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 日本にいたころ、春から秋にかけて、山菜採りやキノコ狩りでの遭難事故のニュースをよく聞いた。山に入る理由は、登山がダントツの1位だが、山菜採りやキノコ狩りが2位にくる地域もあるようで、人気だ。ついつい夢中になってしまい、滑落、道迷いするケースが多いとか。気持ちはよく分かるが、くれぐれも安全第一で楽しんでほしい。 春になると、近所の丘一面をラムソンが埋め尽くす。ニラの代用品として、餃子の具に入れると美味  不思議なことに、英国ではこの手のニュースを聞いたことがない。もちろん、日本と英国では風土も地形も違うので、単純に比較するのは無理があるとは思う。ただ、これだけフォレジングが盛んなのに遭難があまりないのには、何か理由があるのだろうか。素人なりにちょっと考えてみる。 秋になると、フォレジング教室があちこちで開催され、大変人気である  まずは、歩ける道が見つけやすく、安全に利用できる環境が整っていること。英国には「フットパス」というレクリエーションのために整備された歩道が、網の目のようにあちこちに存在している。各フットパスには、黄色の矢印マークの標識があるため、私のようなおっちょこちょいでも道に迷いにくく、ほとんどの道は地元住民によってきちんと管理されているので、歩きやすい。私が普段、犬の散歩やフォレジングに利用しているのも、このフットパスだ。  さらに、フットパスと並行してあるのが「アクセスランド」の存在。アクセスランドでは、主に環境保護団体や林業委員会が所有している土地、そして村が管理しているCommon land(日本の入会地と似たシステム)を、自由に歩き回ることができる。フォレジングも、生態に負担をかけない程度に推奨されているのが嬉しい。シーズンになると、フォレジング情報やワークショップなども開催されていて、人気のようだ。  そして、上記の2つをすべて表記している「OSマップ」という強い味方がいる。Ordnance Survey(英国陸地測量部)が発行している地図で、Exploreシリーズと呼ばれている2万5000分の1地形図は、ウォーキングやサイクリングをする人間にとってはマストアイテム。これがあれば、ほとんど迷わない(ただし、基本どこを歩いても良いスコットランドに関しては、また別の話)。素人でも簡単に理解できるデザインで、読図に自信がない私のようなド素人でも安心して使えるので、とても便利だ。また、どこの本屋、観光案内所でも買えるのもありがたい。最近では、デジタル版も充実していて、スマフォのGPSで現在地を表示できたり、歩いたコースを記録できたりする。天下のGoogleマップさんでは、太刀打ちできない領分だ。私の場合は、紙版とデジタル版の両方を必ず持って歩きに行く。また、紙版は本棚にズラッと並べらた私のコレクションになっていて、新たな地図が加わるたびに、ニヤッとしてしまう。 OSマップ・Exploreシリーズ。スマフォ・アプリ版もあり。ナビゲーションには、両方を携帯するのが、ベスト  ということで、私が出した仮説は、上記のような歩く環境が整っているため、遭難が少ないのではないかということ。ただ、フォレジングには、もうひとつの身の危険がある。キノコの誤食事故。こちらは、英国でも時々ニュースになる。リスクが高いため、私はまだ手を出せないでいる。まずは、キノコ狩りが得意なお友達でも作ることから、始めようかと思う。 【この記事は、自然体験.comに連載された記事『英国カントリーサイドにて』を再編したものです。】 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2023...

 ウチには犬がいる。だから、散歩は毎日欠かせない。出かける際には、犬のフン用のビニール袋を片方に、そして、フォレジング用のビニール袋をもう片方に入れていく。私にとってのフォレジングは、散歩コースの延長線上にあるのだ。近くの森、草原、農場、公園、垣根、車道の脇など、常日ごろから観察し続け、春から秋にかけて、旬のものを一番状態の良いときに採取する。同じ場所で見つけることができる果実や野草もあれば、キノコなどはどこに出現するか分からない。毎年気候が違うため、狙って行ってもハズレることも多々あるが、ハズレても、それはそれでワクワクするものである。かなりギャンブル性があるのだ。 フォレジングのバイブル本 ”Food For Free”  フォレジング争奪戦は、何も人間だけがライバルではない。森に住む野生動物たちも、刻々と良きタイミングを見計らっている。シカやアナグマ、キツネ、リス、ウサギ、野鳥など、彼らの目利きに人間が勝てる見込みは、かなり低い。この前も、牧草地の垣根にヘーゼルナッツを見つけた。「おお、たくさんなってる。時間のある明日、摘みに来ようっと」と思って翌日行ってみると、見事に実が全部に消えていた。リスの仕業だ。やられた!  またあるときは、「今年は、果実が少ないな」とボヤいていたころ、朝起きて庭に出ると、そこにはでき立てホヤホヤの糞があった。明らかに愛犬のものとは違うそのブツには、果実のタネがぎっしりと詰まっている。プラムなどを食べたキツネが夜こっそり忍び込み、わざわざご丁寧にも挨拶代りにとマーキングしていったものだ。それを見つけた愛犬は、毛を逆立て、私も地団駄を踏む。「野郎ども、挑発してきおったわ。」 そのまま鼻息荒く、愛犬と森へズンズン入って行けば、シカやウサギの置き土産のダニに食われて帰って来るのが関の山なのだ。ライバル恐るべし。 西洋ツツジの真下に、ヘーゼルの木が生え始めた。リスがナッツを埋めたのだ  ただ、ふと考えてみると、私のフォレジングは遊び感覚のゲームのようなもの。タダに弱い主婦が躍起になるぐらいの程度だが、野生動物にとっては、これは生死を懸けたゲームなのだ。そして、その食を提供している木々は、彼らによって種子散布ができ、広範囲に自分たちの子孫を残せる。つまり、上記の植物たちは自分で移動できない代りに、野生動物たちが種の運び屋となるよう、お互いに協力できる体制を進化させてきた。それをZoochory(動物散布)と言う。動物散布にはいくつか方法があり、先ほどのリスなどは、土にナッツなどを埋めるScatter Hoarding(貯食型)、キツネや鳥などは、食して糞として散布するFrugivory(周食型)とされている。そのほかには、毛や鳥のくちばしなど体に付着させるAttachment(付着型)などがある。 リスによって食べられたナッツの殻が、そこらじゅうに落ちている  はてさて、その共同体の輪の中に、私のような人間は入っているのだろうか? 一応、Anthropochory(人為散布)というのがあり、これは動物散布付着型が、人間によって行われることである。しかし、私の自宅付近の生態に関して、私が運び屋としての役割がそれほど大きいとは思えない。服に着いた種子をつまんで捨てる程度のお役目。むしろ、野生動物たちの餌を横取りする、邪魔者なのかもしれない。そりゃ、キツネも糞を落としていきますわな。  英国では、フォレジングはひとつの食文化であり、社会に認められている。私有地であっても、持ち主の許可があり、個人消費目的であれば採取可能である。ただし、みなこうアドバイスする。「分をわきまえて、ほどほどに」と。 つづく *第三部は、こちら >>。 【この記事は、自然体験.comに連載された記事『英国カントリーサイドにて』を再編したものです。】 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2023...

 先日、新聞を読んでいたら、ある記事が目に留まった。デンマーク・コペンハーゲンにあるレストランNoma(ノーマ)が、今年10月にガストロノミー界のアカデミー賞と謳われている「世界ベストレストラン50」で、1位に輝いたという内容。グルメではない私は、本来ならスルーする記事ではあるが、袖見出しに、“Chef René Redzepi, famed for foraging techniques, claims first place for Copenhagen eatery.* ”(フォレジング技術で有名なシェフ、レネ・レゼピ氏が、コペンハーゲンのレストランで1位を獲得”)と書かれていた。「Foraging techniquesって、シェフ自らが森に入って食材を探すってこと?」 Giant Puffball(オニフスベ)が、草原に突如現れる。  「Foraging(フォレジング)」とは、自然界に自生する食材を採取する行為を意味し、日本で言う「野草摘み」や「キノコ狩り」などがそれに当たる。ただ、本来の意味は「食べ物などを探し回る、あさる」で、卑しい、さもしいニュアンスが込められている。英国人にそのことを問うと、「元来、ぶらぶら歩いて食料を調達することは、下衆のすること。身分のある人たちは、馬に乗るから」と教えてくれた。日本の紅葉狩りに「狩り」が付けられたのと、相通じるところがある。 日本のより少し小ぶりな英国の栗  では、なぜいま世界一の高級レストランが、フォレジングなのか。旬のもの、地のものを提供するレストランはどこにでもあるが、このレストランが面白いのは、シェフとスタッフ全員で森や海に行き、北欧の自然から得られる食材しか使わないという、徹底したこだわりがあるから。例えば、レモンは北欧にはないので、アリが放つ酸を柑橘類の代用品とするらしい。  その時、その場で採れた食材のみ使い、芸術的な品々に仕上げたものを提供し続け、美食とは無縁だった北欧の食文化に革命を巻き起こした。そこにある自然、時、土地を通して食のあり方、向き合い方を変え、世界ナンバーワンのレストランとなったそうだ。今世界で最も予約が取れないレストランのひとつで、デンマーク経済をも救ったとか。古いんだか新しいんだか、なんだかよく分からないが、自然回帰ブームがグルメ界でも起きているとは、実に面白い。  欧州人は、フォレジングが大好きだ。歴史も長く、それが許される環境も整っている。特に秋はキノコ、ナッツ、ベリーなどを探しに、みな躍起になる。ウチの近くでも、タッパーやビニール袋を持って、せっせと薮いちごやカラカサタケを採っている人をよく見かける。みな目をキラキラと輝かせ、童心に戻ったように、夢中になっている。タダで食材を得られるのはもちろんだが、ふらふらと歩き回りながら季節を感じ、そこでようやく見つけた自然の恵みを手にしたときの高揚感は、格別。だから、いつもより丁寧に調理し、食したときは、増し増しで美味い! 自分と自然と時が一本で繋がるようで、体の奥底に眠っている人間の本能が、刺激されるのかもしれない。これは癖になる。 一番人気のセイヨウヤブイチゴ。ジャムやサマーベリー・プディングなどに使われる  コロナ禍によるロックダウンやEU離脱で、一時的に食糧やガソリン不足が起こり、旅行や外食の機会が減った英国では、身近にある自然の中で遊び、自分の身の周りにある環境を見直す人々が急激に増えた。テレワークや仕事の時短で時間ができた人たちは、自宅で野菜を育て、自然酵母でパンや保存食を作り始めた。そんなアウトドアズの醍醐味を知ってしまった新参者もフォレジングに注目しているようで、今年は争奪戦になりそうだ。私もビニール袋を提げて、いざ参戦!。 つづく *第二部は、こちら >>。 【この記事は、自然体験.comに連載された記事『英国カントリーサイドにて』を再編したものです。】 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2023...

 私はありがたいことに、ここ一年ほど、世界のトレイルを直接肌で感じるチャンスを、与えられている。5年ほど前から、ガーデニング業の傍ら、英国のフットパスとトレイル、環境保護、自然教育などを趣味レベルだが自分なりに調べ、日本ロングトレイル協会を通じて、時々発信している。専門家ではない、英国に住む日本人主婦の私に、そのような機会を設けてくれた協会には、感謝しかない。その協会は、現在World Trails Networkという全世界のトレイル関係者が未来のトレイル文化発展のために活動する団体のメンバーになっている。私は、協会とWTN間の連絡係役を仰せつかり、世界のトレイルと日本のトレイルの橋渡しをしている。  ここ最近WTNメンバーたちから聞こえてくるのは、コロナ禍は世界各国のトレイル運営にも大きな影響を与え、トレイルのあり方を再考せざるおえなくなっているということだ。トレイル閉鎖、ロックダウンによる運営陣の人材と財政不足、スルーハイクやイベントの中止、保全の大幅な遅れ、新たなトレイル設立の延期など、厳しい状況は、日本だけでなく、世界中どこも同じようである。その一方で、野外活動が人気を博し、アウトドア商品の売れ行きが急上昇している。日本含め世界どこでも、デイハイカーが急増し、新規利用者や家族連れが大きな伸びを見せている。また、このご時世でsolitude(ソロ活動)が話題沸騰中である。そんな中、新たな問題も発生してきている。サウス・ウェスト・コースト・パスでも起こっているホットスポットが、米国アパラチアン・トレイル、カナダのオンタリオ・トレイルをはじめ、レバノン、ギリシャ、南アフリカなどのトレイルでも起きている。人気が集中した理由には、どうやらSNS上の投稿が、発端らしい。また、何の知識もない新規利用者に安全やマナーを教育することも急務となっている。  この新たな現象と問題は、トレイル運営陣のみで対応するのにはあまりにも急激に規模が大きくなりすぎている。そこでWTNは、今年6月11日から英国コンウォールで開催されたG7サミットの公式イベントとして、World Trails G7 Summitをオンライン上で開催し、諸問題解決の協力要請と高いポテンシャルを秘めているトレイルへの投資を、政府や関連機関に訴えることにした。G7とゲスト国合わせて全12カ国のトレイル代表が参加した中、大変名誉なことに日本代表のパネリストとして私が選ばれた。参加国それぞれ3分間のプレゼン時間を与えられた。日本のトレイルは、世界のトレイル専門家の間でもそれほど知られていない。そこで、1200年の歩く旅の歴史、八百万の神の国における自然保全、日本独自のトレイル風景など、しつこいほど「ニッポン」を強調し、他国と共にトレイルを盛り上げたい気持ちを3分間の短いプレゼンにまとめ上げた。手前味噌だが、大変好評で、日本のトレイルの存在を少しはアピールすることに貢献できたかもしれない。 World Trails G7 Summitでは、全12カ国のトレイル代表が参加 ©️World Trails Network  コロナ禍で予想をはるかに超えて、トレイルに注目が集まっている今、WTNとしては、この流れをしっかり握り、トレイル歩きが人々の旅や生活のスタンダートになるように推し進めていきたい意向のようだ。そして、さらに50年、100年先まで持続可能なトレイル作りを、自治体、地元民、利用者と共に実現していきたいと考えている。そのための策のひとつとして、世界同一記念日、World Trails Dayを立ち上げてようと動いている。また、これを機に子供達にトレイルの楽しさをもっと知ってもらい、ゆくゆくは次世代の育成と繋げていく狙いもあるようだ。歩くことが、アウトドアや観光からだけでなく、コロナ禍における健康、安全、社交など多方面から注目を浴びていることは、大きな希望となりえる。その大きな流れに日本も上手く乗りつつ、日本独自のトレイルを確立することで、世界に誇れる魅力溢れる財産を得られるように感じる。  トレイルだけではなく、他のアウトドア団体、自然保護団体も、このチャンスを逃すまいと動き出している。Re-wilding, Sustainability, Biodiversity, Green Spaceをスローガンに上げて、政府に、企業に、国民に、自分たちのミッションを達成させるために、この波に乗って、たたみかけようとしている。温暖化問題、生物多様性の保全を政府に働きかける市民団体Extinction Rebellionの動きもますます活発になっている。  今年の英国の初夏は、梅雨のような日々が続いている。自宅近くの森へ行くと、ブナの葉に雨が当たる音が、全方向から聞こえてくる。まるで、大合唱のようだ。その中に佇み、耳に傾け、「嗚呼、自然に生かされているんだな。」と改めて感じる。そのことを忘れずに、何をすべきか、今一度それぞれが考える時なんだと痛感している。 [embed]https://www.youtube.com/watch?v=-xZiSrkzT0o[/embed] セツダのプレゼン動画 ©️World Trails Network 【この記事は、自然体験.comに連載された記事『英国カントリーサイドにて』を再編したものです。】 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022...

 悶々としているのは、私だけではなかった。パンデミックという今まで経験したことのない事態に、周りのひとたちもどう対応するべきか、何が正解なのか手探り状態で、非日常の日常をこなすことで精一杯のようだ。何に対して戦っているのかも分からず、先行き不透明な状態に陥る。ストレスはマックスにまで膨れ上がり、もう家で大人しくしていても頭がパンクしそうだ。そう思った人たちが、ウォーキングに、サイクリングに、ポンポン外へ飛び出していた。1日1回外での運動を許可されていた英国で、人々は制限をできる範囲内で拡大解釈し、工夫を凝らして、外出を楽しみ始めていた。気がつけば、私の住む静かな村には、いつもより人が増えている。明らかに今まで野外活動をするタイプではなかった人たちまで、フットパスを歩いていて、ちょっとした混雑が生じているではないか。ソーシャル・ディスタンスをそれほど気にしなくていいはずの野外で、人との距離に神経を遣う。「なんだ、これ?」 医療従事者たちへ子供達が描いた虹が、窓に飾られている光景をよく目にした  また、もうひとつ注目したことは、ロックダウン中、毎週木曜日夜8時になると、医療従事者たちに感謝の意を表す”Clap for Heroes”というキャンペーンが全国に広がっていたことだ。私の村でも皆それぞれの庭に出てきて、拍手したり、鍋やバケツを叩いたり、楽器を奏でたりして、「ありがとう」を伝えることが、ロックダウン生活の一部となった。このときが唯一人々が集まり、何かを一緒にすることができ、皆の心を和ませている。ネット環境が整っている現代、会えない人や行けない場所に繋がることはできるが、やはりそれはあくまでもバーチャル。直接ふれあうのとは、全然違うのである。そんなことを人々が再認識したのが、この”Clap for Heroes”だったように思う。皆の笑顔、そしてお互いを労う姿がとても印象的で、私もホッとして救われたのである。  20年春から初夏にかけて天気が安定してくると、自宅で過ごすことが多くなった人々は、普段できないガーデニングや家庭菜園、DIY、アート制作に勤しんだ。すると、それらに関連する品物の争奪戦が勃発し、店からもネットからも売り切れが続出する。コロナ禍とEU離脱による影響で、供給側は追加入荷が間に合わず、消費者は苛立ち、クレームが増え続けた。私も庭仕事で必要な培養土を探し回ったが、全て店から消えていた。店側も、政府の方針と需要と供給の落差に振り回されて疲弊していた。例えば園芸店では、第1回のロックダウンで店を強制閉鎖していたため、初春の人気植物を破棄せざるを得ず、大きな損害を出していた。その後の、この異常な品薄や品切れ状態。私の馴染みの園芸店スタッフも、「どう対応していいか分からないよ」と苦笑していた。しかし、人々が植物を育て、体を使って何かを創造しようとすること自体は、今後、面白い刺激を社会にもたらすような予感がした。ガーデニングは英国のお家芸である。アロットメント(市民農園)の制度は、1500年代後期からすでに存在している。今、再度彼らの中にあったDNAが目覚め、熱を帯び始めようだ。  20年7月ごろに、ロックダウンはほぼ解除された。待ってましたとばかりに、ロンドンなどの大都会からここ南西部に、人々がどどっと押し寄せてきた。週末になると、主要道路は大渋滞になり、名所付近では駐車場に車が止められず、外にまで溢れ出て道を塞ぎかねない状態になっていた。南西部海岸線沿いのトレイル「サウスウェスト・コースト・パス」には、眺めの良いポイントに人々が集中するホットスポットができ、行列ができる異様な光景が出現し、全国紙の一面にも載るほどのニュースになった。もう、ビーチもフットパスも芋洗状態。こんなことは、以前にはなかったことである。運営側や地方自治体は、動けるスタッフの人数を制限しているために、トイレや売店を開けることができす、対応が大幅に遅れた。また、利用者の安全確保も懸念材料となり、頭を抱えていた。利用者たちは、節度を持ち合わせていないわけでないが、それ以上に自然の中でリフレッシュしたい気持ちが強過ぎて、抑えることができないようだ。この様子を、観光業に頼っている地元民は「来て欲しいけど、来て欲しくない」と、複雑な思いを吐露していた。しかし、新規利用者獲得といった新たな可能性も生まれ、アウトドア業界や観光業に少し光が見えてきたように思う。あとはタイミングの問題か。「どうか、それまで業界の体力が保ってくれ!」 つづく *第三部は、こちら >>。 【この記事は、自然体験.comに連載された記事『英国カントリーサイドにて』を再編したものです。】 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022...

 2020年春。新緑がようやく長い冬から目覚めた。小鳥たちが求愛の鳴き声を響かせ、ミツバチたちは、蜜を探して忙しく飛びまる。子羊たちが初々しく親を呼ぶことが聞こえてくる。いつもの生命力満ち溢れる、英国の春の訪れ。人間たちも、心なしか、ウキウキし始める。しかしそんな待ち望んだ春の中、私は清々しい空を見上げて、どうしようもない疎外感を感じた。ふっと、大きなため息がでる。  2020年始めに東アジアで広がり始めたCOVID-19は、あっという間に欧州にも広がり、英国政府も慌てて3月末から、ロックダウンを実施せざるおえなくなった。現在、英国の田舎サマセットに住んでいる私には、ちょっと買い物が不便になった程度で、日々の暮らしに、それほど大きな変化もなく過ごしていた。感染者数も都会に比べたら、そう多くなく、アジア人だからと何かいやな思いもすることもまったくない。確かに予定していた計画や旅行ができないことに、苛立ちはする。でも、それはみな同じ状況。見えない圧による閉塞感もあるけれど、それも想定内といえば、そうだ。にも関わらず、なぜこんなにも気持ちが落ちて、焦っているんだろうか。  ロックダウンが始まると、人々の活動が止まった。いつも聞こえる飛行機や車の騒音、近くの小学校から聞こえる子供達の声、誰かが作業をしている音。すべてがぴたっと止まった。異常なほどの静けさの中、五感に流れ込んでくるのは、春を謳歌している周りの自然の気配。普段なら癒されるはずなのに、今はその自然に対してイライラしている。人間は止まれと言われているのに、自然はそんなことは御構い無しに先へ先へと進んで行くからだ。自分は自然の中の一部だと認識していたはずなのに、突然大きな壁がドーンと立ちはだかり、取り残された気分だ。それが、どうしようもなく虚しい。「ねー、待ってよ。置いていかないで。」  ガーデニングを生業としている私には、自然とのふれあいは、生活の一部であり、いつも意識していることだ。しかしここにきて、思いっきり失恋したみたいだ。というか、ただの片思いだったのかもしれない。Wildlife Friendly, Re-wilding, Sustainability, Organicといった言葉に敏感に反応し、言葉にしてきた私に対して、「そんなことを求めてはいないよ。あんたなしでも、生きていけるんだ。」と自然に突きつけられたようで、失望を超えて、滑稽に思えてくる。癒しや豊かさを望んだ私のとんだ勘違いだったのか。よく考えたら、今回の大騒動を巻き起こしたウィルスにしたって、自然の一部なのだ。「こちらが自然に寄り添おうとしても、いつでも手厳しいな。ただえさえ、通常営業ができなくて、凹んでいるのに、この塩対応どうなのよ。もっとやさしくしてよー!!」空に向かってぼやいても、答えは返ってこなかった。ただの八つ当たりである。 つづく *第二部は、こちら >>。 [embed]https://www.youtube.com/watch?v=ez-B8j8VZcA[/embed] 2020年日本ロングトレイル協会 オンライン・シンポジウムに向けてのメッセージ 【この記事は、自然体験.comに連載された記事『英国カントリーサイドにて』を再編したものです。】 参考:2020年日本ロングトレイル協会 オンライン・シンポジウム ロングトレイルを歩こう 第1部「アフターコロナの歩き方」 ロングトレイルを歩こう 第2部「第8回ロングトレイルシンポジウム」 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022...