩く文化が、ひとつは、アルピニズムへと発展していった。その一方で、昔貴族がおこなっていた、ぶらぶら歩く散歩も、気軽に自然と触れ合えるということで、同時に独自の発展をしてきて、今にいたる。英国の面白いところは、両方を究極までに発展させたことです。これは、他のヨーロッパではない特徴です。  ただ、「歩るいてリフレッシュしたい」というマインドだけでは、散歩文化は発展しません。歩ける場所が必要となります。彼らは、行動に出ます。それが、今まで通勤、通学などで使用していた歩行者専用道路フットパスを、レクリエーション用途に使えるようシステムを変えようと努力します。そして、戦後まもなくPublic Right of Way通行権を法で保証し、全国で登録されているフットパスを守れるようにしたのです。現在、このフットパスが、英国全国津々浦々、毛細血管のようにあります。イングランドとウェールズにある全フットパスを合わせると、約22万キロ。 スコットランドは、約1万6600キロ。まだ登録が完了していない歩道もありますので、今後さらに伸びると思われます。合計すると、だいたい地球を、軽く6周できるぐらいの距離になります。  今日では、先人のおかげで、地元の人々が、それぞれのスタイルで、フットパスを利用しているわけです。そのフットパスを繋げて、長距離トレイル(彼らはレクリエーショントレイルと呼びます)を作り、内外から人々が歩きにきています。ただ、あくまでも、すべてフットパスがベースになっている。長距離トレイルをわざわざ作ってはいません。そして、そのフットパスを地元の人が歩くからこそ、フットパスが残り続ける。長距離トレイルは、それの延長線上に存在しているだけなのです。必要とあれば、地元の人々で道のメンテナンスをする。イギリスはチャリティー大国ですから、彼らの力も借りる。ただ、ベースにあるのは、人がコンスタントに歩かなければ、どんなにりっぱな道でも、消えていくということです。メンテだけでは、だめなようです。 家族全員で散歩する姿は、英国でよく見る光景  さらに、限定されてはいますが、道によっては、トレランを含めたランナー、サイクリスト、乗馬、車いす、ベビーカーなども通ることができます。みんなで、道をシェアし、アウトドアの楽しみを共有しあっているわけです。そのあたりは、みな平等にと考える、英国らしさがあります。例えば冬、馬が通過したあとの道は、凸凹になり、ぬかるみ、馬糞が落ちています。でも、誰も文句は言いません。犬のフンは、家畜や野生動物の健康への悪影響を考え、きちんと持ち帰るよう、厳しく取り締まっていますが、馬糞は害がないので、いいそうです。田舎では、車道にも落ちていますが、誰も気にしない。放牧地も同じです。牛や羊の糞がそこら中にありますが、みな平気で歩いている。靴に付けば、あとで洗い流せばいい、もしくは、その靴を外においておく。その点では、おおらかなんです。田舎のパブでも長靴姿は、普通です。ただし、長靴オッケーのパブも、泥はきちんと落としてから。その辺のエチケットはあるようです。  そんな彼らの歩く格好も、まちまち。アウトドアギアやハンティングブランドの服で、ビシッと決めた人もいれば、その辺のスーパーで買ってきた長靴とウェアで歩く人もいます。背負ってるリュックも何かの景品で当たったかのような、ヨレヨレなものだったりもします。私の住んでいるところは、ヒッピーも多いので、裸足で歩いているひとも見かけます。ハロウィンやクリスマス近くだと、仮装して歩いているひともいます。千差万別。なんでもあり。こだわりがない。そして、法律で定められた歩く上での最低限のルールさえ守っていれば、誰も何も言わないし、気にしない。むしろお互いを干渉し合わないよう、ある一定の距離を保っている。プライバシーを尊重するひとたちです。  また、英国人の犬好きは知られていると思いますが、犬も多種多様。世界中の犬種が集まっているのではないでしょうか。とにかく、彼らは昔からハンティングバディーとして、犬と共に生きてきましたら、犬の散歩で歩く人は多いです。人間も、犬ものびのび歩いていて、実に楽しそう。そして、そのままパブに犬も一緒に行ってしまうのです。私の家の近所に、丘の上にある眺めのよいパブがあります。夏の昼間は地元の人と観光客でいっぱいになります。大人たちに連れられた子供と犬たちでごった返しています。きっと散歩ついでに寄ったひと、これから歩く前にランチと思っているひとたちです。馬で来る人もいて、芝生で馬が休んでいる時もあります。日本人の私は、驚きと共に、すごく平和な時間がすぎていて、幸せな気持ちになります。特に、EU離脱問題で揺れている英国で、こうゆう光景を見ると、少し希望が見えてきます。 英国散歩を充実させるツール  このような自由な歩きを可能する重要なアイテムのひとつが、地図です。自由といっても、どこでも歩いていいわけではありません。先ほど述べたようにフットパスを歩くことが、原則です。そのフットパスがどこにあるのか一発でわかるのが、英国陸地測量部が出している地図、OS Mapです。一番メジャーなのがExploreシリーズの2万5千分の1地図で全国を網羅していて、全部で403冊あります。この地図に、緑の点線ですべてのフットパスが表示されているので、どこを歩いていいのか、すぐにわかります。最近はスマフォなどのデジタル版も充実していて、紙とスマフォを両方を使って出かける人が多いです。読図が得意でない私のような素人でも、簡単に道がわかります。この地図は、マストアイテムです。だからでしょうか、このOS Mapに馴れ親しんでいる彼らが、海外に歩きに行くと、ちゃんとした地図がないことをよく嘆いているのを聞きます。 犬は英国ウォーカーたちの良い仲間  それだけ歩くことにパッションを注ぐ国民性ですから、ウォーキングに関する情報も充実しています。ガイドブックやウォーキング専門雑誌はもちろん、一般紙の日曜版の中にあるトラベルセクションには、内外のウォーキング体験の記事や情報が、ほぼ毎週掲載されています。全国紙だけではなく、地方紙、または地方自治会や町内会で出版している〇〇お便り的な新聞まで、おすすめウォーキング情報とフットパスの整備状況が必ず載っています。そして、観光案内所に行けば、〇〇Walkという散歩レベルから本格的ハイキングコース案内がありますし、ガイドウォークも盛んです。宿泊するホテルやB&B(英国版民宿)には、宿泊施設ご利用案内のファイル内に、施設利用の際のルール等の記載とともに、必ず周辺のフットパス、お奨めウォーキング情報が入っています。そのため、地元民だけではなく、必ずそこを訪れた人々にも、歩いてもらえるのです。 森の地図と動植物の情報を読んでいる親子  はじめに英国人は、ぶらぶら歩いていると書きましたが、ただボーと歩いてるわけではありません。彼らは、地元に関することをよく知っていますし、大変興味を持っています。あの植物がどうしてそこに咲いているのか、なぜあの石が鎮座しているのか、この教会は誰が建てたのかなどなど・・・。お硬く言えば、 地学、自然科学・人文地理学、歴史学、文化人類学、生物学、エコロジー、園芸、芸術など、自分の住んでいる地域を熟知しています。特に、歩くことが好きな人々(きっとその方々が日本へ歩く旅に来られるターゲット)には、それが当たり前のようです。これは、子供の頃からの学校教育の影響もあると思います。そして、歩いている間にそういったものをよく観察する。つまり、ひとりひとりが、それぞれフィールドワークしている。そして、それらについて、家族、友人、近所の人々、時には初めて会ったひととよく話をしています。暮らし始めた頃、私は「つまんない話だな〜」と退屈していましたが、これがのちのち、どれほど英国人にとって重要なことなのか、私は理解していくのです。これを密かに「半径2キロ圏内トーク」と私は言っています。この彼らの大事な社交が道でも、バプでも、家でも、スーパーでも、年がら年中、行なわれているのです。そして、彼らが旅行先でも求めるものが、そのフィールドワークのような体験型歩きなのです。己を知っているから、他人を知ることができる。海外も含め、旅行先で、自分の住んでいる地元の「 半径2キロ圏内」と、今自分が立っている地の「 半径2キロ圏内」とどう違うのか、比較して楽しむ。いつも興味津々です。この記事を読んでいる人の中には、ガイドの方々もいらっしゃるかと思いますが、欧米人たちをガイドする場合、もちろん英語を話せればビジネスは広がっていきますが、さらに連れて行く先々の地形、地質、歴史、動植物、建築、風土、地場産業などの知識があると、彼らから絶大な信頼を寄せられること、間違いないです。彼らは、そのあたりを、ガイドに求めてくると思います。 日本のトレイル文化の可能性  英国には生活に根ざしたウォーキング文化、散歩が全国どこでも行われいる唯一の国といっても過言ではありません。同じ島国の日本とは、西と東とで大きな違いがありますが、コンパクト、歴史が長い、自然愛が強い、独自の文化が発展、大陸国に対するプライド、古いものを大切にする、国立公園のあり方など多くの共通点もあります。この生活に根ざしたウォーキングは、日本でも大いに参考になるのではないかと考え、今回この記事を書かせていただきました。  日本は、英国以上に、とても豊かな自然と文化があるユニークな国であり、トレイルにおいても、ポテンシャルはかなり高いです。最近日本では、散歩関連の書籍やテレビ番組が人気を博ていると聞きました。ただ、歩くブームも一時的なものではなく、日本独自のトレイル文化へと発展できるよう、みなで知恵を出し合う必要があると思います。それには、それそうの時間がかかることを覚悟しなくてはなりません。英国でも、200年はかかっています。そのため、代々継いでいく人たちを育てるのは、重要です。そして、国内外からのトレイル利用者から学び、ハイブリットな歩く文化作りが必要だと考えます。それには、まずトレイルを管理している人たち、地元の人たちが、それぞれのトレイルをよく知ること。サポートだけでなく、自分たちでトレイルを歩き続け、常に状況を把握し、そして何よりもトレイル愛を育てて欲しいです。そうすれば、自然とひとびとが歩きに来たくなるトレイルになると思います。  新型コロナウィルスで、今世界は混乱状況にあり、この原稿を書いている時点では、今年の東京オリンピックが開催できるのかは、まだわかりません。開催できたとしても、インバウンドの波は、予測していたものより、かなり穏やかなものになるかもしれません。ただ、日本のトレイルが消えるわけではありません。また、世界中の日本を歩きたいと思う気持ちは、変わることはありません。すこし予定より時間がかかるかもしれませんが、きっとみなさんが歩きに来るはずです。  そこかしこで自粛ムードが拡大し、閉塞感と先行き不透明感によるストレスで、せっかくの春を迎えるのに、悶々とした雰囲気が漂っています。こんな時こそ、お金をかけず、手軽にでき、ウィルス感染のリスクも低い「散歩」で、リフレッシュするのは、ひとつのアイデアかもしれません。まずは、自分たちの身近なところから、歩いてみませんか。歩くことが、トレイル作りの基本ですから・・・。 【この記事は、安藤百福記念 2019年度事業報告書に(35から42ページ目)『英国人の散歩に見る「歩く文化」〜いち日本人主婦が見た英国流ウォーキング〜』として掲載されました。】 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2021...

路線バスを観光客に利用してもらおうと、二階をオープンにしたり、看板で情報をわかりやすく表示したりと、一生懸命工夫している様子がうかがえる *一日目は、こちら >>  二日目: 今日も長崎・・・、いやいや湖水地方は、雨だった〜♪ あちゃー、朝から本降りです。のちのち晴れる様子もないぶ厚い雨雲。今日も濡れるぞー!!と覚悟を決めて、B&Bを出ました。二日目は、湖水地方のもうひとつのシンボル的存在であり、英国を代表するロマン派詩人、ウィリアム・ワーズワースが暮らしていた家、ダヴ・コテージを訪ね、その周辺を歩きます。まずは、ウィンダミアからライダルという村へ、バスで北に向かいました。湖水地方は、マイカーで訪れる人が多く、自然環境や地元住民の生活への負担が懸念され続けてきました。2017年世界遺産登録をきっかけに、公共交通機関をさらに利用しやすくしようと努力を重ねています。その結果でしょうか、英国の田舎には珍しく、バスの本数はそれなりにあり、ストレスなく移動できました。運転手さんが、ヘッドマイクを装着し、運転しながら湖水地方の案内をしてくれていましたが、まだちょっと慣れていない様子。世界遺産のために頑張る彼らが微笑ましいです。ただごめん!訛りが強くって、聞き取りずらいよ〜、運ちゃん。 [osmap centre="NY3463906653" zoom="7.00" gpx="https://rambleraruki.com/wp-content/uploads/2021/11/Lake-District-_-Rydal-to-Grasmere.gpx" markers="NY3646806153!red;出発終着点: ライダル"] [osmap_marker color=red] ライダル  30分弱で、ライダルに到着。ここから、ライダル湖とグラスミア湖を左に見ながら、ぐるっと一周するコースをいきます。その途中にある村グラスミアに、ダヴ・コテージがあり、休憩がてら立ち寄る予定。バス通りから山側に一歩奥に入ったところにフットパスがあり、まずはライダル村の住宅エリアを抜けていきます。すると左側にライダル湖が姿を現しました。小さな山に囲まれ、その谷間に水が流れ落ちてできた小さな湖。山々には、オークなどの落葉樹の大木たちが、湖へ手を差し伸べるかのように枝を伸ばし、霧が葉の間を穏やかな川の流れのようにすり抜けていきます。昨日訪れた開放感のあるウィンダミア湖とは対照的で、ライダル湖とグラスミア湖周辺はとても可愛らしく、全体的にキュッとコンパクト。いつもは、くっちゃべり続けるふたりですが、今日は黙々と進んでいきます。カッパから伝わる雨音と濡れた大地をブーツが蹴る音だけが聞こえ、瞑想をしているときの気持ち良さが、歩きながら湧いてきました。母親の胎内にいるような、包み込む優しさが漂い、湿気った空気と共にスーと体に入ってきます。雨を通して、この地と同化したような感覚がありました。 ライダル一周コース  以前は外へ出る時、晴れ以外はハズレの日と思っていましたが、英国に住み始めてからは、今回のような雨でしか体験できない味わい深さがあることを知りました。それに、英国では、雨ぐらいで、外で遊ぶことをやめたりしません。歩くし、自転車漕ぐし、魚釣りもします。今日も雨がしっかり降っているのに、マウンテンバイクで通り過ぎていく若者たち、犬と散歩する人たち、そして私たちのように、散策するものたちで、フットパスはそれなりに賑わっていました。レバノンに長く住んでいた友人が、久しぶりに英国に帰国した際に、雨がどれだけ恋しかったか話していたことを、ふっと思い出しました。雨が続くと、みなブーブー文句を言いますが、場所が変われば、雨模様は貴重なんですよね。 1822年に出版された『湖水地方案内』の原本。本物を見ると、ワーズワースに会えたように思えるから不思議。もちろん、代表作である詩『水仙』が掲載された詩集の原本も見れる  一時間半ほどで、ダヴ・コテージ前に到着しました。さて、中を見学に行こうとする私に、ジルちゃんが難色を示します。もっと歩きたいと言うのです。「来る前に何度もコース説明したじゃん。この後も歩くんだよ。」ともう一度確認するも、「湖水地方までわざわざ来たからには、観光じゃなくて歩きたい。」と平行線。こりゃ、ダメだと思い、地図を広げられるカフェで一服するため、一度コテージから去りました。ワーズワース参りしないで、湖水地方もへったくれもあるかい!とちょっとイラっときていた私ですが、最近仕事や執筆活動で問題が山積し、ストレスマックスのジルちゃんの気持ちもわからなくも・・・。正直別のコースを考えていなかったし、雨もまだ降っているので、コースを変えずに納得してもらえないかと、なんとかなだめる私。ずぶ濡れの服を乾かすがてら、ダヴ・コテージを見学することを、ようやく承諾してもらいました。 早速コテージに戻り、まずは隣接している展示場で、コテージ内見学の順番待ち。ワーズワースの肖像画や当時出版された詩集本などを見て回りました。ロマン派詩人として、彼の英文学への功績はもちろん言うまでもないですが、私個人としては、今日の環境保護運動の先駆者としての尊敬の念が強く、ガラスケース内に1822年に出版された『湖水地方案内』の原本を見たときは、感無量でした。この本の中で、彼は湖水地方を、“a sort of national property, in which every man has a right and interest who has an eye to perceive and a heart to enjoy”ー見る目と楽しむ心を備えたすべての人が権利と関心を持つ、一種の国民的財産である(小田友弥訳、2010)と述べました。この考え方から、国立公園やナショナル・トラストなどが誕生し、今日議論されている環境問題や持続可能性などへと繋がっていくのです。日常で普通に使われるようになった「エコ」という言葉も、もしかしたら、ワーズワースがいなければ、世界中に認識されてることがなかったかもしれません。数ヶ月前に登録された世界遺産を機に、彼の環境思想は、学者たちの中で、再評価ブームがきているようです。約200年前に、新たな自然に対する視点が議論され、それが今私たちが当たり前のように感じ取っていることが、すごいことだなと感動していると、メモ帳片手に、真剣に展示物に見入るジルちゃんが・・・。なんじゃい、結構楽しんでるじゃねーか。 一生懸命メモしながら展示に見入るジルちゃん。文句言ってたの、どこのだれよ  ついに、コテージ内を見れる順番がきました。ワーズワースと彼の家族、そして訪ねてきたロマン派の詩人たちについて、丁寧にガイドさんが説明してくれました。彼らの生活した跡が若干残っている空間で、彼らが歩き、遊び、食事し、創作し、旅行し、恋愛し、時に失敗し、そして、湖水地方の自然を愛していたんだな。偉大な詩人も私たち同様、人生を謳歌していたことがわかり、「なーんだ。私たちとそう変わらないじゃん。友達になれそう。」とふたりで笑っていました。このガイドツアーを通して、私には、ひとつの発見がありました。ウィリアム・ワーズワースの妹、ドロシー・ワーズワースです。彼女についての記録は少なく、肖像画もないので、どんな人だったよくわからないそうです。ただ、彼女は詩人の兄の片腕として、一緒によく行動をし、歩きにも行っていたことが、唯一残された記録である彼女の日記から読み取れます。まだ女性の地位が低い時代に、ドロシーはよく湖水地方内をひとりで散策をしていたそうです。彼女もまた女性ウォーカーという新たなムーブメントを起こしたひとであり、私たちふたりにとっては、ウォーキングの女神と言えるのではないでしょうか。といくことで、最後記念に私はドロシーが書いた日記本"The Grasmere and Alfoxden Journals"をゲット。なんとジルちゃんは、ワーズワースの詩集をちゃっかり購入していました(その後、ジルちゃん宅のトイレでこの本に再会しました)。ホレ、みたことか。すっかりハマってんじゃん!  さて、後半戦。雨は我々の望みとは裏腹に、止むことなくシトシトと降り続けています。もう天気には期待せず、あとは歩いて出発点に戻るのみとグラスミアの目抜き通りを抜けて、大きくUターンするように、来た道とは反対側の湖の辺りを歩き始めました。雨が服にも靴にも染み込んで、二人のメガネも汗と混じって曇り、不快感を通り越して諦めの境地。二人の距離も少しづつ離れ、会話もなくなり、ただただ修行僧のように黙々と歩を進めていきます。でも、不思議と嫌な気持ちにはなりません。ジルちゃんも当初の目的である歩きができて、満足そう。やっぱり、ここは湖水地方。一年の2/3が雨天。降水量は半端ないのだ。しかし、出発点のライダルに戻って来たときには、さすがにクタクタになっていました。さっさと宿に戻り、服を着替え、夕食にタイ料理を食べ、昔ながらの映画館でまったりして、体に温もりを戻していきました。なんだか、学生時代に戻った夜でした。 ワーズワース以外にも、詩人のコールリッジ、画家のタナーなどが多くの芸術家たちがこの辺りに滞在していた  翌朝、カーテンを開けると、外は眩しいほどピーカンでした。体も心もすっかり洗い流された二人。「帰る日に晴れやがって。待ってろよ、また来るからな!!」と捨て台詞を吐いて、一筋縄ではいかない湖水地方をあとにしました。 30th September 2017, Sat @ Hilltop & Moss Eccles Tarn & Belle Grange, Lake District, Cumbria 参照: *1 湖水地方案内、ウィリアム・ワーズワス著 小田友弥訳(法政大学出版局 2010) 観光&トレイル情報: 湖水地方国立公園 www.lakedistrict.gov.uk/home ダヴ・コテージ wordsworth.org.uk 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2021...

 秋だよ、歩くよ、どこまでも。友人ジルちゃんとぶらぶら英国散策、Deco Boco Walking。今回はついに英国人ウォーカーたちの聖地、湖水地方にやってまいりました。日本人観光客にも人気のこの地は、年間2000万人近くの人々が訪れる英国を代表するリゾート地です。1951年に国立公園に指定を受け、2017年には30年越しの夢を叶え、ユネスコ世界遺産に登録され、今後さらにその勢いは増しそうです。 [osmap markers="SD4138598631!red;湖水地方" zoom="0"] [osmap_marker color=red] イングランド北西部 湖水地方 ウィンダミア  今回の拠点は、湖水地方南側の中心地、ウィンダミア。可愛らしい田舎町といった雰囲気で、ここに大勢の人々が来れるのかと驚くほどのコンパクトさです。駅周辺には、観光客向けの店が連なり、その奥にはB&B(朝食付き民宿)激戦区が続きます。どことなく、軽井沢や清里などの町並みを思い出させる、地元の人々の生活感が表に見えてこない空間がそこにはありました。今回は、初めての湖水地方ということで、コテコテの観光しながら、歩くことにしました。散歩レベルの歩きから始まった凸凹コンビが、まさか湖水地方へ上陸するとは…。高揚感が半端ない! [osmap centre="SD3932397227" zoom="6.00" gpx="https://rambleraruki.com/wp-content/uploads/2021/11/Lake-District-_-Windermere-Hill-Top-Walk.gpx" markers="SD4123898014!red;出発終着点: ウィンダミア"] [osmap_marker color=red] ウィンダミア 大雨でウィンダミア湖を渡るボートには、私たちふたりのみ  一日目:日本でも有名な湖水地方の代名詞ともいえる大ベストセラー児童書『ピーターラビット』。今回は、その生みの親であるビアトリクス・ポッターが暮らしていた家、ナショナル・トラスト所有のヒルトップを中心に歩きます。あいにくの雨。それでも我々の足を止めることはありません。ボウネス・オン・ウィンダミアから、ウィンダミア湖をボートで渡り、ファ・ソーリー(Far Sawrey)へ。そこからミニバスで、ヒルトップへと向かいます。朝から本降りで、ミニバスに乗ったときは、雨具も靴もびっしょり。服から滴る雫をどうすることもできずに、曲がりくねった道を進むバスに揺られ、小さな村ニア・ソーリー(Near Sawrey)に降り立ちました。 ビアトリクス・ポッターが住んでいた家、ヒルトップ。多くの観光客が訪れる名所 ヒルトップの階段の踊り場に展示してあった彼女の手紙からの引用。「雨続きで、我々のところも浸水しそうになってきていますが、とりあえず麦のタネを蒔きました。」今日のような大雨の中で書かれたのだろう。彼女と繋がった感じがする  さすがこの雨で客はいないだろうと思っていたら、ヒルトップには私たちのような物好きがたくさんいるいる。道中、だれも人を見なかったのに、ヒルトップには、ウジャウジャ人がいるのです。どっから湧いてきたんだ、このひとたち?どエライ人気。そのため、土砂降りの雨の中、外で順番待ちをすることに・・・。雨に打たれながら「これ、夏に来たら悪夢だよ、きっと」と頷き合うふたり。ようやく順番が回ってきて家に入れましたが、照明がない家の中はあまりにも暗く、よく見えない。ヘッドライトを照らして見ている人もいました。展示を見ながら私個人としては、ピーターラビットより、ロンドンのお嬢様で、絵が得意だったポッターが、この湖水地方へ移り住み、最終的にピーターラビットの大ヒットで得た土地すべてをナショナル・トラストに寄付したことのほうが、大変興味がありました。湖水地方内に多くあるトラスト所有地のまさに三分の一が、彼女からの寄贈によるものだそうです。「えらい、金持ちだったんだ〜」と彼女の財力の重さが、ピーターラビットの可愛らしいイメージを吹っ飛ばしてしまいました。そしてもうひとつ興味深かったのが、彼女は若い頃生物学に夢中でしたが、女性ゆえに講義を受けることも新説を発表することも許されなかったそうです。時代が違えば、有名な学者になっていただろう彼女の才能は、別の形で開花したのでした。 腹が空いては戦(歩き)はできぬ。困った時のパブ頼み  せっかくここまで来たのに、今のところドヨーンと暗くて寒い印象しかなく、雨が一向に収まる様子もないこの状況に、この後歩けるのか不安で、気持ちがしぼんでしまいました。ここは、凸凹ウォークのポリシーのひとつでもある、「困った時は、パブ」。早めの昼飯がてら一度暖をとる作戦に変更。ヒルトップ見学もそこそこに、隣接していたパブへ直行したのです。営業時間10分前にも関わらず、強引なふたりを快く招き入れてくれたパブで、暖炉の前にあったテーブルを確保。さっそく脱いだ雨具と靴と靴下を乾かし始めました。恥もへったくれもない、外国人観光客ふたり。スープと地元のカンブリアハムのサンドイッチをじっくり食し、温まった素足で床の上をパタパタと叩きながら、雨が弱まるのを待ちました。なんて至福の時間なんでしょ。ヒルトップ見学よりポッターの世界にどっぶり浸れたように思います。エネルギーをジャージし、歩く気分も上がってきたので、勇気を振り絞って外へGO。 忍者ジルちゃん。急遽沢登りへ変更!?  まずは、ポーターもよく絵を描きにいていたモス・エクル・ターン(Moss Eccles Tarn)という小湖があるところまで登っていきます。「雨が止んでラッキーじゃん」と思ったのもつかの間、地面に降り注いだ雨が溢れ出し、道が小川へと変貌していました。もうここまで来たのだから歩くぞ!!と貧乏性外国人たちの決意は硬く。池のような水溜りは、石垣を忍者のごとくはって通り抜け、水がザーザー流れる坂道は、石を橋代わりに右へ左へと渡りながら歩いていきました。それでもせっかく乾かした靴に水は入ってくる。「足が濡れてキショイよー」と叫ぶジルちゃん。友よ、自然の中を歩くということは、そうゆうものよ。ましてやここは湖水地方。降水量が多いから湖がこれだけできるのがよくわかるっしょ。これも致し方ない・・・。どっぷり湖水地方の洗礼を受けたふたりでした。 どこを見てもピクチャレスク。ポーターが惚れ込むのもわかる気がする  濡れた足の不快感とは反対に、雨上がりの湖水地方は、なんと絵になることでしょう。空、雲、山、森、草原、川、湖。人間が思い描く美しい自然の要素全てがそこにはあり、時間とともに、刻々と姿を変えていく。大自然の舞とでもいいましょうか。全く飽きがこない。多くの人々がこの地を愛してやまない理由がわかります。日本人の私でもノスタルジックな気分にさせられ、胸がキュンキュンしてきます。とてもロマンチックなのです。流れていた雲から徐々に青空が顔を出すようになってきました。英国の自然といえば、ヒースなどの低木が群生している高原地帯ムアランド(moorland)のイメージでしたが、湖水地方には、立派な落葉樹が多く生息していて、すごく印象的です。紅葉した落葉樹は、陽の光で黄金色にキラキラと輝きます。日本の紅葉のイメージと少し違い、哀愁もあるけれど、それ以上に突き抜けた明るさを感じるのは、なぜでしょう。  あっという間にMoss Eccles Tarnに到着。そこらじゅう水浸しの道を歩いて来たので、小湖を見ても、ふーんといった感じです。それじゃ、もっと歩いてみようと、先に進みます。目の前に広がる牧草地には、放牧された羊たちが天気など気にせず、草を毟るのに夢中です。ところどころでフサフサした大型犬が歩いていて「なんだ、ありゃ?」とふたりで不思議がっていました。のちにそれが湖水地方原種で、ポーターが多くを保護したハードウィック羊とわかったのです。あちゃ〜、もっとちゃんと見ておけばよかった。残念。 雨で濡れた石段がつるつる滑り、ふたりからブーイングの嵐  徐々に下降しながら、ウィンダミア湖へと出ていくコースをとりました。今まで私たちが歩いてきた数々のナショナルトレイルは、どんぐりマークを追って歩くので比較的簡単でしたが、湖水地方は標識が少なく簡単なルートでも地図を見ながらでないと、すぐに道を間違える危険があります。今までのように、最悪タクシーを呼べばいいじゃんとは、いきません。湖に戻ってくるまで、あっちか、こっちかと不安になりながらも、なんとか降っていきます。読図に自信のない私たちの頼りは、紙のOSマップだけでなく、スマフォにダンロードしておいたOSマップ。現在地を示してくれるので、とても助かりました。読図力アップを心に誓いつつ、ついつい機械に頼るぐーたらなふたりです。 ジルちゃん、ブナと交信中  針葉樹の森を「なんか、ここだけ暗くてカラーが違うなぁ〜」と思いながら抜け、完全に水が氾濫した道を「最悪ぅー!!」と叫びながら通り、丁寧に作られた石段の道を「誰だ、こんないらぬ仕事をしたバカは!」と、文句を言いながら、滑りそうになり、ようやく湖にたどり着きました。天気はすっかりよくなり、肌寒いけれど清々しい空気の中、湖の岸に沿って、今朝に降り立ったボート乗り場へと向かいました。天気が回復したためか、老若男女多くの人たちが夕方の散歩を楽しんでいました。湖水地方に来たらハイキングしなくてはならない・・・とは限らない。散歩してお茶してのんびりしてもいい。一日中本を読みながら、景色を眺めていてもいい。スケッチブックに絵を描くのもいい。サイクリングしてもいい。乗馬してもいい。トレランしてもいい。セーリングしてもいい。自分なりの流儀で遊び、この風光明媚を謳歌すればそれでいい。誰も干渉などしてこない。湖水地方出身で、ロマン派詩人、ウィリアム・ワーズワースは、湖水地方のことを、「見る目と楽しむ心を備えたすべての人が権利と関心を持つ、一種の国民的財産である」(小田友弥訳、2010)*1といいました。そんな雰囲気が、実際にここには満ち溢れていたのです。明日は、そのワーズワースが暮らした家を訪ねます。  二日目につづく  二日目は、こちら >> 30th September 2017, Sat @ Hilltop & Moss Eccles Tarn & Belle Grange, Lake District, Cumbria 参照: *1 湖水地方案内、ウィリアム・ワーズワス著 小田友弥訳(法政大学出版局 2010) 観光&トレイル情報: 湖水地方国立公園 www.lakedistrict.gov.uk/home ナショナル・トラスト ヒルトップ www.nationaltrust.org.uk/hill-top 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2021...

大都会からド田舎へと流れてきたワタシ  15年前までの私は、東京・新宿にある高層ビル内のオフィスで、映像編集の仕事をしていました。甲州街道とそれに吸い寄せられるようにコンクリートジャングルが遥か遠くまで続く風景を、オフィスの密閉されたガラス窓から、時々ボーと眺めていました。そして、その先には、富士山。徹夜で作業した朝には、赤く染まる姿を拝むこともありました。無機質の冷たい部屋から見る富士山は、遥か彼方にある桃源郷に感じていたのです。その私が、その後渡英し、ひょんなことから2018年夏に、ド田舎のサマセットへと、たどり着きました。今は、あの大都会東京で、リアルに感じられなかった富士山を見ていた自分とは、真逆の立場になったわけです。人生、不思議なもんですね。  そのサマセットって、どんなところかと簡単に申し上げますと、ブリテン島の南西部に位置し、比較的穏やかな気候で、古き良き英国が残る牧歌的でのんびりしたところです。チェダーチーズやサイダー(りんご酒)が有名で、英国最大の音楽フェスが開催されるグラストンベリー、ジェーン・オースティン小説の舞台になっている英国の保養地バースもサマセットにあります。そんな風土の中、「自分たちのことは自分たちで」という独自路線をゆく精神が育まれ、国の中心であるロンドンを意識せず、チェーン店の侵食を嫌い、地産地消の考えが浸透している、ちょっとアナーキーで、ヒッピー色が濃いのが特徴です。 [osmap centre="ST3707833796" zoom="1.50" gpx="https://rambleraruki.com/wp-content/uploads/2021/11/Somerset-area-new.gpx"]青色で示されたエリアが、サマセット州 大鎌草刈りって?講習へ参加してみた 元ヘビメタ少女には、大鎌のイメージは、死神。よい子は、真似しないで!© Gillian Best  新たな地に移り住めば、その土地の洗礼を受けるものです。ましてや日本人の私には、カルチャーショックがデカい!牛や羊がそこいらに放牧しているド田舎サマセットでの最初の洗礼は、大鎌で草刈りをするScythingでした。まったく見たことも聞いたこともないこのScything。元ヘビメタ少女だった私には、大鎌といえば、死神が持っているイメージぐらいしかありません。しかし、ここサマセットを中心にブリテン島の南西部では、かなり大きなブームになっており、大鎌草刈り競争の大会が毎年開催されているほどです。  でもここで普通に私は疑問に思いました。なんで、芝刈り機や草刈り機使わないの?と。その答えは「ガソリンを使わず、うるさい音もしない大鎌での草刈りは、エコで自然に優しいから」。どこかで聞いたような心地よいフレーズ。21世紀の今、そんなんで仕事になるの? 半信半疑だった私でしたが、急遽仕事で必要となり、これも良い機会ということで、早速初心者コースを受けてみることにしました。 大鎌のセッティングについて説明する講師のサイモン。英国で数少ない大鎌のエキスパートのひとり  古いお屋敷を、研修設備付きのエコB&Bに改築した、モンクトン・ウェルド・コート(Monkton Wyld Court)に週末二日間泊まり込みで、大鎌の基礎、歴史から実際の使い方と刈った草の処理まで、みっちり講習を受けてきました。講師は、ヒッピーコミューンで暮らして何十年のベテラン、サイモン。映画『ハリーポッター』にでてくるハグリッドのような顔。ヨレヨレのシャツ、ズボン、サンダル姿。無愛想で独特な話し方。パンチの効いたキャラが印象的です。そんな彼が、大鎌をブンブン振り回すものですから、ヒヤヒヤもの。いつもの好奇心が疼いて参加したものの、えらいところにきてしまったもんだと焦りました。しかし、私と同じようにガーデニングを生業としているひとたち、オーガニック牧場の経営者、庭の荒地をメンテしたい主婦、自然保護区の管理に役立てたいひとなど、私と似たような目的で集まった参加者に、ちょっと救われたのです。  大鎌と一口に言っても、実は地域によって違います。英国式、オーストリア式、バスク式、また東欧、中東でも使用され、それぞれデザインが違います。大変興味深いのが、インドから東側のアジアでは、大鎌は使われていないようです。風土の関係なのか、体の使い方の問題なのか、なぜ発展しなかったのかは謎ですが、どうりで日本人の私には、馴染みのない農具だったわけです。今回習ったのは、オーストリア式。英国の従来の大鎌はとても重く、力のある若い男性用に作られたものでしたが、オーストリア式は、全土の3分の2が山岳地であるため、機械がいけない急斜面での作業が可能で、女性や子供でも使える軽量なものになっているということで、最近英国でも主流になっているそうです。 左が英国式。右がオーストリア式。重さがぜんぜん違う  使い方は、まず左手で上、右手で下のハンドルを握り、鎌刃が地面と水平になるように少しだけ浮かせます。右後ろにおもいっきり引いてから、半円を描くように左へ、グイッとスイングさせていきます。そしてまた右後ろに戻すの繰り返し。ゴルフで、ドライバーを上から下へと振り下ろすのと同じ要領で、下半身は固定し、上半身、特に腰を使って、右から左へとスイングさせるのがコツです。15分ぐらい刈ったら、砥石で刃を研がないと、たちまち切れ味が悪くなるので、定期的にケアが必要です。そして、丸1日使ったあとは、刃がなくなってくるので、Peeningという、刃先をハンマーで打ちながら薄く伸ばしていき、再度砥石で研いて、切れる状態にする作業が必要になります。  草刈りの基本動作はそう難しくないのですが、実際やってみると、うまく草が切れなかったり、石に当たったりと、思いの外習得するまで、みな時間がかかっていました。しかも、両足を開き、中腰になり、右から左へとスイングしながら、徐々に前に進み、草を刈っていくのは、かなりの重労働。太もも、腰、両腕、手のひらが、筋肉痛でパンパンに。振れば振るほど、汗がダラダラ。芝刈り機で楽々やっていた作業が、手作業だとこんなにも大変だとは・・・。昔の人々は、タフだったんだなと感心してしまいます。 Peeningと言われる、刃先を叩いて薄くし、刃を再生する作業。写真中央の黒い突起をハンマーでひたすら叩きながら、刃の隅から隅まで鋼を伸ばしていく  かなり体力と手間がかかる作業。エコとは言え、こんなめんどくさいこと、わざわざやる必要ある?機械でチャッチャッと片付けた方が、断然お得と考えてしまいがちですが、そこにはメリットもありました。まず、急斜面やボコボコの地面など機械が使いづらい場所で使える。そして、雨や露で濡れた草は、機械では詰まり刈れないが、大鎌は逆に少し湿っていた方が、よく切れる。冬の霜が降りた草でも問題ないそうです。私のような、現代社会の利便性にどっぷり浸かっている人間には、自然にやさしいからと大鎌で芝刈りをするほどの、強いポリシーはありませんが、ガーデニングの道具としてなら、それなりの使い勝手はありそうだなと感じました。 Green Scythe Fairは、摩訶不思議なイベント  洗礼を受けたあと、サマセットの文化をさらに深く体験すべく、6月に開催された大鎌草刈り競争の全国大会・Green Scythe Fairに、凸凹歩きチームメイト・ジルちゃんと家族一緒に行ってきました。小さな村のイベントとして始まったものが、今では前売りチケットが完売するほどの大変な盛り上がり。大会内容は、①決めれれた面積を大鎌で刈っていき、速さと切れ具合を競い合う、大鎌草刈り競争。個人戦と団体戦があります。②刈った草を木の骨組みに上手に積み重ねて、どこのチームが一番高く綺麗に盛れたかを審査する、積みわら競争。合図とともに、長髪、髭、サングラス姿のオジさんが、スースーと手際よく刈っていく横で、ワンピース姿の女性が、スカートをなびかせながら大鎌をスイングさせていき、2メートルある大きな男性は、特大の大鎌で力強くどんどんと進んでいく。朝から晩まで、大人たちが真剣勝負をしていました。 大鎌草刈り大会のウェブより。© Green Scythe Fair  大鎌大会の傍、音楽、ダンス、トークショーなども開催され、各ブースでは、自然食、工具、手作り工芸品などの販売から、地球温暖化問題、環境保全に取り組んでいる団体のPR活動まで。電気は、すべて太陽光と風力発電。お手洗いは、コンポスト(バイオ)トイレ。ゴミ分別も徹底した、まさにヒッピー・フェスです。ただ興味深いのは、ここにいる人たちは、私たちがよくイメージする60年代米国発祥のSex, Drugs, and Rock 'n' Rollのヒッピーたちとは若干違い、英国の中世時代に回帰しているような、独特なカラーを放っていました。J・R・R・トールキン『指輪物語』の世界にいるような感じです。 [embed]https://www.youtube.com/watch?v=TWdxD4ci8xQ&feature=youtu.be[/embed]  癒し、エコ、オーガニックといった言葉が容易に使われる今、机上の空論ではなく、自分たちの体と人生を使って、自分たちの信じる自然回帰の世界を作り出そうとしている人たちが、そこにはいました。鉄のような意思とそれを体現していく力強さ。自分の手を土や血で汚し、汗水垂らして真剣に取り組む姿。考え方すべてに同意はできませんが、口だけ番長ではない彼らは、尊敬に値します。その彼らを象徴するのが、大鎌で草刈りをするScythingなのです。  最近大鎌は、ナショナルトラストなどのチャリティー団体が、使い方をボランティアに指導し、保全のいち道具として普及し始めています。すでにヒッピーたちだけのものではなくなり、人々がその良さを再確認し始めたようです。なによりも、腰回り、太ももが気になるあなたには、ぜひともオススメしたい。ScythingでExercising。一度お試しあれ!! 参考資料: 大鎌草刈り講座 monktonwyldcourt.co.uk Green Scythe Fair www.greenfair.org.uk 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2021 ...

雨上がりの朝、どこまでも続くブルーベルとワイルドガーリックの群集に、身も心も肌も、洗われてしっとり * 一日目は、こちら >>  二日目:豪華な朝食でバッチリ腹ごしらえをして、バードリップのB&Bをあとに。車道に出てすぐコッツウォルド・ウェイの標識を見つけ、森の中へと入って行きました。湿気を帯びた暑さは、昨夜の嵐ですべて流され、ヒヤッとした空気が、足元から湿った大地の匂いを運んできます。新緑も恵みの雨を喜んでいたのか、艶やかな光を放っています。雨上がりは、独特の静けさと清らかさがあり、歩いていると洗礼を受けているような・・・。私利私欲にまみれている私たちには、なおさらそれがビシビシ強く感じられるのでしょう。胃も心も満たされ、「極楽じゃ〜」と、まったりしてきたふたり。歩く速度もノロノロ。上を見上げれば、ブナの葉で覆われた空は、緑で埋め尽くされ、その隠された青空が逆に地面から湧き上がってきたかのように、ブルーベルの群集が足元からどこまでも続いていました。ここウィットコンブ(Witcombe)の森は、英国国内でブルーベルの名所といわれているだけあります。本当に可愛らしい春の光景。日本の桜を愛でるときに感じる、美しさと儚さへの賛美とは、また違う味わいのお花見です。 [osmap centre="SO8910712455" zoom="5.50" gpx="https://rambleraruki.com/wp-content/uploads/2021/11/Cotswolds-Way-_-Birdlip-to-Painswick.gpx" markers="SO9244714520!red;出発点: バードリップ|SO8658009625!green;終着点: ペンズウィック"] [osmap_marker color=red] 出発点: バードリップ [osmap_marker color=green] 終着点: ペンズウィック ナショナル・トレイルのどんぐりマーク、凸凹コンビが名付けた"Acorn God"に導かれコッツウォルズ地方を満喫中  生い茂る高木の中をひたすら歩いていきます。気温が徐々に上がり、熱気が篭り始め、じとーっと汗が出始めました。時々ポコっと視界が開けるスポットで、風にあたり涼みながら、遠くの田園風景をボーと眺め、そしてまた森の中を進む。それを繰り替えしていきます。コッツウォルドの景色は、まさに「Chocolate-box ー おみやげ用のチョコレートの包装箱に載せている写真のような美しさ」。どこをとっても絵になります。コッツウォルズ地方は、14〜16世紀に羊毛産業で栄えましたが、18世紀産業革命後、時代は毛織物から大量生産の綿製品へ移り、時代に取り残されてしまいます。しかしそれは逆に奇跡的に荒らされることなく、古き良き英国を今に残すことができたました。英国ので「カントリー(Country)」の意味は、日本で言う「田舎」のイメージとは違います。美しい田園地帯に家を持つことはステイタスであり、逆に都会にしか住めない人たちは、労働者といった感覚があります。つまり、カントリーライフは、英国人にとって、洗練された憧れの生活なのです。その夢見るカントリーライフで一番人気エリアが、このコッツウォルズ地方。ロンドンから2時間ほどで行ける理想郷として世界中の観光客を魅了し、英国セレブやリタイアしたひとたちが、こぞって家を購入する人気のスポットとして返り咲いたのです。その後、この美しい景観を守っていこうと、1966年にArea of Outstanding Natural Beauty – AONB(特別自然美観地域)に指定され、国、地方自治体、住民が協力して、持続可能な景観保護と地域社会に努めています。その効果の現れなのか、外国人の私たちでも歩いていて、「なんか知らないけれど、懐かしいなぁ〜」とそんな気分にさせてくれます。 チーズ転がし祭りが開催されるコパーズ・ヒル(Copper's Hill)。写真ではわかりずらいが、かなり急斜面  タラタラ歩いていると、そこへ突然とてつもない急な坂に出くわしました。「この暑い中、マジでここを登るのか・・・」と地図をなんども見直しましたが、そこに選択の余地はありません。諦めて登り始めていきますが、距離がそうないためか、上まできれいな直線の道になっており、乾いた土で足は滑るは、暑さで息がさらに苦しいはで、ヘトヘト。「朝食のエッグベネディクト食べ過ぎなければよかったよー」と叫ぶふたり。後悔先に立たず・・・というか、先に進まず。ようやくの思いで登りきり、広場へと出てきたところで、ふたりともまさに「Time!! ー ちょっと待った!」。地べたに座り込みひと休みしなくては、動けませんでした。「なんじゃ、ここは」と水を飲みながらガイドブックを見ていると、英国の奇祭のひとつであるThe Gloucestershire Cheese Rolling ー チーズ転がし祭りが開催される丘ではありませんか。日本のテレビ番組で、お笑い芸人さんがこの祭りに参加した模様が放送されていた、あの丘です。「こんなところ、チーズ追いかけて転がり落ちていくなんて、アホか!」ふたりとも首を横にフリフリ「英国人の考えること、本当によくわからないよねー」と苦笑い。 地元民たちが、愛犬とともにランニング。この環境が家の近くにあることは、健康面から考えても、必要なこと 凸凹コンビの未来の姿!?どこへいっても、女性二人で仲良く歩く方々をよく見かける。どこの国でも女性は元気 地元に愛される道でなければ、後世には残せない AONB指定地域総面積(黄色部分)は、2038平方キロメートル。ほぼ東京都の大きさぐらいで、英国内のAONBで一番広い。青い線が、コッツウォルド・ウェイ © Cotswold Way | National Trails  今回の旅を通して印象的なのが、訪問客だけでなく、地元のひとたちが、犬の散歩やランニングをしている姿をよく見かけたことです。コッツウォルド・ウェイは、AONB指定地域の一番西側に、北から南へと道が一本引かれてたところになります。観光客が訪れるチッピング・カムデン、ブロードウェイ、バースなどを通過しますが、コースのほとんどは、地域住民の生活圏内を通り抜けていきます。ですので、観光ツアーで出会う景色とは違い、コッツウォルド本来の姿が垣間見れる。観光スポットが表なら、このトレイルは裏道を歩いているような感じです。トレイルと聞くと、アウトドアや観光目的で、お客さま向けのものと考えがちですが、英国の場合は、まず住民が日常で利用しているフットパスがベースになっています。レクリエーション目的でのフットパス保護運動は、300年前に始まりましたが、それ以前から普通に通勤通学で使っていた生活歩道がフットパスです。そして、それをより面白くしようと作られたのが、数多くあるフットパスを一本に繋げた、今回のコッツウォルド・ウェイ含むレクリエーショナル・トレイルです。米国のウィルダネスを歩くトレイルとは、まったく異なる文化がそこにはあります。だから、ヘタレな我々凸凹コンビでも、そんなにトレーニングもせず、気軽に歩きに行けるトレイルが多いのです。 石屋の敷地に、フットパスが縦断している。勝手に入って、そのまま進んでも、問題なし 「ゴルフ場にこれから入ること、心せよ」と注意書きが・・・。「入ってもいいけど、なんかあったら自己責任よ」という考え方、英国らしい  その後も森の中を歩き続け、車道にでてきたところで、今回のコース最後のポイントになる丘陵の上にできたもうひとつの森、ペンズウィック・ビーコン(Painswick Beacon)にあるパブを発見。キンキンに冷えた飲み物求め、倒れこむように中へ。炭酸水を一気飲みしたジルちゃんは、「もー、蒸れて我慢できないよ」と靴を脱ぎ、サンダルへ履き替え始めました。一息ついた後、重い腰を持ち上げて、もうひと踏ん張り、ペンズウィック・ビーコンの中を歩き始めます。暑さで体が怠く、二人とも無言に・・・。でも、これはこれで、心地よい時間が流れているのです。途中、この地方の家々に使われいる蜂蜜色の石灰石、コッツウォルド・ストーンを扱っている石屋の敷地内やゴルフ場を抜けて行きます。人の家に勝手に入り込むようで、外国人ふたりは戸惑うのですが、でもいいんです、勝手に入って。「通行権という印籠が、目に入らぬか〜ぁ!!」と、石がゴロゴロあっても、ゴルフボールが飛んでても、堂々と歩いて行きます。そうこうしているうちに、最終目的地のペンズウィックの村に到着し、やっぱり最後はビールで旅のシメとしました。 ゴルフ場を、サンダルで歩くジルちゃん。違和感があっても歩く権利があるので。でも、ボールには気をつけて! 真のコッツウォルドを見たければ、おススメのトレイル  まずは、地元のひとたちが歩いてなんぼ。それが英国のトレイルの根底にはあることを、今回のコッツウォルド・ウェイを歩いていて強く感じました。逆に、地域住民たちが歩かない道に、郷土愛からくる愛着もなければ、整備し続けていこうと思わせる気持ちも生まれない。安易に観光資源としてトレイルを管理していても、道は存続できない。その姿勢が、国内外でも定評があるAONBコッツウォルズが進めている持続可能な景観保護に繋がっているんだろうと感じました。ただのポッシュ気取りのエリアではないんだな〜、コッツウォルズ地方は・・・。ふたりでチョコレートを頬張りながら、そう思ったのです。 8th May 2016, Sun @ Cotswold Way (Birdlip - Painswick), Gloucestershire トレイル情報: コッツウォルド・ウェイ オフィシャルサイト Cotswold Way : Trail Guide (Aurum Press, 2012) 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2021...

 春が来た、春が来た、どこに来た〜♪ 英国にも春が来たぞー!!ということで、友人のジルちゃんと英国を歩く季節がやってまりました。英国育ちでない凸凹コンビが、ぶらぶらと歩きながら、千変万化するこの島国を肌で感じ取る。そんな旅は、山あり谷ありの我々の人生とも重なるということで、二人旅シリーズを"Deco Boco Walking"と命名しました。そしてこのDeco Boco Walkingの記録を残していこうと、フェイスブックで専用のページも開設してみました。 Deco Boco Walking: www.facebook.com/walkingupdown/ ぶらぶら歩きもページ開設もあまり深く考えず、ノリでやっておりますので、今後どんな展開になりますやら・・・、まずは、行けるところまで進んでみます。気長にお付き合いいただければ幸いです。 クリーブ・ヒルにあるゴルフ場から今回の旅はスタート。COTSWALD WAYの標識がお出迎え  さて、今回の旅は、春といえばお花見でしょ!っということで、英国流お花見は、なんぞやと考えた時、春の花の代名詞、ブルーベルを愛でることではと思い立ち、有名スポットがいくつかあるコッツウォルド・ウェイを歩いてきました。なんせ凸凹コンビのふたりは、Lazy Lady Walkers(気合の入っていない、ゆるゆる女性ハイカー)でして、寒くて、暗くて、泥だらけの英国の冬は、もっぱら脳内で旅してばかりでしたが、ようやく靴の紐を閉めて、外へと飛び出す心の準備が整いました。コッツウォルド・ウェイは、前回おしゃれに紅葉狩りと思って出かけたら、暴風雨に見舞われ、コッツウォルズ地方のポッシュな(上級階級らしいさま)雰囲気を味わうどころか、服はびしょ濡れ、髪はボザボザ、足元は泥だらけという、ワイルドな旅で終えましたので、今回はある意味リベンジ!!(コッツウォルド・ウェイ 秋編は、こちら >>)前回歩いたコースより、若干北へ上がったコース、一日目は、クリーブ・ヒル(Cleeve Hill)からダウズウェル(Dowdewsell)、二日目は、バードリップ(Birdlip)からペンイズウィック(Painswick)をぶらぶらしました。 歩くひと、犬の散歩しているひと、羊の放牧。そして、ここはゴルフ場。まさに多目的に使われている土地があるのが英国式 [osmap markers="SO9891927164!red;クリーブ・ヒル" zoom="0"][osmap_marker color=red] クリーブ・ヒル  一日目:雨上がりの五月始めの週末、英国障害競馬の祭典が有名なチェルトナム(Cheltenham)の駅に降り立ち、そこからタクシーでクリーブ・ヒルに向かいました。ブルーベル満開時期は過ぎてしまっているかなと少し心配しながらも、坂道を上がっていく車に揺られ、私たちの期待値も高まります。今回のスタート地点は、なんと丘の上にあるゴルフ場。早速COTSWALD WAYの文字とナショナル・トレイルの印であるどんぐりマークが記された標識がお出迎えしてくれました。英国では、フットパス(通行権のある歩道)が法律によって守られているので、そこが私有地だろうと、農園だろうと、フットパスがあればいつでも歩いてOK。もちろんゴルフ場でも同じ。ゴルファーとは明らかに違う服装の人たちが、プレイとはなんら関係なく、勝手に歩いているのです。さらに今回のゴルフ場には、ゴルファー、ハイカー、ランナー、サイクリスト、犬の散歩するひとたちと混じって、なんと羊も遊牧していて、皆好き勝手にそれぞれの方向へと進んでいく、まず日本では考えられない不思議な光景がありました。さらに羊含め、お互いに邪魔しないように、いい距離感を保っていて驚きです。一歩間違ったらカオス状態になりそうなのに、絶妙なバランスで、のんびりと平和な時間が流れていました。でもよく考えたら、羊飼いたちが始めた遊びが起源と言われている(諸説あり)ゴルフ。また、草刈り機が開発される前は、放牧で伸びた草をコントロールしていたそうなので、羊がいてもおかしくはないはずです。むしろ、今の時代ではエコかも・・・。  「ゴルフボールが、羊のフンに突っ込んだら、どうするんだろうか?」「一発目で突っ込んだら、ホール・イン・ワンならぬ、プー(Poo)・イン・ワンだね。」とふたりで大笑いしながら、先へと歩を進めました。ゴルファーにとっては、迷惑な客です。 [osmap centre="SO9768123568" zoom="5.00" gpx="https://rambleraruki.com/wp-content/uploads/2021/11/Cotswolds-Way-_-Cleeve-Hill-to-Dowdewsell.gpx" markers="SO9892427188!red;出発点: クリーブ・ヒル|SO9848919721!green;終着点: ダウズウェル"] [osmap_marker color=red] 出発点: クリーブ・ヒル [osmap_marker color=green] 終着点: ダウズウェル ナショナル・トレイルの印であるどんぐりマークの標識の向こうでは、ゴルファーがティーグランドでショットを打っていた。柵も囲いもない。共有が当たり前のようだ  コッツウォルドのウォルド(Wold)は、古語で丘(Hill)という意味になりますが、まさにその名の通り、ゆるやかな丘陵地帯 ー Rolling Hillsが続いていて、天気が良い日には、ウェールズまで一望でき、開放感があります。ナショナル・トレイルの中でも、比較的アプローチしやすいコースで、なだらかとはいえ起伏があり、変化に富んでいて、飽きがきません。ポツンと現れるコッツウォルドの石造りの家が並ぶ村がよいアクセントになり、まさに古き良き英国を体現した絵画のような風景。さらに、標識も道もきちんと手入れされていて、まず道に迷うことがないのは、私たちのような読図がイマイチの人間には嬉しい限りです。 生まれたばかりの子羊たちが、なんとも初々しい。母親にくっついて歩く姿は、自然と笑顔にしてくれる キッシング・ゲート(Kissing Gate)と呼ばれる門扉。人だけが通れ、家畜が逃げないようにするためのもの[  ベラベラしゃべりながら、丘の稜線上にある自然保護区、農地などを縦走していきます。我々ふたりは、身なりと話す英語(ひとりは、カナダ英語。もうひとりは、日本語英語)から、明らかにコッツウォルドの人間ではないのがバレバレで、地元の人たちも興味津々なのか、「どこから来たの?」とよく声をかけられました。ハイカー慣れしているのか、みなさんフレンドリーで、プチ情報を教えてくれたり、わざわざ道案内までしてくれたり。そして言葉の節々にコッツウォルドの住人である誇りが感じとれ、自慢の土地を見ていっておくれよの気持ちがひしひしと伝わってきます。お国自慢したくなるのは、どこも同じですね。 犬の散歩中の女性と遭遇。凸凹コンビを不思議に思ったのか、すれ違いざまに声をかけられた  そうこうしているうちに、丘の上から緩やかな坂を下り始め、今日のハイライト、ワイルドガーリックが生息するダウズウェル自然保護区の森に差し掛かりました。今までのどこまでも広がる空と大地の絵とはうって変わって、青々と生い茂る木々の中を抜けていきます。ヒヤッとする涼しい風が、汗ばんだ肌に心地良い。そして緑に白玉模様のカーペットとなったワイルドガーリックが一面に咲いており、目にはおとぎ話のワンシーンのように美しく映り、鼻にはニンニクの匂いを感じとれ、食欲をそそります。お腹空いたー!!ということで、倒れた丸太に腰掛け、遅めの昼食。朝握った鮭おにぎりを頬張ります。鼻からニンニク、口からシャケ。なんて素敵なマリアージュ。しかも、カナダ人のジルちゃんが、日本食のおにぎりを、英国の森で食す、へんちくりんな現象。思わずシャッターを切らずにはいられませんでした。 カナダ人が英国の森で日本のおにぎりを頬張る。シュールだなぁ〜  その後、更に丘を下り、大きな貯水池に出てきました。ひとりサイクリングで、一息している男性。水辺でピクニックを楽しむ若いカップル。森を散策している家族連れ。先ほどのゴルフ場同様、それぞれがそれぞれの楽しみ方でこの場を共用している。暗黙の了解で、お互いに邪魔しな距離感を保ちながら・・・。英国民性の素晴らしいことと一言で言ってしまえばそれまでなのですが、どうしてこのようなことが自然とできるのか。どうゆう経緯でこのような習慣が確立したのか、私には不思議です。でも確かなのは、そこには、何にも干渉されない心地よさがあり、現実の役職や立場などを忘れさせてくれ、自分が自分らしくいられる空間があること。だからこそ、みなこの場にいたんだと思います。 これでもかと続くワイルドガーリックの園 可愛らしい花を嗅いでも、にんにくの匂い  今日の旅はここまで。車道に出て、タクシーを呼び、明日のスタート地点、バードリップにあるB&Bへ。晴れていた空が、宿に着いた途端、黒雲に覆われ、夕立の雷が落ちてきました。それをBGMにいつも通りビールで乾杯!B&B内にあるパブには、ハイカー、サイクリスト、観光客、地元民で、いっぱいになっていました。ここでも異色凸凹コンビに話しかけてくる人が多く、中には毎年どこかへ歩きに行っている男性3人グループもいました。今まで、デムズ・パス、オファス・ダイク・パス、サウス・ウェスト・パス、のナショナル・トレイルを歩いてきたとのこと。天気のせいか、旅のせいか、酒のせいか、皆テンションが高く、ノリノリで話してきます。このような場が、いい情報交換の場になるようです。しかしみなさん、歩くの好きねぇ〜。 二日目につづく。 二日目は、こちら >>。 7th May 2016, Sun @ Cotswold Way (Cleeve Hill - Dowdeswell Wood), Gloucestershire トレイル情報: コッツウォルド・ウェイ オフィシャルサイト Cotswold Way : Trail Guide (Aurum Press, 2012) 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2021...

夏草や 兵どもが 夢の跡  言わずと知れた、松尾芭蕉の紀行作品「奥の細道」にでてくる平泉で詠んだ有名な句です。春が始まりかけた三月、英国のとある場所を訪ねた際、ふっとこの句が浮かび上がってきました。この句にまともに向き合ったのは、きっと中学の国語が最後かと・・・。全く違う季節、全く違うシチュエーションの中で、文学に疎い私の頭をよぎったのです。 特設テントが張られ、水仙祭り化としたウォーリー・プレイス  春先、クロッカスや水仙が咲き始める頃になると、ガーデニングのクライアントさんたちから、「シノ、ウォーリー・プレイスへは、行ったことある?あそこは、春の球根草花が綺麗で、特に水仙の群集は圧巻だよ。一度見に行ってみるといい。」と以前から言われていました。これはぜひ一度拝見せねばとタイミングを見計らっていると、ちょうどガイドウォークの開催情報が目に飛び込んできました。訪ねるだけではもったいない。説明していただけるなんて、一石二鳥、お買い得!主婦魂に火がついた私は、早速参加してみることにしました。  ウォーリー・プレイス(Warley Place)は、ロンドンを大きな円で囲んでいる首都高速環状線・M25が通っているエセックス州ブレントウッドにあり、ほぼロンドンと言ってもいいぐらいの栄えた場所に位置します。通勤ラッシュ時には車でごった返すこのエリアに、野生動物保護団体エセックス・ワイルドライフ・トラストの自然保護区として、地元の保存グループと共同で管理されています。 [osmap markers="TQ5838091022!red;ウォーリー・プレイス" zoom="3.50"][osmap_marker color=red] ウォーリー・プレイス  風はまだ若干冷たいが、柔らかい日差しが心地よい春の週末、これはお花見日和だと、早速片田舎にある自宅から都会へと車を飛ばし、ルンルン気分で入口に向かいました。エセックス・ワイルドライフ・トラストのテントが張られ、パーフレット、本、ハガキなどが売られ、ちょっとした水仙まつりといた様子。人々が次々に敷地内へと入っていきます。黄色の水仙たちがお出迎えのお辞儀をするかのように、頭を垂らして風に揺られいる姿が、すでに遠くからも見えます。まだどんより雲が残っている空の下、黄色の電灯が地を照らし、春のエネルギーが放出されているかのようです。春色に癒された訪問者たちも、どことなく笑顔が溢れ出しています。 廃墟となった豪邸跡。白黒写真の左に写っているガラス部屋だった部分 以前の姿を写真で確認。この建物以外にも、番小屋、小家屋、馬小屋、温室、冷床などがあったが、全て取り壊されている  ガイドウォークは、10名ぐらいの少人数でスタート。大きな敷地内をぐるっと一周するかたちで、1時間半ほど歩いていきました。そろそろ終わりになりそうなスノードロップ、クロッカスの花々もまだ咲いており、四月末ごろに花が咲くワイルドガーリックは、緑の葉をすでに伸ばし始めています。そして、視野に入りきらないほどの水仙たちが一面を覆い尽くしていました。今まで見たこともない、とんでもない数です。なぜこんなに多くの水仙がここだけ生息しているのか、不思議に思いながら歩き続けていると、突如大きな屋敷だったであろう崩れかけた廃墟が現れます。事情をよく把握せず、春の陽気に誘われて、ただ水仙の群生地見たさに参加した私には、かなりのインパクトで、びっくりしました。しかし、なぜだかこの廃墟と黄金に輝く水仙のコントラストが、とても美しく心を奪われます。まるで、フランシス・ホジソン・バーネットの『秘密の花園』のワンシーンのよう。そこには、さっきまで感じていた心踊る爽やかな春の空気はなく、ひやっと冷たい空気に、どことなく寂しさが漂っていました。 今では、動植物が新たな家主となっている  エセックス・ワイルドライフ・トラストが管理している保護区は、森、草原、湿地帯など、昔から人々が自然資源を得るために上手に管理して来た土地を買取し、野生動植物の住みかとして保護していくのが通常です。しかし、このウォーリー・プレイスは、全く違う歴史があります。そもそもここは、マナーハウス・ウォーリー(The Manor of Warley)として、代々地位のある人たちが暮らした場所だったそうです。しかし1934年、最後に住んでいたエレン・アン・ウィルモット女史の死後、廃墟となり、1938年には建物の崩壊が危ぶまれ取り壊しになりました。その後誰も住ことなく、この土地のオーナーがエセックス・ワイルドライフ・トラストと地元管理グループにリースし、自然保護区として管理する形で現在にいたります。 エレン・アン・ウィルモット女史。一時期、ここは彼女の帝国だった。© R G Berkley  最後の家主であったウィルモット女史は生前、園芸家、そして植物コレクターとして名を馳せていました。プラントハンターに依頼して世界中から珍しい植物を取り寄せ、甥っ子姪っ子たちが遊びにくるたびに球根をそこらへ投げ込ませ、常駐させている100人ほどのガーデナーたちに、次々と植えさせていきました。また、自分の山草コレクションを飾るため、ヨークシャーから取り寄せた巨大な石で峡谷を作らせたり、電気が普及していない時代に温度調節可能な温室と冷床で、園芸種の品種改良や英国では見ない植物を栽培したりと、持てる財産と時間をすべて園芸に注ぎ込みました。そのため、結婚もせず、晩年には財が底をつき、多額の借金を抱えたまま、この世を去ったようです。ガーデニングの端くれとして、これだけの設備とお金をかけた庭を当時私が見せられたら、圧倒されていたことでしょう。まさに、ガーデナードリームの地だった。それが、今では泡のように消え去り、彼女が植えさせた木々や花たちだけが、その当時を思い出させるように、春になると蘇ってくるのです。 ここを整備しているボランディアによるガイド・ウォーク。自然だけでなく、価値ある建築物跡として管理していくことが大切なようだ 立派な冷床があった一角は、スノードロップに覆われていた。積み上げられたレンガがかすかに面影を残す  生い茂った夏草を見て、奥州藤原氏の栄華の儚さを思い、芭蕉がしたためた平泉での句。この名句がもつ無常観と虚しさが、ここウォーリー・プレイスにもありした。お抱えガーデナーたちという兵どもたちが、ウィルモット女史の理想の庭園のためだけに、汗水垂らし戦い続けた。しかし夢の跡なってしまった今は、皮肉にも自然が取って代わり、ここを支配しているのです。  水仙の花畑から、霞んだ空の向こうに、ロンドンの高層ビルをかすかに見渡すことができます。まるで自然が抱きかかえるかのように、この地を包み込み、都会の喧騒から、そして時の流れから逃れ、秘密の隠れ家として、ひっそりと存在しているウォーリー・プレス。再生の季節である春。湧き上がる新たな生命力と相反して、朽ちていく夢の庭園。水仙が輝ければ輝くほど、残酷にも盛者必衰のことわりをあらわしています。鳥のさえずりが聞こえてくる中、ウィルモット女史の亡霊が、今もさ迷い続けているのです。 11th March 2017, Sat @ Warley Place, Essex エセックス・ワイルドライフ・トラスト自然保護区情報: ウォーリー・プレイス オフィシャルサイト 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2021...

 深秋。朝晩の冷え込みは、冬の足音がそこまで来ていることを知らせてくれています。不思議な国、英国を歩こうと、カナダ代表ジルちゃんと日本代表シノの凸凹コンビがゆく。今回は、最後のチャンスを逃すなとばかりに、コッツウォルド・ウェイへ紅葉狩りに行ってきました。 [osmap markers="SO8497504976!red;ストラウド" zoom="0"][osmap_marker color=red] ストラウド  ロンドンから西北西150キロほどに位置し、石灰岩の丘陵地帯であるコッツウォルズ地方。羊毛取引で栄えた中世の趣をそのまま残した村、藁葺き屋根と蜂蜜色の石灰石、コッツウォルド・ストーンの家々と美しい田園風景が続いています。イングランドとウェールズ内で最大のArea of Outstanding Natural Beauty - AONB(特別自然美観地域)であり、まるでおとぎ話の世界にいるような景観が、古き良き英国を感じられると、英国セレブの多くが別荘を所有し、日本人観光客にも大人気です。そのコッツウォルズ地方を縦断したトレイルが、コッツウォルド・ウェイで、ナショナル・トレイルのひとつです。産業革命時代に起こったアート・アンド・クラフツ運動の重要な拠点のひとつだったチッピング・カムデン(Chipping Campden)から、女流作家のジェーン・オースティンが暮らしていた保養地のバース(Bath)までの、約160キロの道となります。今回は、トレイルのちょうど真ん中あたり、ペインズウィック(Painswick)からストラウド(Stroud)までを歩いてみました。  あいにくの天気。ガラス窓を激しく打ち続ける雨を気にしながら、バスに揺られて、ペインズウィックに到着。吹きっさらしの丘を、まるで矢が降っているような雨と風の中、歩き始めました。途中で出会った牛たちも「アンタたち、物好きね」と言いたいのか、不思議そうに我々を見つめ、道を通らせてくれました。前線が、妙に生暖かい雨をもたらし、二人のメガネを曇らし続けて、ちっとも美観を拝めません。強風で紅葉狩りどころか、葉と共に吹き飛ばされそうになりながら歩いている。このおかしな状況に、"This is ridiculous(アホくさい)!!"と叫び、笑いが止まりませんでした。道中、単独で歩いている、ずぶ濡れの男性に二回ほど遭遇しましたので、どうやらアホは私達だけではないようです。午後には雨が上がるという予報を信じて、まずは進みます。 [osmap centre="SO8393507371" zoom="5.50" gpx="https://rambleraruki.com/wp-content/uploads/2021/11/Cotswold-Path-_-Painswick-to-Stroud.gpx" markers="SO8658309648!red;出発点: ペインズウィック|SO8152304708!green;終着点: ストラウド"] [osmap_marker color=red] 出発点: ペインズウィック [osmap_marker color=green] 終着点: ストラウド 林の一部は、ナショナル・トラストの管理下に。そのエリアだけ、 綺麗に整備されすぎて、逆に不自然に感じる  トンネルのような細長い林の中へ。英国では、1600年、もしくはその前に存在していた森林をAncient Woodlandと国が指定し、保護の対象となっています。長年燃料として使われてきた森林は、今では国土全体の13%ほどしか残っていません。他の欧州国に比べても、圧倒的に少ない。そのため、どんなに小さくとも、古い木々が密生しているエリアは、徹底して管理しているようです。失ってから、森のありがたみを理解したのか、なんとも皮肉です。そんなAncient Woodlandに指定されているブナ林を、二箇所ほど通り抜けました。「Ancient Woodland ー 原始林と言われても、日本のばあちゃん家の裏にある雑木林みたいな感じだな〜。」「Woodland ー 森林地帯っていったら、カナダではクマやヘラジカが住んでいるようなところだよ。」頑張って自国の森林を守っている英国人の気持ちなどおかまいなし。よそ者外国人二人は、言いたい放題。しかし、英国の森林は森林で、独特の味がありますし、何よりも人が歩くことを前提に管理しているので、散歩には快適です。 目の前が開け、青空が見え始める。写真右、木々の向こうに見える青い線が、セブン川。そしてその反対側が、ウェールズ ナショナル・トラストのどんぐりマークが、私たちの歩きを見守り続けている  残念なことに、今回の強風で多くの葉は枝から地面へとすでに落ちていました。とはいえ、紅葉によるレッドカーペット上を歩いているようで、なかなか趣があります。足を踏み込むたびにサクサクと音がする。蹴り上げると、葉がヒラヒラと舞う。落ち葉と戯れ合う足は、体の奥底に隠れていた童心を、くすぐり始めました。そうこうしているうちに雨がようやくあがり、地元の人たちが犬の散歩に現れ始めました。高級ハンティング・ブランドのワックスジャケット、ハットに、長靴を履いた人たち。さすが、コッツウォルド。ポッシュな人たちが愛犬と共に、洗練された大人の時間を過ごしていました。どこぞの社交界に迷い込んだような、場違いの大きな「子供たち」のぶらぶら歩きとは、明らかに違います。しかし、童心にかえっても、しょせん中年おばさんのふたり。気にせず歩き続けます。  林を抜けて、再び丘へ出てきました。最後のひと押しとばかりに、強風が全てを飛ばし、突然青空が見え始めます。まるで、舞台に立った役者の目の前にある幕が上がったかのよう。ブリストルへと流れるセブン川。そしてその川を挟んで反対側に南ウェールズが広がっていました。ブレコン・ビーコンズ国立公園にあるブラックマウンテンズも見えます。雨風に打たれながらも、なんとかここまで来たご褒美。サプライズ・プレゼントに、歩く遊びに半信半疑だったジルちゃんの足も、必然と軽くなり嬉しがっているのがわかります。 スタイル(stile)と呼ばれる踏み越し台。左側にある木製の柵は、犬用。中央二枚の板を上にあげると、犬が通れる仕組みになっている  収穫後の畑、ワイン用のぶどう園、馬牧場を通り過ぎながら、徐々に丘から降ってくると、電車の音が聞こえ始めました。ストラウドがそう遠くないことを知らせてくれています。そしてついに、繊維工場への輸送に使われていたストラウド運河へと出てきました。この運河は、先ほど丘の上から見たセブン川へ繋がっているそうです。大雨のあとということもあり、歩いてきたフットパスはかなりぬかるんでいて、気が付いたら靴やズボンの裾が泥だけになっていました。なんとか泥を落として、街中のパブへダッシュ。ひと仕事終えて、ビールで乾杯。飲みながら、ふっとジルちゃんが、「今度カナダに里帰りした時、山靴探してこようかな〜」とつぶやきました。普通の運動靴で歩いていた彼女。どうやら、ぬかるんだ坂道は、さすがにすべることに気がついたようです。 ジルちゃんもぶらぶら歩きに本気になり始めたのかな・・・。しめしめ。 7th November 2015, Sat @ Cotswold Way (Painswick - Stroud), Gloucestershire トレイル情報: コッツウォルド・ウェイ オフィシャルサイト Cotswold Way (Aurum Press, 2012) 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2021...

 突然ですが、みなさんは、自分の住んでいる土地のことをどれだけご存知ですか?地形、地名の由来、歴史、文化、名産品、生息する動植物のことなどを、訪ねてきた人たちと話すことは、ありますか? 友達、親戚は、どこに住んでいる?  私は、英国に住んで15年弱になります。それ以前の私は、友人や親戚を訪ねても、会って話をすることが目的で、彼らがどのような土地に住んでいるのか、まったく興味がありませんでした。せいぜい住所を調べて、自宅からどうたどり着けるか、名所や名店があれば、たまに行くぐらい。その程度の認識でしかありませんでした。しかし、英国に拠点を移してからは、ある意味自然に、でも半ば強制的に、自分が立っている土地について学ぶようになり、今ではそれが普通になりつつあります。どうしてそのように変化したのか振り返ってみると、確かに異国での生活に慣れるために必要な知識だった、中年になりネオンより自然に目がいくようになった、都会から田舎暮らしを始めたなど、たまたまタイミングが重なったと言えばそうです。しかし、なによりも私が知る英国社会では、自分が住んでいる地域を知っているのは当たり前、普通のことでしょっといった空気があり、それに私が感化されたことが一番の理由なのではないかと思います。 自分だけの地図作り  こちらに住み始めたころは、人を訪ねるたびに、自分の英語力不足もあり、話についていけず置いてけぼりをよく食らいました。みな食事をしながら、お互いの近況報告、政治経済、ゴジップの話と共に、自分の家から半径二キロ圏内の出来事をこと細かく話をしているのです。その土地の天気はこうだ、庭に何が咲いた、家庭菜園に何を植えた、どこそこの森に野生動物が現れた、向こうの丘で珍しい石を見つけた、あそこの教会が修理を始めた、村の誰々さんからこんな昔話を聞いた・・・などなど。この人たちは、何が面白くてこんな話をするんだろう。世界がめちゃくちゃ狭くて、つまんないなぁ〜と笑顔を見せながら思っていたのです。そして、食後に散歩へ行き、同じような話をずーとしながら、時には話題の現場を見せてくれたりします。なんで毎回毎回、同じようなところを飽きずに散歩し、同じような話題ばかり話すんだろう。こんな地味な遊びをする英国人って、倹約家・・・というより貧乏くさい。ハイテク大都会・東京から移り住んできた私は理解できず、ちょっとバカにしていました。しかし、あんなに熱心に話をしているし、聞くほうも楽しんでいるし、喜んで歩いてるし、なんだかよくわからないけれど、みな好きなんだろうなと感じてはいたのです。  その後、英国情報も私の脳にちょっとずつ蓄積されていき、アナログな田舎暮らしにも慣れはじめていきました。そんなある日、毎日行なっていた犬の散歩でのことです。情報溢れる都会とは違い、何の変化も刺激もないと思っていた田舎道で、昨日は蕾だった花が、今日は咲いていることに気づき驚きました。「あれ?毎日同じ道を歩いているのに、毎回変化があったんだ。」諸行無常を、私なりに知る体験でした。どうやら、ガーデニングの仕事の影響もあったのか、街の流行から目の前の動植物へと視点が移っていったのかな・・・。そんなこともあり、半径二キロ圏内トークを、徐々に理解できるようになりました。英国では、食事や散歩をしながら、自分が置かれている環境の話をすることで季節や変化を丁寧に紡ぎとる。つまりそれが彼らの社交なんだろうなと思います。以前は、遠い世界やトレンドばかりを追っていた私でした。しかし、自分の拠点ををまず知り、その知識を元に他の土地を訪ねる。そうすることで、自分だけの3D、場合によっては4Dの世界地図を脳内で組み立てていける面白さを、英国で教えてもらいました。そしてその地図は、トークだけでなく、自分の足で確かめることで初めて完成となるようです。 新たな土地の過去、現在、未来  今年(2018年)の夏に、片田舎のエセックス州から、ド田舎のサマセット州に引っ越しをしました。引越しを終えて、まず最初にしたことは、購入した家の元オーナー家族と我々夫婦ふたりプラス犬の全員で、案内を兼ねて村を一緒に散歩しました。家を売買した関係だけなはずなのに、106年前に建てられた家と彼らの家と村に対する思いを、引き継ぐ儀式のように、私には感じられました。最後に、地元のパブでお互いの未来へ乾杯しました。それは、私の新たな地図作りがスタート!!と、鐘が鳴った瞬間でもあります。今は、愛犬の散歩がてら村を散策しながら、どんな地質、地形なのか。ここの地理がどのように人間社会と結びついたのか。今見えている古い建物がどう建てられ、どうしてそこに建てたのか。どんな野生動植物が生息しているのか。時には、家族や友人たちと一緒に、半径二キロ圏内トークに花を咲かせながら、調査をしている毎日です。 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2021...

国の遺産相続、ややこしや  「遺産相続」と聞いただけで、ややこしや、ややこしや。トラブルの火種、業と業のぶつかり合い、ドロドロした人間模様。サスペンスドラマやワイドショーにもってこいの題材であります。他人事として見ているぶんには楽しいですが、当事者となると、えらいこっちゃ!これは国の遺産レベルでも同じ。次世代に残そうとする者同士、または受け継ぐ者同士でごちゃごちゃと揉めることは、よくあることのようです。この場を守っていきたい熱い気持ちは同じなのに、その方法論が全く違うため、地元民を巻き込んで政治論争へと発展。さらにややこしいやなのです。 ドライストーンウォール(Dry Stone Wall)と呼ばれる石積みの壁に囲まれた牧草地。湖水地方の風景には欠かせないもの  今回取り上げる国の遺産の舞台は、英国のカントリーサイドの代名詞的存在であり、日本人観光客にも大人気のThe Lake District ー 湖水地方です。氷河によって形成された美しい山と湖、独特の石造りの家々、放牧された牛や羊たち。それらが醸し出す牧歌的でノスタルジックな魅力あるこのリゾート地が、なぜか論争の場となっています。それは、2017年ユネスコ世界遺産への登録という、ある人々には大きな希望、ある人々には嬉しくない遺産相続の形となったからです。そんな熱い現場へ、登録直後早速行ってきました。 なぜ、湖水地方は世界文化遺産? [osmap markers="SD4138598631!red;湖水地方" zoom="0"] [osmap_marker color=red] イングランド北西部 湖水地方 ウィンダミア  湖水地方が世界遺産に登録されたというニュースを聞いた時、「なんで今さら世界遺産なんだろう」というのが、正直な私の感想でした。18世紀産業革命初期から今に至るまで、この風光明媚な地は、人々を魅了続けてきました。1951年に国立公園に指定されてからは、さらにその勢いを増し、2017年度の観光客数は、1917万人*1にまで上り、2018年は、2000万までいくとされています。2016年に訪日外国人観光客が2000万人突破したことがニュースになっていましたが、それとほぼ同じぐらいの数が、限られた地域を毎年訪れていることになります。そのためハイシーズンに宿を予約するのは困難で、しかも高い。車の渋滞や駐車場、環境への負担やゴミの問題なども深刻で、地元民の生活への影響が懸念されています。 英ロマン派詩人、ウィリアム・ワーズワース。偉大な詩人、環境保護思想の原点を生み出した人物として、欧米では評価されている。ワーズワース博物館にて  多くの人たちが訪れるということは、想像以上のインパクトを、正負両方面から受けることになります。18世紀から地元では、この正負のバランスをどう保ち、この場を守っていくべきか、常に議論されてきました。湖水地方出身で、英国を代表するロマン派詩人、ウィリアム・ワーズワースは、1835年に出版された"A Guide through the District of the Lakes in the North of England "(湖水地方案内)*2の中で、湖水地方のことを、"a sort of national property, in which every man has a right and interest who has an eye to perceive and a heart to enjoy" ー 見る目と楽しむ心を備えたすべての人が権利と関心を持つ、一種の国民的財産である(小田友弥訳、2010)。ワーズワースは、時代の流れや外からの影響には逆らえずとも、国民的財産であるこの地が持つ美を損なわないよう、みなが努力する必要があると説いています。この一節は、今でも英国の環境保護思想の原点とされており、そこから自然・文化景観保全の概念、ナショナル・トラスト運動、国立公園構想が派生し、世界へと広がっていきました。この国民的財産の考えが巡り巡って、1972年の世界遺産条約に繋がったと言えなくもないわけです。そんな本家本元が、なぜユネスコ世界遺産に登録されることに、そんなに一生懸命になるのか。過去二度失敗し、三度目の正直の今回、ようやく文化遺産として獲得したこのステイタスに何のメリットがあるのか、不明でした。 その名の通り、湖が多く点在しているため、ハイキングやサイクリングだけでなく、ウォータースポーツも人気 グラスミアにあるダブ・コテージ。ワーズワースの代表作『水仙』は、ここで書かれた  そんな疑問を持ちながら、9月末の秋、湖水地方観光ホットスポットのひとつであるウィンダミアの駅に降り立ちました。湖水地方は、「景観設計の発展に重要な影響を与えた、価値感の交流 (登録基準 ii)」、「あるひとつの文化を特徴づけるような土地利用形態 (登録基準 v)」、「顕著な普遍的価値を有する芸術作品、文学的作品 (登録基準 vi)」の三つの基準を満たし、世界文化遺産として登録されました。ざっくり言うと、1)18世紀から続く環境保護思想、2)1000年続く自然と調和する畜産業、3)湖水地方の自然賛美から生まれたロマン主義、この三点の伝統文化が世界遺産として今後保護されるべきと認められたということです。この三点がどのようなものなのか、少しでもヒントが得られればと思い、まずは、ウィリアム・ワーズワースが住んでいたダヴ・コテージ、そして絵本『ピーターラビット』の生みの親であり、湖水地方環境保護活動家でもあったビアトリクス・ポターが晩年住んでいた、ヒルトップに行ってきました。世界中からの観光客で溢れる名所を、なぜわざわざ訪ねたか。湖水地方を深く愛した二人が、それぞれの創作活動する中で、湖水地方をどう捉え、どのようにこの国民的財産(遺産)を残していきたいと考えていたのか、少しでも感じ取れるかもしれないと考えたからです。 二人のレジェンドを訪ねて、答えを探してみた 大雨の中のヒル・トップ。それでも、多くの人たちが訪れていた  天気はあいにくの雨。ハイシーズン最後の週末にもかかわらず、ダブ・コテージ、ヒル・トップ共に人が集まっていて、見学待ちをすることに。ハイシーズン真っ最中だったら、一体どれだけ待つことになるのだろう。考えただけで、ぞっとします。ダブ・コテージは、ワーズワースの作品はもちろん、彼と交流があったロマン派の作家たちの作品保管と研究をしているチャリティー団体、ワーズワース・トラストが、ヒル・トップは、湖水地方で誕生し、ポターも支援者であった英国最大のチャリティー団体、ナショナル・トラストが管理しています。家内のガイドはすべてボランティアが行なっていましたが、皆プロ意識が強く、ジョークを交えながらも二人それぞれの人物の興味深い話を聞かせてくれました。学校の教科書や絵本でしか触れていない、遠くにいるレジェントたちが、私たちと同じように仲間と食べたり、飲んだり、散歩したり、自然を愛でたりしながら、インスピレーションの宝庫であるこの地で創作活動していたことを聞くと、存在がとてもリアルに思えてくるから不思議です。難しいことは理解できませんが、それでも二人の原稿や原画を見ていると、この土地への愛と守りたいという強い気持ちからくる使命感が溢れ出ていました。 決して標高は高くないが、崇高感がある湖水地方の山々  そんな二人の面影を感じ取りながら、家の周辺を3時間ほどぶらぶら歩いていると、なんだか彼らと繋がっているような気分になってきます。雨の中でも湖水地方は、幻想的な空気を織りなし、紅葉した落葉樹が、豊かな色彩を奏でていました。服も靴もびっしょり濡れて不快に感じる体は、この土地が持つ魔力に麻痺させられているのか、ずっと歩いていたい気持ちが抑えられず、足を止めることを忘れていました。確かに"Picturesque Scenery" 「絵になる風景」が、そこにはありました。何気なく感じているこのPicturesque (ピクチャレスク=絵のような)という審美上の理念は、ここで開花したロマン主義が残してくれた遺産です。 放羊は、畜産業?それとも、観光産業?  空、山、緑、水がある湖水地方の風景は、柔らかさと荒々しさが混在していて、どことなく日本の自然美と通ずるものがあります。今まで訪ねた英国の他の地域にはない親しみを感じ、とても新鮮です。いつまでもボーと見ていられる飽きのこない世界。ただ、日本ではお目見えしないものが、ここにはあります。ドライストーンウォール(英国式伝統石積み)で囲まれた牧草地。そこに、牛や羊が放牧されている光景です。英国の典型的な田舎の風景で、日本人が里山に対する郷愁と似たものが、ここにはあります。世界遺産でも、この地方で代々受け継がれてきた、山を生かした畜産業が評価のひとつとされました。ですが、これが問題だと指摘する方々がいます。畜産業なのに、畜産業の体をなしていない。産業としてすでに廃れていて、観光イメージ保持のためだけに、国やEUから援助を受けながら放牧を続けていることが、なぜ世界遺産に値するのか疑問の声が上がったのです。 放羊は、湖水地方になくてはならない存在と考える人が多いようだが、維持するには苦労が尽きない(注:写真の羊は、スワリデールという別の種類。ハードウィックは、撮り逃した。残念!!)  その象徴となるのが、湖水地方原種の羊、ハードウィック・シープ(Herdwick Sheep)です。この地方にしか生息しない希少種で、絶滅寸前であったところを、印税などで財を成したビアトリクス・ポターが、ナショナル・トラスト創立者のひとり、ローンスリー司祭と共に、この羊の保護に力を入れていきました。ハードウィック・シープは、湖水地方の厳しい自然の中でも生き延びることができる性質を持っていますが、逆に成熟するのに時間がかかり、羊毛も固く、激しい価格競争内では採算がとれず、農場から姿を消していきました。それでもこの希少種は、湖水地方の環境にはなくてはならない存在であると考え、ポターとローンスリー司祭の意思を継ぎ、ナショナル・トラストが後ろ盾となり、地元農家に協力する形で、保護活動を進めてきました。その後も、ナショナル・トラストやEUからの助成金を受けながら、グローバル経済、口蹄疫問題などをなんとか乗り越え、飼育されているのが現状です。ここの土地は耕作には向かず、そのために牧畜が発展してきましたが、このハードウィックをはじめ羊を飼う目的が、本来の製品価値より、観光のための景観保護という付加価値の要素がどんどん上回っていったのです。そして最後のひと押しが、世界文化遺産登録だったようです。 迷える子羊、湖水地方  私なりに見たり聞いたりしていくうちに、もしかして、今の湖水地方は、大きな壁にぶち当たっているのかも・・・? 彼らには、自然と人間の関係を時代の流れに押されながらも、より良いバランスを模索してきた豊富な経験とプライドがあります。そんな彼らが、新たな時代の価値観の前で、どちらに舵を切るべきか、もがき続けている。客を増やしたい。経済を活性化させたい。でも、観光資源は破壊したくない。新たな産業を発掘したい。でも、従来の農業も守りたい。便利な暮らしがほしい。でも、自然美を失いたくない。いろいろ欲張りすぎて、前に進まない。そんなどっちつかずの状態が続いている。素人の勘違いかもしれませんが、私にはそう映ります。 ワーズワースは、湖水地方の美を損なうカラマツの大規模植林を嫌っていた。今は、それに代わり北米原産シトカトウヒの植林が行われている。彼から厳しい声が聞こえてきそう  上にあげた羊の例ひとつとっても、そうです。エコロジーへの関心が高まっている今日、放牧を湖水地方の景観のひとつとして、助成金にどっぷり浸かりながら継続していくべきなのか。生産性のない家畜の数を減らし、森林を育てていくことが自然を守ることなのか、世界遺産登録後の現時点でも、議論は続いてます。保守系の新聞が、「英国は農業国だった歴史が長い。湖水地方の畜産業を保護するのに、何の疑問もない」と言えば、リベラル系の新聞が、「世界遺産登録は、放羊を推奨し、湖水地方をビアトリクス・ポターのテーマパークにしようとしている」と意見がぶつかり合い、イングランドの南北経済格差、EU離脱問題まで話が広がっていきます。  また、国民のための自然とレクリエーションの場としての国立公園の位置づけと、自然の中から発展した独自の文化を保護する世界文化遺産の間では、微妙にヴィジョンが異なります。観光やレクリエーションの要素を盛り込みながら、同時に環境も文化も守る。いい塩梅をどうやって保つのか具体的に見えてこないですし、二つの方向性内で解釈の食い違いもあるようです。他にも、観光重視の美しいカントリーサイドに徹っしていくのか。地元民が受ける観光公害や利便性が後回しになるジレンマをどう対処していくのか。緊縮財政やEU離脱による助成金削減をどう補うのか。全国でひとり当たりの年収が低い現状をどう打破していくのか。舞台裏では多くの疑問と意見が飛び交い続けています。 ロマン派の画家により、湖水地方の「絵になる風景」が多く描かれた  今回の世界遺産登録は、そんな多くの疑問と意見を消化しきれないまま、一部の力ある人たちで見切り発車させたのではないのかと、勘ぐってしまいます。いずれにせよ、世界遺産になったことは、ひとつのきっかけであり、この地域社会が生き残っていけるか、これからの方向付けが勝負になるように感じます。自然の中で育まれてきた文化が世界的に評価された。しかし、自然と文化が時には対峙してしまうこともあり、うまく調和しながらこの地の魅力を保つことは、難題です。きっと世界遺産に登録された地域どこもが抱える問題なのかもしれません。現地が抱える理想と現実の間で、地域住民や常連客の声を拾い、話し合いを十分に重ねることで、迷いや戸惑いが徐々に消えていき、10年、20年後には壁を乗り越え、進むべき道が示さること期待しながら、湖水地方をあとにしました。その時はきっと、世界にまた新たな波を届けてくれることでしょう。  ウィリアム・ワーズワースやビアトリクス・ポターは、今回の世界遺産登録をどう思うのでしょう。彼らの思う理想の遺産相続とは・・・。今回の訪問では、私の勉強不足もあり、結局答えを見出せませんでした。今後の湖水地方の動きに注目しながら、宿題とさせていただきます。 参照: *1 Tourism facts and figures, Lake District National Park *2 William Wordsworth, A...

 花鳥風月を気にし始めたら、それは老いてきた証拠とよく聞きます。私も気がついたら、周りにある自然をボーと眺めながら、季節の移り変わりに心動かされるような人間になっていました。大都会・東京で仕事と遊びに明け暮れ、お天道様を拝むことがほとんどない生活をしていた私。どうしたのでしょう。そのギャップに私自身が一番驚いているぐらいです。そんな少々老いてきた私が今気になっているのが、花鳥風月の「鳥」です。かわいらしさ、美しさはもちろんなのですが、今いる鳥は、恐竜の子孫、つまり恐竜そのものだという話を聞いて、私の中で注目度がさらにアップしました。その今も生き続けている「恐竜さん」がどんなものなのか、まずは見てみようとバードウォッチングのまねごとをして、双眼鏡をのぞいて見るのですが・・・、あれ、なんで?鳥が見つからない。 フル装備で、大きな単眼鏡と望遠カメラを抱え、湿地帯にくるバードウォッチャーたち  19世紀に英国から発祥したバードウォッチングは、今でもこの国のお家芸のひとつと言っても過言ではない、とてもポピュラーで身近な遊びのひとつです。私の住んでいるエセックス州は、湿地帯が多く、バードウォッチャーに大変人気なエリア。特に冬は渡り鳥たちが多く見られ、天気の良い日には、ハンティングウェアでカモフラーシュし、どデカい双眼鏡、または単眼鏡で、鳥たちを観察し、撮影している熱心なバードウォッチャーをよく見かけます。約300万人のバードウォッチャーが、この国には存在すると言われていて、それを象徴するのが、世界的にも有名な自然保護団体、王立鳥類保護協会(RSPB - Royal Society for the Protection of Birds)です。1889年に発足して以来、野鳥の保護とそれを取り巻く自然環境保全を促進してきた長い実績があり、会員メンバーが100万人以上の世界最大の野生動物保護団体です(RSPB HPより)。 真冬は、たくさんの渡り鳥が水辺に集まる。寒さより、野鳥観察  そのRSPBが1979年から毎年冬に行ってきた一大イベントが、Big Garden Birdwatch。約50万人のイベント参加者全員が、ある指定された週末一斉に、自宅で見れる野鳥をカウントし、その結果をRSPBに報告。その後団体によって集計され、英国に生息する野鳥の数とその変動を把握する貴重なデータとなります。今年は、1月27日(土)、28日(日)、29日(月)の三日間行われ、そのうちの日中1時間を自由に選びカウントします。庭がない人は、近くの公園、自然保護区、会社の敷地など好きなところを選ぶこともできます。家の窓から観察するのもよし、外でじっと観察するのもよし。集計結果は、指定された報告書に記入し郵送する、もしくはネット上で報告する2パターンのどちらかを選べます。 Big Garden Birdwatchへのカウントダウンを知らせる投稿。フェイスブックのページより © RSPB Essex  これはいい機会だと、私も早速自宅の庭に訪れる鳥たちを、双眼鏡片手にカウントにトライしてみました。ひとり庭の一角に構え、コーヒーを飲みながら、ハンターのように存在を殺し(ているつもり)、じっと鳥たちが来るのを待ちます。「ピヨピヨピョ〜」、「チュンチュンチュン」。2、3種類の鳥の鳴き声があちらこちらから聞こえてきますが、残念ながら鳴き声だけで、鳥の種類を確定できる知識は私にはありません。双眼鏡で「どこにいるの?」と木々の枝をくまなく見ていきますが、なかなか鳥そのものが見つからず、ひと苦労。「あ、いた!」と思っても、よく見たら木にぶら下がった萎れたリンゴだったり。これでは、カウントどころではありません。どうやら思い描いていた以上に、目が慣れ、コツを得るまでに時間と経験が必要なようです。よく考えたら私の主人は、子供の頃からハンティングをしていたからでしょうか、どこへ行こうと野生動物を見つけるのが得意で、毎回何気なしに指をさしながら、「ほら、あそこ」と教えてくれます。しかし、コンクリートジャングルのネオンばかり見てきた私は「どこ、どこ?」と聞いても、まだどこにいるのかわからないほど、ポイントずれずれです。バードウォッチングは、もともとハンティングから、野鳥を殺さず見て楽しむ遊びへと進化させたものです。つまり基本は獲物を見つけるのと同じということなんですね。 なかなか鳥の姿を見つけられず、カウントどころではない。それでも、ひたすら探し続ける  そんなバードウォッチング音痴の私ですが、めげずに探し続けました。カウントより、まずは鳥を見つけ出すこと。肉眼と双眼鏡両方であっちかな、こっちかなと見て回ります。ようやく開始して30分後くらい、木の上から美し歌声を響かせているヨーロッパコマドリを発見。誇らしげにジャズの即興ソロように歌い続けている姿を双眼鏡越しにキャッチ。この鳥は、12月中旬の寒さが厳しい時期から繁殖期の囀りを始めるそうです。きっと見たのはオスで、アピールに必死だったのか、かなり長い時間パフォーマンスを披露していました。次に登場したのは、鮮やかな黄色のボディ、その真ん中に顔からすっと黒いラインが入っている戦隊ヒーローみたいな模様をしたシジュウカラ。日本にいるシジュウカラとは、亜種が違い見た目が少し違います。警戒しているのか、せっかちなのか、忍者のようにぴょんぴょんと枝々を跳ねながら、「ティーキティーキ」とサイレン音のような鳴き声をだします。仲間にサインを送っているのかも。 ウェブでは、1時間のカウントダウン・タイマーとそれぞれの鳥のボックスに数値を記入できるようにしてある。とても便利 © RSPB  寒さが気にならないほど夢中になり、あっという間に1時間が経ちカウント終了。その後もハト、カラスなど合計5匹を目で確認できました。きっともっといたはずなのですが、残念ながら姿が見つからず。その後RSPBのウェブを通して、カウントした野鳥を報告し終了。とても気楽に参加できるイベントで、うまくカウントはできませんでしたが、それでもバードウォッチングを体験し、野鳥生態調査に参加できたことは、とても面白かったです。 私のカウント結果が、パイグラフで表示される。もっとカウントできたら・・・© RSPB 全体の途中結果と去年の集計結果もチェックできる © RSPB  野鳥観察を通して、自分の周りで一体何が行われているのかを知る。普段どこかで接点があるにもかかわらず、私たちが見過ごしている世界を意識することで、新たな視点を手に入れたように感じます。一番身近な自然と向き合い、意識を集中することは、少し瞑想に似たような、自分の存在や位置を再確認する行為なのではないかと思いました。何かとせわしない現代社会に生きる私たち。たまには立ち止まり、360度見渡してみる。野鳥たちがガイドとなり、未知なる世界へと連れて行ってくれる。バードウォッチングの魅了は、かなり深いようです。 参考資料: RSPB  ww2.rspb.org.uk 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2021...

庭に置かれたバードフィーダー(餌台)。ハトやシジュウカラがそれぞれ好みの餌を食べに来ています  初霜が降りると、クリスマスプレゼントや年賀状のことを考えだし、年末年始のお祝いモードを徐々に感じ始めます。このちょっとウキウキした感情は、宗教関連の祭り事が続くこともあり、どこかでみなと共有したい、分かち合いたいと身勝手ながら思うものです。私も「自分たちだけご馳走ばかり食べて申し訳ない」と感じます。そして「一緒に冬を乗り切ろう」とエールを送る意味も込めて、日頃楽しませてくれている野鳥たちへバードケーキを作り、庭の木々に吊るします。  バードケーキとは、鳥の餌をラードで固めた、主に冬に与える練り餌のことです。英国では、バードウォッチングが盛んで、庭に野鳥用の餌台バードフィーダーや水浴び用のバードバスなどを設置する人が多くいます。そこに集まってくる鳥たちを家の窓から眺めて楽しむことは、ごくごく普通の光景です。どこのスーパーマーケットへ行っても、ペット用品コーナーには、犬猫用の餌と同様、野鳥用の餌や餌箱が必ず陳列されています。それだけ野鳥は身近な存在のようです。 スーパーマーケットには、いろんな野鳥用のエサが棚に置かれています  木々の枝に吊るされたバードケーキは、ちょっとしたクリスマスデコレーションのようで、お祝いモードをさらに盛り上げてもくれます。餌が少なくなる寒い冬を生き抜くために、ナッツや穀物だけでなく、ラード、チーズ、ドライフルーツを混ぜて、タンパク質、糖質、脂質ばっちりのハイカロリーなケーキを作りました。レシピは、こちら。 ① ボールに、細かく砕いたナッツ、ドライフルーツ、オーツ麦、鳥の餌など、キッチンで余った食材をうまく活用し、自由に選んで入れていきます(塩や砂糖などが入っているものは少し控えめ、パンなどの穀物を加工したものは入れず、なるべく素材そのままを使用)。 野鳥たちが寒さに耐えられる体力作りを助けるために、タンパク質、糖質、脂質の三大栄養素を、バランスよく入れてあげるようにします。(ボールは、ラードでベタベタになるため、洗うのが大変です。ワックスペーパーやアルミフォイルなどを使用すると、洗う手間が省けます。) ② チーズをおろし器ですりおろしながら、加えます(塩分があるので、入れすぎないように注意)。 ③ 寒さ対策のために、ラードを小さく切り、ボールへ。ちなみにこのレシピは、冬用になります。 ④ ラードを指先で潰しながら、体温で柔らかくしていきます。(手は、油でベタベタになるため、のちほど洗うのに苦労します。必要とあれば、ビニール手袋を使用すると便利かもしれません。) ⑤ 溶けたラードと餌をうまく混ぜます。 ⑥ 写真のように、まんべんなく混るまでかき回します。  クリスマスっぽく、赤いリボンやひもで吊るし、松ぼっくり、アイビー、月桂樹の葉、乾燥させたラシャカキグサの花穂、オークの枝などを使ってデコレーションしていきます。ナチュラルテイストに、そして食後のゴミを考えエコなものでと思い、すべて自然素材にこだわりました。バードケーキは、子供達と一緒に作ってもきっと楽しいはずです。手をベタベタにしながらケーキを作り、庭にあるものを自由に使い飾り付け、外に吊るして野鳥観察。冬のアクティビティにオススメです。 鳥たちがうまく餌を食べれるよう工夫し、彼らに警戒させないよう自然素材で飾ってみました。クリスマスを意識して赤と緑ペースの色合い。童心に返ります。  リスやネズミなど鳥以外の野生動物たちが食べに来ることもあるので、それを避けるために、小鳥たちだけが食せるような木の枝を探し、吊るします。この時に忘れないようにしているのが、鳥たちの水飲み場です。冬の時期、餌は結構あげている方がいますが、水のことも気にかけてあげることが重要です。凍結で飲めない状態になり、脱水症状を起こしやすいのが、意外にも冬にはあります。 バードケーキの上にも、シリアルやナッツをトッピングして、さらに可愛く美味しそうに。大きいナッツは、彼らの足場になればと思いました。地面に落ちたら、他の野生動物が処理してくれることでしょう(笑)。 雪が降った後や霜で地面が凍っているときにあげると、鳥たちも喜びます。  バードケーキを吊るし始めの2、3日は警戒しているのか、それとも気がついていないのか、ノータッチでしたが、その後餌を見つけた鳥たちが、頻繁に突きにき始め、1週間後ぐらいには影形もなく、平らげていました。残念ながら私のカメラにはその様子を収めることができませんでしたが、英国で人気ナンバーワンのヨーロッパコマドリ、人懐っこいシジュウカラ、ビートルズの歌"Blackbird"でも有名なクロウタドリなどが、私の特製クリスマスケーキを堪能していました。私の気持ちが野鳥たちに通じて、日頃の糧を一緒に感謝し祝えたように感じ、寒さで冷えた体をポッと暖かくしてくれるものでした。野鳥との距離もぐっと近づき、彼らのことを今まで以上に気にかけるようになり、もっと知りたいと思うようになりました。野鳥との出会いは、散歩の楽しみをも、さらに広げてくれます。みなさんも、ぜひバードケーキを作って、庭に訪ねてくる野鳥さんたちと真のご近所交流してみてください。 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2021...

 「2017年総選挙、与党の保守党は過半数を獲得できず、宙ぶらりんの「ハング・パーラメント」。求心力を弱めたメイ首相、EU離脱交渉がますます困難に。」  6月8日(木)、英国下院議会・解散総選挙が行われた翌日、英国国内に激震が走りました。日本を含む世界へもこのニュースは流れ、去年行われたEU離脱を問う国民投票以来の注目を浴びました。市民権保持者ではない私には選挙権がないため、いち住民として、またある意味傍観者として、ことの成り行きを見守ってきました。そんな中、総選挙に絡んで、チャリティー団体の動きが活発になり、ちょっと気になりました。SNS上には、景観・自然保護団体、スポーツ・レクリエーション推進団体が、国政選挙に向けて、どんなアピールや政策提言ができるのか、団体が関心を寄せている諸問題を各党がどう解決していこうとしているかなど、連日フィードに投稿されていきました。 選挙運動期間中、連日私のフェイスブックのフィードには、チャリティー団体から選挙関連の投稿が・・・。© CPRE  私の勝手な思い込みですが、チャリティー(慈善団体)やNPO団体と聞くと、政治とは別枠、中立な立場で国がカバーできない部分を補い、市民のために活動をしているイメージがあったのですが、どうやらそうでもないようです。雇用、医療、難民、貧困、差別など国民ひとりひとりに直接関わることで、各党のマニフェストの焦点となる分野ならともかく、ウォーキング、サイクリング、乗馬などの、自然、スポーツ、レクリエーション、観光といった遊びは、生活に絶対になくてはならないものとは言い切れない(もちろん、必要だと思う方も多々いらっしゃいますが・・・)、政治とは別ものでは?これらの遊びは、もとは英国貴族から始まっており、生活(または心)に余裕がある人々が考えることなんだと、どこかで思っていました。地方や地域ベースだけでなく、国政レベルまでキャンペーンを展開するのは、やはりチャリティー大国ならではのことなのでしょうか。欧州でのチャリティーは、キリスト教の教えに基づく教会から起きた活動が元のようで、政治に関与することに、政教分離ではないけれど、なんとなく違和感があるのですが、国教がある英国は、日本とは状況が違うのかもしれません。毎日フィードに、絶え間なくアップされる投稿に 「こうゆうこと、するんだ・・・」とちょっと戸惑っていました。例えば、各団体の主張は、こんな感じです。 The Wildlife Trust(野生動物保護団体)  自然を保護することは、自然の一部である人間を保護することである。我々は多くの野生動植物を守り、自然をもっと身近なものとするべきと考える。環境保護に関する規制は、現在EUベースで行われており、離脱後、独自の環境保護法を制定し、世界をリードする目標の高いものにする必要がある。また、海上の自然保護区をいち早く定めるべき。  自分たちの選挙区の候補たちに、自然保護がどれだけ大切なのか、どのような保護活動を考えいるのか、話を聞きに行くよう勧める。理事長によるビデオメッセージも紹介。 ザ・ワイルドライフ・トラストのウェブサイトより。政策提言と理事長からのビデオメッセージが掲載されている。© The Wildlife Trust Sustrans(サイクリング推進団体)  我々は、よりよいサイクリング環境を作るために、他のサイクリング、ウォーキング推進団体と組んで、それぞれの政党に、3つの提言をする。 a)新しい大気汚染防止法の制定。毎年約4万人が大気汚染により死亡しており、全国の道路80%は、基準値をはるかに超える汚染度である。ディーゼル車の排気ガス規制、サイクリングやウォーキングを推進、排出ゼロへシフトできるような仕組みを強化するべき。特に離脱後も、継続してこれらの問題を解決できるような法整備が必要。 b)サイクリストや歩行者が安全な道を利用できるよう、道路整備の予算を、主に高速道路へ使うのではなく、地方道に使うべき。一マイルにつき、2万7千ポンドを投資するれば、イングランドの97%の地方道が整備される。(*高速道路は、一マイルにつき、110万ポンド。イングランド全体の3%の道しか整備されない)。 c)サイクリングやウォーキングを推進するために、予算をもっと割くべき。それにより、国民の健康向上、公共交通費の値下げ、商店街の活性化、大気汚染減少などの効果が見込まれ、最終的に大きな財政削減対策になりえる。 サストランズのウェブサイトより。車ではなく、持続可能な交通手段の利用を推進する団体。彼らの政府への要望は、かなり野心的。© sustrans Living Streets(街における歩行者を守る団体)  上記のSustransと組んで、キャンペーン活動をしている。3つの提言を、各政党がどのようにマニフェスト上で提言しているのか、比較したリストを公開。また、政権を握った政党が、きちんと提言通りに3つのポイントを実行するか、常に監視していこうと訴える。 リビンク・ストリートのウェブサイトより。サストランズと共同キャンペーンを展開中。それぞれの政党は、彼らの関心事をマニフェスト上で、どう提示しているのか、比較している © Living Streets CPRE – Campaign to Protect Rural England(イングランド地方保護団体)  総選挙に向けた団体独自のマニフェスト ”Stand up for the Countryside” を発表。 CPRE のマニフェスト。各政党が発表する前に、すでにリリースされていた © CPRE  美しい田舎を守り、よりよいものにするということは、地方経済に大きく貢献することであり、人々の生活向上につながり、個人や地域のアイデンティティを確立するものである。これらのことを次世代に残すべき以下の提言をする。 1)緑地帯、国立公園、AONB(英国版国定公園)をより積極的に守る。特に近年の住宅開拓からこれらを守る必要がある。 2)財政面だけで農業、環境をサポートするのではなく、地産地消を推進することで、安全な食を国内で生産し、美しい景観を残し、レクリエーションの機会を増やし、地方経済を潤す、新たな補助金システムが必要。 3)財政を主要道中心とする公共事業ばかりに投資するのではなく、持続可能な社会を形成するために、鉄道やバスなどの公共交通機関の充実、サイクリングやウォーキングによる移動を可能にする環境作りが必要。 4)ゴミ処理による公害対策の強化。リサイクル環境をさらに良くし、美しい自然を守る。 5)EU離脱後も、現EU環境法を継続できるよう、そのまま国内法へ移行し、新たに強固な環境法を制定するべき。 The Ramblers:(ウォーキング推進・環境保護団体) ランブラーズのマニフェスト。チャリティー団体が、政党顔負けのマニフェストを制作 © Ramblers  総選挙に向けた団体独自のマニフェスト”Manifesto for a Walking Britain”を発表。 1)EU離脱に伴い、政府は農産業への投資を保証し、カントリーサイドへのアクセスを改善するべき。アクセス権(通行権含む)があるエリアを規定通りに管理している農家へは報酬を与え、逆に満たない農家へは、補助金を減らすシステムを提案。 2)国民の健康問題は、ますます深刻になり、財政面でも大きな負担となっている。歩くことは、人が心身ともに健康になる最適の方法である。それを実行するために、予算を確保し、歩ける環境整備と医療機関と連携ができるシステムを構築するべき。 3)都市は、車移動をベースにデザインされており、自転車や歩行者がより安全で、緑を楽しめるような環境にするべきである。次期政権には、国民すべてが、自宅から徒歩10分以内に緑地へ辿り着けるような環境作りを求める。 4)ナショナル・トレイル存続の保証。前政権は、2020年までにイングランドすべての海岸線を歩けるようトレイル整備への予算投入を約束。次期政権でも継続されるよう保証が必要。また、他のナショナル・トレイルが、長期存続できるような保全・管理体制を求む。  上記のマニフェスト発表以外にも、”General Election 2017 Hustings Guide”として、選挙運動中の候補者に、どのように話をしに行くのか、どこで候補者による集会が開催されているのか、実際の集会でどのようなことを聞いたらいいのか、選挙後当選した国家議員をグルーブ・ウォーキングにどう招待するのかなど、具体的なアドバイスをしている。 車、自転車、歩行者が、道をどう安全に共用できるのか、問われている  ざっと、ランぶら歩きする環境を保護している代表的な団体が、選挙中提示した内容です。かなり積極的で、限られた国家予算をどれだけ自分たちの活動目的に役立てるか、法を制定できるか、非常に政治的な面が見えてきます。ただ、倫理的な気持ちベースでアピールするのではなく、多くのデータに基づいた政策提言であり、自分たちの利益ではなく、政府や国民にとっての利益のためにというスタンスは、絶対に外してはいません。また、具体的にどこの政党、候補者を支持しているということはありません。あくまでも団体のポリシーを表明し、それぞれの政党の考えを比較し、その情報を国民に公開することで、判断基準のひとつにしてもらおうとしています。もちろん、EUの厳しい規制に不満を持つ農家を筆頭にこれらの提言に反対する人々もいますし、アウトドア愛好家の中でも、政治色が強すぎるキャンペーンを嫌う人達もいます。ただ、環境を守るということは、自分の周りだけの問題ではなく、国全体、または欧州、果ては地球全体で考え、取り組まなくてはならない。自然現象に国境はない。その考えをベースに全EU加盟国が今まで協力して行ってきた環境保護が、英国EU離脱により、大きく変化するかもしれない。行き先の見えない不安が、一層これらの団体の声が上がる理由かと感じます。 ロンドンでは、オリンピックを機に貸自転車をあらゆる場所に設置した  自然保護やレクリエーションを楽しむために、政治の場面でも、イケイケで押し捲る、ガンガンプレッシャーをかけて、自分たちの目的を達成するアグレッシブさは、私には新鮮に映ると共に、どことなく感覚で理解できない部分があります。のどかな美しい田舎、森林浴でやさしい癒し、豊かな自然の恵みといった日本人が持つ、のんびりソフトな静のイメージからは想像しにくいものなのかもしれません。ただこの行動は、英国人(欧州人)特有の自然観からくるものと片付けられず、19世紀に起こった産業革命により、ほとんどの自然と多くの歴史的建造物を失い、公害による健康への悪影響で苦しんできた経験があるからこそ、ここまでのモチベーションを保てるのではと感じます。何かを失った人たちが持つ強い気持ちは、石のように硬い。今回は、ちょっと違う角度から英国政治を追う、私にとってそんな総選挙になりました。 選挙期間中のランブラーズ・ウェブサイト、2017年総選挙ページより © Ramblers 参考資料(総選挙関連ウェブサイトページ): The Wildlife Trust www.wildlifetrusts.org/GE2017 Sustrans www.sustrans.org.uk/blog/general-election-2017-sustrans-cycling-and-walking-manifesto-asks Living Streets www.livingstreets.org.uk/what-you-can-do/blog/general-election-where-the-parties-stand-on-walking CPRE www.cpre.org.uk/local-group-resources/item/4595-general-election-resources-for-branches The Ramblers www.ramblers.org.uk/policy/vote-for-walking-manifesto.aspx 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2021...

 森や草原を歩いていると、多くの野生動植物を目にし、時の移り変わりを感じることができます。水仙の花が春の訪れを伝え、ツバメのスイスイ飛ぶ姿が夏を運び、リスがナッツを土に埋め出すと秋が近く、霜で真っ白になった木々が冬の静けさを演出。自然を観察しながら歩く、これがランぶら歩きの醍醐味のひとつではないでしょうか。そんな野生動植物を保護しているチャリティー団体、ザ・ワイルドライフ・トラスト(The Wildlife Trusts)が、今月2017年6月から全国一斉に、30 Days Wildキャンペーンをまる一ヶ月実施します。ザ・ワイルドライフ・トラストは、英国内にある2300ヶ所の自然保護区を所有、または、共同管理し、保護活動を展開しています。うちの近所にもエセックス・ワイルドライフ・トラスト(Essex Wildlife Trust)管理下の自然保護区があり、よくランぶら歩きしに行きます。 30 Days Wildキャンペーンパック申し込みウェブサイトより © The Wildlife Trusts 野花の種を無料配布  トラストはここ最近、Living Landscapeキャンペーンを展開。これは、トラストや他の団体が持つ保護区に現存する野生生物を守るだけでは、 自然保護としては不十分であり、彼らが数を増やせる環境を広げることで、生物多様性の世界を実現しようという目的で始まりました。具体的には、自宅の庭や校庭に野生動物が住めるような工夫、例えば庭の囲いは垣根にする、鳥たちが食す植物を植える、害虫を駆除してくれる虫たちの巣箱を庭に設置する。そして自然観察する。つまり、自宅で自然保護区を作ってしまおうというものです。そして今回の30 Days Wildキャンペーンは、Living Landscapeキャンペーンの中から派生した、自然体験強化キャンペーンで、”Random Acts of Wildness”のスローガンのもと、自然に触れる何かしらのことを毎日続けて、それを一ヶ月間記録に残そうというものです。野生動物が好む餌を置いたり、バードウォッチングしたりするだけでなく、ランチを外で食べたり、夫婦で庭でワインを楽しんだりと一日ほんの少しの時間でも自然と向き合う。人々に日頃から自然に馴れ親しんでもらい、野生動物に目を向ける習慣を身につけてもらうことが、目的のようです。  先日、エセックス・ワイルドライフ・トラストから、30 Days Wild Packが届きました。中身は、一ヶ月のカレンダー、シール、野花のタネ、キャンペーン活動の提案など。それぞれのグッズは、遊び心満載のワクワクさせるデザインで、子供はもちろん、大人も童心に帰って、自然の中へ飛び出していきたくなります。余談ですが、英国のチャリティー団体は、かなりデザインやPRにこだわっていて、よく研究されています。有名な広告代理店が関わっていることもあるようで、それだけ世間に上手にアピールすることが、活動を理解してもらい、会員を増やす結果になることを知っているのでしょう。シンプル&スマートで、親しみのある、インパクトが強い、エキサイティングなデザインが、施されている。とても真面目で、時には深刻なテーマで取り組んでいる団体もいますが、それとは裏腹にヴィジュアルは、キャッチーでクールな興味の引くものが多いです。 キャンペーン中に何ができるか、トラスト側から沢山のアイデアが提示されている。30 Days Wildキャンペーン・ウェブサイトより © The Wildlife Trusts スマートフォンでアプリを使い、参加もできる  今回はSNSも駆使し、#30dayswildのダグをつけて、お互いの活動を報告し合うことも、キャンペーンの目玉のひとつとなっています。専用のアプリをダウンロードすることもできます。さて、私は明日から、どんな野生動物に会え、彼らに何ができるのでしょうか。Go Wild!! 参考資料: ザ・ワイルドライフ・トラスト www.wildlifetrusts.org 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2021 ...

 「私たちみたいな物好きが、結構いるんだ。」氷点下まで下がった冬の晴れた朝、駐車場に到着した友人と私は、寒さに震えながら驚いていました。  年が明けて、ガーデニング仲間から連絡があり、久しぶり会うことになりました。冬は、天気の都合でガーデニング仕事は、やれることが限られ、暇な時間が多くなります。そんな時は、普段できない家のことをしようと張り切るのですが、二、三週間すると家に籠っていることが段々苦痛になってきます。そんなころ、同じようにイライラし始めてきた仲間からの連絡。みなで散々「冬の屋外作業は最悪!」とブツブツ文句を言っていたのに・・・、職業病ですかね。 [osmap markers="TQ6625187435!red;ラングドン自然保護区" zoom="0"] [osmap_marker color=red] イングランド東部 ラングドン自然保護区  どこか歩きに行きたいということで、彼女が昔働いていたラングドン自然保護区(Langdon Nature Reserve)へ行くことになりました。ラングドン自然保護区は、野生動物保護団体であるエセックス・ワイルドライフ・トラスト(Essex Wildlife Trust)が管理している地域です。ロンドン市内から東に約51キロ、バジルドン(Basildon)という第二次世界大戦後にできた大きなニュー・タウンがあり、その端すれすれの461エイカー(約56万坪)を保護区として、団体が所有しています。  車で到着すると、寒さ厳しい平日の朝にも関わらず、すでに車7、8台が駐車され、予想以上に訪れているひとたちがおり、びっくりして思わず友人と顔を見合わせてしまいました。普段は、冬の湿気(英国は、基本冬が湿気が高く、夏が乾燥してます)のためにぬかるんでいるであろう道も、石のようにカチカチに凍結し、吐く息が白い煙となって舞い上がるほどの冷え込みの中、友人の犬二匹を引き連れて、歩き始めました。斜めから降り注ぐ朝日が眩しく、大地からの冷気と共に、体を完全に眠気から覚させてくれます。  産業革命で損なわれた自然を取り戻そうと、19世紀後半から自然保護運動が英国で盛んになり、そこで生まれたチャリティ団体のひとつであるワイルドライフ・トラスト。銀行家であり動物学者であったチャールズ・ロスチャイルドが、自然破壊と大衆に広まったスポーツハンティングによる乱獲によって激減した野生動物を守るために、1912年に設立した団体が始まりとなります。その後1957年に各地で独自に設立されていた野生動物保護団体が結集し、全国規模での連盟を組む動きとなり、自然保護チャリティ団体トップのひとつにまで成長しました。現在は、ワイルドライフ・トラスト(正式名は、The Royal Society of Wildlife Trusts。チャールズ皇太子がパトロン。)として全国レベルの活動やキャンペーンを取りまとめ、その傘下に47の地方保護団体が存在し、各地域の保護活動を行なう、二段階組織となっています。47団体の財布は、それぞれ別になっており、活動内容も地域により微妙に異なりますが、野生動物を守るための環境作りという信念を共有し、ロゴやPRでのデザインを統一することによって、連帯感を強く打ち出しています。会員登録数は、現在80万人。 看板右上にあるのが、アナグマを使ったトラスト全国共通ロゴ  ここラングドン自然保護区も、住宅街脇にあるとはいえ、野生動物が住みやすく、それでいて訪れる人々が自然を楽しめるよう、保全とレクリエーションのバランスをうまく考えて管理しているのが、歩き始めてからすぐわかり、ワイルドライフ・トラストの信念が窺えます。友人のガイドのもと、丘の麓から、斜面を登りながら上へとゆっくり歩いて行く中、森に響き渡る野鳥の鳴き声に耳を傾け、半分凍った池にいる水鳥が羽を膨らませ肩を寄せ合う姿に同情しつつも笑い、野生動物の餌となる虫が好む草花を植えてある庭に興味惹かれと、なかなかバラエティに富んでおり、飽きることがありません。 ワンコたちも、散歩でリフレッシュ  このラングドン自然保護区を所有しているエセックス・ワイルドライフ・トラストは、エセックス州内の自然保護区87ヶ所、自然公園2ヶ所、ビジター・センター11ヶ所を所有・運営・管理していて、ワイルドライフ・トラスト47地方団体の中でも、規模が大きく、今一番勢いがある団体のひとつです。つい最近も新たなビジター・センターがオープンしました。人口が集中し、地価が上がったロンドンからエセックスに移り住む人々、特に小さなお子さんがいる家族が、子供たちと一緒に安全でお金をかけずに楽しめる場所として、エセックス・ワイルドライフ・トラストの保護区を訪れているようです。都会にいた人たちは、身近にある自然のありがたさを、飢えていた分よくわかっているので、熱心な支持者になってくれているように見受けられます。そんな子供たちを持つ家族や学校をさらに呼び込もうと、2016年に作者のビアトリクス・ポター誕生150周記念の一環で、ピーターラビット™・ウッドランド・トレイル(The Peter Rabbit™ Woodland Trail)と題し、 ピーターラビットに登場するキャラクターの木彫が、ラングドン敷地内のところどころに設置され、子供達に訪ねてもらうトレイルがイースター(復活祭)にお披露目となりました。湖水地方に行かずともピーターに会えるということで、人気となっています。またビジターセンターには、ピーターラビット関連商品がたくさん陳列されていました。きっと契約上でのお約束なのでしょう。  友人と世間話をしながら歩いていると、向こうから、ヘッドフォンで音楽を聴きながら、腕には何かを計測するものを装着し、ペットボトルを腰に巻きつけてランニングしている女性が、「おはようございます」と言って走り去っていく。そうかと思えば、車椅子に乗った男性が、二匹の犬を連れて散歩しながら、「今日は寒いけど、清々しい天気ですね」と笑顔で挨拶してくる。きゃっ、きゃっと声がするなと思ったら、自然学習の一環で訪れているのであろう20人ぐらいの小学生たちに、引率の先生が「こっちに行きますよ」と叫んでいる姿が見えました。  エセックス・ワイルドライフ・トラストの自然保護区は、どこもそうなのですが、利用者に対して、特に保護理念を押し付ける感もなく、歩道には必要最低限の情報しか提供せず(その分、入り口やビジターセンターではしっかり保護区の説明がされているが)、しかし、さりげない工夫が随所にほどこされており、訪れた人々も気楽に、自分たちのスタイルで利用できる。だから、野生動物観察、自然授業、ランニングなどのスポーツ、犬の散歩など、年齢も、タイプも全く違う人々が、それぞれの目的でこの場を楽しんでいる姿があり、歩いている私も野生動物観察だけでなく、人間観察もできてなかなか面白いです。 歩道が整備されているので、車椅子でも楽々  「私が勤めている時に、この保護区で、アゲハチョウ目撃情報が入ってきて、一時大騒ぎになったことがあったの」と蝶のために萌芽更新で伐採された木々を横目に、友人が話し始めました。「私は、そんなの英国で絶対にありえないと言っていたけれど、温暖化だの、気候変動で動植物が北上している話などがあって、もしかして・・・って、みな思い始めていたの。正式に公表しようと動き出した矢先、実は近所の住宅街でアゲハチョウをお土産にどこかから持って帰ってきて、外に放したひとがいたことがわかったのよ。アゲハチョウが、ここで生き残れるはずがないじゃない。お騒がせな話よ。信じられない」と彼女の笑い声が森中に響き渡りました。エセックス・ワイルドライフ・トラスト存続のためには、保護区での活動や会員に対する教育向上はもちろん大切ですが、それと同時に敷地周辺の地域住民や地方行政の理解を深めていくことがさらに大事なんだなと教えられました。きっとそんなこともあり、ビジターセンターで購入した案内書の説明文中に、”A large amount of the reserve is surrounded by houses. This brings many unnecessary pressures on the reserve.(この自然保護区は、ほぼ住宅に囲まれていて、不必要な弊害を受けています。)”と書かざるおえなかったのかなと彼らの苦労を感じます。 プラットランド最後に残った家  ラングドン自然保護区には、自然以外にも、ちょっとユニークな歴史があります。ここはもともと、農地でした。ところが1900年代に入り、硬い粘土質の土地を耕す労力と安い輸入食品による生産力の低下により、このあたりの農地が徐々に売りに出されました。そして1930年代ごろから、田舎の空気を吸いたいロンドン住民がプロットランド(Plotlands)と呼ばれる小さな土地を買い始め、簡易コテージやバンガロー、物置小屋などを建て始め、週末や休日をここで過ごすようになりました。全盛期には、200件ほどの建物や庭があったそうです。第二次世界大戦に突入すると、人々は難を逃れここに疎開し、本格的に住み始めるようになりました。しかし大戦後は、ニュータウン開発でほとんどの土地が取り込まれ、プロットランド最後のコテージも、1980年代に住み手がいなくなり、エセックス・ワイルドライフ・トラストに寄贈されました。保護区内には、プロットランドであった時代の旧跡も随所に残されており、活気に溢れていた時代を語り継いでいます。 霞んでいなければ、ロンドンが見える  丘に上がると、ところどころで展望が開け、なだらかな大地が続いていくのが見えました。友人が目の前を指差して「この先にロンドンの中心街が、霞んでいなければ、はっきりと見えるの。聞いた話によると、ここに疎開してきた人たちは、この丘の上で、ドイツ軍の空爆によって焼かれていくロンドンを、ただただ見つめていたそうよ。」野生動物のパラダイスから、地獄絵へと一転。戦争が急に身近に感じられ背筋がゾクッとしました。この大空襲のように悲惨な戦争をヨーロッパで二度と起こさないために、欧州連合(EU)ができた経緯があります。しかし、そのEUから英国は今離脱しようとしている。複雑な思いで、遠くに見えるであろうロンドンを眺めていました。人々の生活を激変させてしまうような歴史的出来事について、何かの記念碑が立っているわけでも、どこかに記録されているわけでもない、ひょっと訪ねた土地で、ごく普通の一般市民から話を聞く。これほどリアルで強烈なものはありませんでした。  今回は、気分転換のために、たまたま訪れたラングドン自然保護区。しかし思いもよらず、いろいろな話を通して、環境保護とは何ぞや?と改めて考えさせられる機会となりました。まずは人々の暮らしが守られて初めて、野生動物や自然について考えられるということは、確かだと思われます。 19th January 2017, Thurs @ Langdon Nature Reserve, Essex 参考資料: エセックス・ワイルドライフ・トラスト www.essexwt.org.uk 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2021...

The Bard of Avon エイヴォンの詩人。  これは、英国を象徴する超有名人のニックネーム、その人物を表す隠語です。場合によっては、The Bardだけで呼ばれることもあります。このザ・詩人さん、詩はもちろん、劇作家として演劇・文学に多大なる影響を与え、彼のお芝居は世界中で上演されており、今もなお第一線で活躍していると言っても過言ではありません。また、英語という言語の可能性を広げた功績は大きく、英語圏の方にとっては、言葉の神のような存在です。そのため、彼の故郷であるストラトフォード・アポン・エイヴォン(Stratford upon Avon)には、世界中から巡礼に訪れる方々が、年間50万人以上に登るそうです。 [osmap markers="SP1963755124!red;ストラトフォード・アポン・エイヴォン" zoom="0"][osmap_marker color=red] ストラトフォード・アポン・エイヴォン  その人物、エイヴォンの詩人こと、ウィリアム・シェイクスピア。今年2016年は、彼の没後400年記念の年で、各地で上演やイベントが一年通して行われています。 お恥ずかしい話ですが、私は大学時代にシェイクスピアの授業を受け、とにかく彼の古典英語、特に詩がわからず、泣く泣く勉強した思い出があり、未だにシェイクスピア=小難しいイメージから抜け出せずにいます。ただ、英国に暮らしていると、新聞や雑誌の記事、テレビ報道、身近なところでは、結婚式スピーチなどで彼の言葉が引用されているのをよく見聞し、そのたびに彼の存在の大きさを感じさせられています。  そんなシェイクスピアのシェの字もわかっていない私が、観光客魂丸出しで、冷やかし半分、シェイクスピア誕生記念パレード&式典が行われた4月最終週末に、ストラトフォード・アポン・エイヴォンを訪れました。ただ、単なる観光ではつまらんと、私なりの巡礼方法で、お参りさせていただきました。それは、Shakespeare's Walking Weekという、地元ランブラーズ・グループによるイベントに参加し、歩きで彼の故郷を知るということです。ストラトフォード・アポン・エイヴォンは、英国中部地方都市・バーミングハムから、少し南下したところにある、エイヴォン川沿いの小さな町です。静かな田舎に、突如大勢の人たちで溢れかえるスポット出現。町中を歩いていても、英語だけでなく、世界中の言葉が飛び交っていました。記念行事があったためか、とにかくシェイクスピアに対する熱がすごい。彼の作品を理解できない私でも、人々の彼に対する深い尊敬の念は、肌でひしひしと感じられました。 Shakespeare's Walking Weekへ参加  そんな熱気に包まれた町の広場の一角に、ランブラーズのロゴがプリントされた反射チョッキを着た人たちが現れました。ストラトフォード・アポン・エイヴォンのランブラーズ・グループ(the Stratford-upon-Avon Group of the Ramblers)のみなさんです。ランブラーズ(Rambers)とは、英国におけるレクリエーション・ウォーキングとその環境保全活動をしているチャリテイー団体です。全国各地にウォーキング・グループがあり、自由に参加することができます。ストラトフォードのグループは、地元のウォーキング・ガイドブックを制作して観光案内所で販売したり、整備ボランティアを結成してフットパスをメンテしたりと、かなり精力的に活動しているグループで、この記念すべき年に、Shakespeare's Walking Weekを企画したそうです。「普通なら、Walking Festivalと打ち出すところだけれど、そんな大げさなものではないから、あえてWeekにしたの。みんなで、一年前から準備してきたんだけれど、それはまるで誰かの結婚式を準備するみたいだった。ささやかだけれど、私たちなりの方法で、この記念すべき年を祝いたかったのよ。」イベント・リーダーのスーザンさんが話してくれました。実際に参加してわかったのですが、役所、観光局、シェイクスピア関連団体が関与しているわけでなく、純粋に彼らだけで計画した、手作り感満載のウォーキング・イベント。一週間シェイクスピアゆかりの地12コースを歩く、こじんまりとしたものです。コースは、7、8キロ程度の短いものが中心で、中には車椅子で参加できるものも用意されており、気軽に参加してもらいたい彼らの思いが垣間見えます。現グループ所属メンバーは、300人ほどいるそうですが、実際に歩ける人は半分ほど。つまり高齢者が多いということです。そのため、このような機会が新しいメンバーを増やすきっかけになればと考えているようでした。 シェイクスピアが参加?!  30人前後の参加者が集まり、道に溢れている大勢の人たちをかき分けるように、ウォーキングはスタートしました。地元や近郊からの参加もあれば、アメリカ、アジア、中東からの観光客も一緒に混じり、中高年から若いカップル、学生仲間、ひとり旅の女性など、さまざまな人がいる光景は、ここストラトフォードならではだと思います。町を一歩出ると、今までの喧騒がうそのように、静かで穏やかな田園風景が広がっていて、まるで時空を越えたかのよう。緑の麦畑と黄色い菜の花畑のコントラストが永遠に続く大地の真ん中を、エイヴォン川がゆっくり蛇行し、ストラトフォードの町を通過していきます。シェイクスピアが眠る教会の尖塔が、天を指差すような鋭さで輝きを放っていて、その奥には、日本でも人気があるコッツウォルズ地方が見えていました。ストラトフォードの町中には、チューダー様式の建物が多く残されおり、シェイクスピアが生きた時代を体感でき、訪れた人たちを楽しませています。ただ私には、それらの建物より、むしろ丘の上から町とその周辺の景色を、地元の人たちと一望に収めたときのほうが、シェイクスピアの世界をリアルに感じられました。  散策しながらその土地を楽しむ。地元の人たちと歩を共にし、同じ時間を共有することで、その場だけが持つ独特のエネルギーと空気感をじっくり味わう。そこで生活している人々の話を通して、その地が刻んできた歴史や生活を知る。そうすることで、真の姿が見えてくる。歩く旅だけが持つ醍醐味のように思います。きっと英国人たちは、とうの昔にそのことに気がついていたのでしょうね。同じような歩くイベントが、UK各地で盛んに行われているのも、うなずけます。ストラトフォードという町は、シェイクスピアというひとりの天才によって成り立っているように思っていましたが、そこにある長い年月と共にできてきた自然と人々の暮らしが、彼の才能を開花させ、多くのすばらしい作品を残してくれたんだと、歩いていて初めて実感しました。そう思うと苦手意識の強かったシェイクスピアも、ぐっと身近に感じられ、自然に情が湧いてきます。「一度彼の演劇、観に行ってみようかな」とふと思う自分がそこにいました。 シェイクスピアも、この道を歩いたのかもしれない 23rd April 2016, Sat @ Anne Hathaway's Cottage & Hansell Farm, Stratford upon Avon 参考資料: ストラトフォード・アポン・エイヴォン ランブラーズ www.stratfordramblers.com 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2021...