Big Garden Birdwatch
花鳥風月を気にし始めたら、それは老いてきた証拠とよく聞きます。私も気がついたら、周りにある自然をボーと眺めながら、季節の移り変わりに心動かされるような人間になっていました。大都会・東京で仕事と遊びに明け暮れ、お天道様を拝むことがほとんどない生活をしていた私。どうしたのでしょう。そのギャップに私自身が一番驚いているぐらいです。そんな少々老いてきた私が今気になっているのが、花鳥風月の「鳥」です。かわいらしさ、美しさはもちろんなのですが、今いる鳥は、恐竜の子孫、つまり恐竜そのものだという話を聞いて、私の中で注目度がさらにアップしました。その今も生き続けている「恐竜さん」がどんなものなのか、まずは見てみようとバードウォッチングのまねごとをして、双眼鏡をのぞいて見るのですが・・・、あれ、なんで?鳥が見つからない。 フル装備で、大きな単眼鏡と望遠カメラを抱え、湿地帯にくるバードウォッチャーたち 19世紀に英国から発祥したバードウォッチングは、今でもこの国のお家芸のひとつと言っても過言ではない、とてもポピュラーで身近な遊びのひとつです。私の住んでいるエセックス州は、湿地帯が多く、バードウォッチャーに大変人気なエリア。特に冬は渡り鳥たちが多く見られ、天気の良い日には、ハンティングウェアでカモフラーシュし、どデカい双眼鏡、または単眼鏡で、鳥たちを観察し、撮影している熱心なバードウォッチャーをよく見かけます。約300万人のバードウォッチャーが、この国には存在すると言われていて、それを象徴するのが、世界的にも有名な自然保護団体、王立鳥類保護協会(RSPB - Royal Society for the Protection of Birds)です。1889年に発足して以来、野鳥の保護とそれを取り巻く自然環境保全を促進してきた長い実績があり、会員メンバーが100万人以上の世界最大の野生動物保護団体です(RSPB HPより)。 真冬は、たくさんの渡り鳥が水辺に集まる。寒さより、野鳥観察 そのRSPBが1979年から毎年冬に行ってきた一大イベントが、Big Garden Birdwatch。約50万人のイベント参加者全員が、ある指定された週末一斉に、自宅で見れる野鳥をカウントし、その結果をRSPBに報告。その後団体によって集計され、英国に生息する野鳥の数とその変動を把握する貴重なデータとなります。今年は、1月27日(土)、28日(日)、29日(月)の三日間行われ、そのうちの日中1時間を自由に選びカウントします。庭がない人は、近くの公園、自然保護区、会社の敷地など好きなところを選ぶこともできます。家の窓から観察するのもよし、外でじっと観察するのもよし。集計結果は、指定された報告書に記入し郵送する、もしくはネット上で報告する2パターンのどちらかを選べます。 Big Garden Birdwatchへのカウントダウンを知らせる投稿。フェイスブックのページより © RSPB Essex これはいい機会だと、私も早速自宅の庭に訪れる鳥たちを、双眼鏡片手にカウントにトライしてみました。ひとり庭の一角に構え、コーヒーを飲みながら、ハンターのように存在を殺し(ているつもり)、じっと鳥たちが来るのを待ちます。「ピヨピヨピョ〜」、「チュンチュンチュン」。2、3種類の鳥の鳴き声があちらこちらから聞こえてきますが、残念ながら鳴き声だけで、鳥の種類を確定できる知識は私にはありません。双眼鏡で「どこにいるの?」と木々の枝をくまなく見ていきますが、なかなか鳥そのものが見つからず、ひと苦労。「あ、いた!」と思っても、よく見たら木にぶら下がった萎れたリンゴだったり。これでは、カウントどころではありません。どうやら思い描いていた以上に、目が慣れ、コツを得るまでに時間と経験が必要なようです。よく考えたら私の主人は、子供の頃からハンティングをしていたからでしょうか、どこへ行こうと野生動物を見つけるのが得意で、毎回何気なしに指をさしながら、「ほら、あそこ」と教えてくれます。しかし、コンクリートジャングルのネオンばかり見てきた私は「どこ、どこ?」と聞いても、まだどこにいるのかわからないほど、ポイントずれずれです。バードウォッチングは、もともとハンティングから、野鳥を殺さず見て楽しむ遊びへと進化させたものです。つまり基本は獲物を見つけるのと同じということなんですね。 なかなか鳥の姿を見つけられず、カウントどころではない。それでも、ひたすら探し続ける そんなバードウォッチング音痴の私ですが、めげずに探し続けました。カウントより、まずは鳥を見つけ出すこと。肉眼と双眼鏡両方であっちかな、こっちかなと見て回ります。ようやく開始して30分後くらい、木の上から美し歌声を響かせているヨーロッパコマドリを発見。誇らしげにジャズの即興ソロように歌い続けている姿を双眼鏡越しにキャッチ。この鳥は、12月中旬の寒さが厳しい時期から繁殖期の囀りを始めるそうです。きっと見たのはオスで、アピールに必死だったのか、かなり長い時間パフォーマンスを披露していました。次に登場したのは、鮮やかな黄色のボディ、その真ん中に顔からすっと黒いラインが入っている戦隊ヒーローみたいな模様をしたシジュウカラ。日本にいるシジュウカラとは、亜種が違い見た目が少し違います。警戒しているのか、せっかちなのか、忍者のようにぴょんぴょんと枝々を跳ねながら、「ティーキティーキ」とサイレン音のような鳴き声をだします。仲間にサインを送っているのかも。 ウェブでは、1時間のカウントダウン・タイマーとそれぞれの鳥のボックスに数値を記入できるようにしてある。とても便利 © RSPB 寒さが気にならないほど夢中になり、あっという間に1時間が経ちカウント終了。その後もハト、カラスなど合計5匹を目で確認できました。きっともっといたはずなのですが、残念ながら姿が見つからず。その後RSPBのウェブを通して、カウントした野鳥を報告し終了。とても気楽に参加できるイベントで、うまくカウントはできませんでしたが、それでもバードウォッチングを体験し、野鳥生態調査に参加できたことは、とても面白かったです。 私のカウント結果が、パイグラフで表示される。もっとカウントできたら・・・© RSPB 全体の途中結果と去年の集計結果もチェックできる © RSPB 野鳥観察を通して、自分の周りで一体何が行われているのかを知る。普段どこかで接点があるにもかかわらず、私たちが見過ごしている世界を意識することで、新たな視点を手に入れたように感じます。一番身近な自然と向き合い、意識を集中することは、少し瞑想に似たような、自分の存在や位置を再確認する行為なのではないかと思いました。何かとせわしない現代社会に生きる私たち。たまには立ち止まり、360度見渡してみる。野鳥たちがガイドとなり、未知なる世界へと連れて行ってくれる。バードウォッチングの魅了は、かなり深いようです。 参考資料: RSPB ww2.rspb.org.uk 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022...