フォレジング10

温故知新@Nature ー フォレジングにライバルたち出現

 ウチには犬がいる。だから、散歩は毎日欠かせない。出かける際には、犬のフン用のビニール袋を片方に、そして、フォレジング用のビニール袋をもう片方に入れていく。私にとってのフォレジングは、散歩コースの延長線上にあるのだ。近くの森、草原、農場、公園、垣根、車道の脇など、常日ごろから観察し続け、春から秋にかけて、旬のものを一番状態の良いときに採取する。同じ場所で見つけることができる果実や野草もあれば、キノコなどはどこに出現するか分からない。毎年気候が違うため、狙って行ってもハズレることも多々あるが、ハズレても、それはそれでワクワクするものである。かなりギャンブル性があるのだ。

フォレジング6 フォレジングのバイブル本 ”Food For Free”

 フォレジング争奪戦は、何も人間だけがライバルではない。森に住む野生動物たちも、刻々と良きタイミングを見計らっている。シカやアナグマ、キツネ、リス、ウサギ、野鳥など、彼らの目利きに人間が勝てる見込みは、かなり低い。この前も、牧草地の垣根にヘーゼルナッツを見つけた。「おお、たくさんなってる。時間のある明日、摘みに来ようっと」と思って翌日行ってみると、見事に実が全部に消えていた。リスの仕業だ。やられた!

 またあるときは、「今年は、果実が少ないな」とボヤいていたころ、朝起きて庭に出ると、そこにはでき立てホヤホヤの糞があった。明らかに愛犬のものとは違うそのブツには、果実のタネがぎっしりと詰まっている。プラムなどを食べたキツネが夜こっそり忍び込み、わざわざご丁寧にも挨拶代りにとマーキングしていったものだ。それを見つけた愛犬は、毛を逆立て、私も地団駄を踏む。「野郎ども、挑発してきおったわ。」 そのまま鼻息荒く、愛犬と森へズンズン入って行けば、シカやウサギの置き土産のダニに食われて帰って来るのが関の山なのだ。ライバル恐るべし。

フォレジング8 西洋ツツジの真下に、ヘーゼルの木が生え始めた。リスがナッツを埋めたのだ

 ただ、ふと考えてみると、私のフォレジングは遊び感覚のゲームのようなもの。タダに弱い主婦が躍起になるぐらいの程度だが、野生動物にとっては、これは生死を懸けたゲームなのだ。そして、その食を提供している木々は、彼らによって種子散布ができ、広範囲に自分たちの子孫を残せる。つまり、上記の植物たちは自分で移動できない代りに、野生動物たちが種の運び屋となるよう、お互いに協力できる体制を進化させてきた。それをZoochory(動物散布)と言う。動物散布にはいくつか方法があり、先ほどのリスなどは、土にナッツなどを埋めるScatter Hoarding(貯食型)、キツネや鳥などは、食して糞として散布するFrugivory(周食型)とされている。そのほかには、毛や鳥のくちばしなど体に付着させるAttachment(付着型)などがある。

フォレジング13 リスによって食べられたナッツの殻が、そこらじゅうに落ちている

 はてさて、その共同体の輪の中に、私のような人間は入っているのだろうか? 一応、Anthropochory(人為散布)というのがあり、これは動物散布付着型が、人間によって行われることである。しかし、私の自宅付近の生態に関して、私が運び屋としての役割がそれほど大きいとは思えない。服に着いた種子をつまんで捨てる程度のお役目。むしろ、野生動物たちの餌を横取りする、邪魔者なのかもしれない。そりゃ、キツネも糞を落としていきますわな。

 英国では、フォレジングはひとつの食文化であり、社会に認められている。私有地であっても、持ち主の許可があり、個人消費目的であれば採取可能である。ただし、みなこうアドバイスする。「分をわきまえて、ほどほどに」と。

つづく

*第三部は、こちら >>。


【この記事は、自然体験.comに連載された記事『英国カントリーサイドにて』を再編したものです。】


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