22 11月 Scything (大鎌草刈り)講習へGO!
大都会からド田舎へと流れてきたワタシ
15年前までの私は、東京・新宿にある高層ビル内のオフィスで、映像編集の仕事をしていました。甲州街道とそれに吸い寄せられるようにコンクリートジャングルが遥か遠くまで続く風景を、オフィスの密閉されたガラス窓から、時々ボーと眺めていました。そして、その先には、富士山。徹夜で作業した朝には、赤く染まる姿を拝むこともありました。無機質の冷たい部屋から見る富士山は、遥か彼方にある桃源郷に感じていたのです。その私が、その後渡英し、ひょんなことから2018年夏に、ド田舎のサマセットへと、たどり着きました。今は、あの大都会東京で、リアルに感じられなかった富士山を見ていた自分とは、真逆の立場になったわけです。人生、不思議なもんですね。
そのサマセットって、どんなところかと簡単に申し上げますと、ブリテン島の南西部に位置し、比較的穏やかな気候で、古き良き英国が残る牧歌的でのんびりしたところです。チェダーチーズやサイダー(りんご酒)が有名で、英国最大の音楽フェスが開催されるグラストンベリー、ジェーン・オースティン小説の舞台になっている英国の保養地バースもサマセットにあります。そんな風土の中、「自分たちのことは自分たちで」という独自路線をゆく精神が育まれ、国の中心であるロンドンを意識せず、チェーン店の侵食を嫌い、地産地消の考えが浸透している、ちょっとアナーキーで、ヒッピー色が濃いのが特徴です。
大鎌草刈りって?講習へ参加してみた
新たな地に移り住めば、その土地の洗礼を受けるものです。ましてや日本人の私には、カルチャーショックがデカい!牛や羊がそこいらに放牧しているド田舎サマセットでの最初の洗礼は、大鎌で草刈りをするScythingでした。まったく見たことも聞いたこともないこのScything。元ヘビメタ少女だった私には、大鎌といえば、死神が持っているイメージぐらいしかありません。しかし、ここサマセットを中心にブリテン島の南西部では、かなり大きなブームになっており、大鎌草刈り競争の大会が毎年開催されているほどです。
でもここで普通に私は疑問に思いました。なんで、芝刈り機や草刈り機使わないの?と。その答えは「ガソリンを使わず、うるさい音もしない大鎌での草刈りは、エコで自然に優しいから」。どこかで聞いたような心地よいフレーズ。21世紀の今、そんなんで仕事になるの? 半信半疑だった私でしたが、急遽仕事で必要となり、これも良い機会ということで、早速初心者コースを受けてみることにしました。
古いお屋敷を、研修設備付きのエコB&Bに改築した、モンクトン・ウェルド・コート(Monkton Wyld Court)に週末二日間泊まり込みで、大鎌の基礎、歴史から実際の使い方と刈った草の処理まで、みっちり講習を受けてきました。講師は、ヒッピーコミューンで暮らして何十年のベテラン、サイモン。映画『ハリーポッター』にでてくるハグリッドのような顔。ヨレヨレのシャツ、ズボン、サンダル姿。無愛想で独特な話し方。パンチの効いたキャラが印象的です。そんな彼が、大鎌をブンブン振り回すものですから、ヒヤヒヤもの。いつもの好奇心が疼いて参加したものの、えらいところにきてしまったもんだと焦りました。しかし、私と同じようにガーデニングを生業としているひとたち、オーガニック牧場の経営者、庭の荒地をメンテしたい主婦、自然保護区の管理に役立てたいひとなど、私と似たような目的で集まった参加者に、ちょっと救われたのです。
大鎌と一口に言っても、実は地域によって違います。英国式、オーストリア式、バスク式、また東欧、中東でも使用され、それぞれデザインが違います。大変興味深いのが、インドから東側のアジアでは、大鎌は使われていないようです。風土の関係なのか、体の使い方の問題なのか、なぜ発展しなかったのかは謎ですが、どうりで日本人の私には、馴染みのない農具だったわけです。今回習ったのは、オーストリア式。英国の従来の大鎌はとても重く、力のある若い男性用に作られたものでしたが、オーストリア式は、全土の3分の2が山岳地であるため、機械がいけない急斜面での作業が可能で、女性や子供でも使える軽量なものになっているということで、最近英国でも主流になっているそうです。
使い方は、まず左手で上、右手で下のハンドルを握り、鎌刃が地面と水平になるように少しだけ浮かせます。右後ろにおもいっきり引いてから、半円を描くように左へ、グイッとスイングさせていきます。そしてまた右後ろに戻すの繰り返し。ゴルフで、ドライバーを上から下へと振り下ろすのと同じ要領で、下半身は固定し、上半身、特に腰を使って、右から左へとスイングさせるのがコツです。15分ぐらい刈ったら、砥石で刃を研がないと、たちまち切れ味が悪くなるので、定期的にケアが必要です。そして、丸1日使ったあとは、刃がなくなってくるので、Peeningという、刃先をハンマーで打ちながら薄く伸ばしていき、再度砥石で研いて、切れる状態にする作業が必要になります。
草刈りの基本動作はそう難しくないのですが、実際やってみると、うまく草が切れなかったり、石に当たったりと、思いの外習得するまで、みな時間がかかっていました。しかも、両足を開き、中腰になり、右から左へとスイングしながら、徐々に前に進み、草を刈っていくのは、かなりの重労働。太もも、腰、両腕、手のひらが、筋肉痛でパンパンに。振れば振るほど、汗がダラダラ。芝刈り機で楽々やっていた作業が、手作業だとこんなにも大変だとは・・・。昔の人々は、タフだったんだなと感心してしまいます。
かなり体力と手間がかかる作業。エコとは言え、こんなめんどくさいこと、わざわざやる必要ある?機械でチャッチャッと片付けた方が、断然お得と考えてしまいがちですが、そこにはメリットもありました。まず、急斜面やボコボコの地面など機械が使いづらい場所で使える。そして、雨や露で濡れた草は、機械では詰まり刈れないが、大鎌は逆に少し湿っていた方が、よく切れる。冬の霜が降りた草でも問題ないそうです。私のような、現代社会の利便性にどっぷり浸かっている人間には、自然にやさしいからと大鎌で芝刈りをするほどの、強いポリシーはありませんが、ガーデニングの道具としてなら、それなりの使い勝手はありそうだなと感じました。
Green Scythe Fairは、摩訶不思議なイベント
洗礼を受けたあと、サマセットの文化をさらに深く体験すべく、6月に開催された大鎌草刈り競争の全国大会・Green Scythe Fairに、凸凹歩きチームメイト・ジルちゃんと家族一緒に行ってきました。小さな村のイベントとして始まったものが、今では前売りチケットが完売するほどの大変な盛り上がり。大会内容は、①決めれれた面積を大鎌で刈っていき、速さと切れ具合を競い合う、大鎌草刈り競争。個人戦と団体戦があります。②刈った草を木の骨組みに上手に積み重ねて、どこのチームが一番高く綺麗に盛れたかを審査する、積みわら競争。合図とともに、長髪、髭、サングラス姿のオジさんが、スースーと手際よく刈っていく横で、ワンピース姿の女性が、スカートをなびかせながら大鎌をスイングさせていき、2メートルある大きな男性は、特大の大鎌で力強くどんどんと進んでいく。朝から晩まで、大人たちが真剣勝負をしていました。
大鎌大会の傍、音楽、ダンス、トークショーなども開催され、各ブースでは、自然食、工具、手作り工芸品などの販売から、地球温暖化問題、環境保全に取り組んでいる団体のPR活動まで。電気は、すべて太陽光と風力発電。お手洗いは、コンポスト(バイオ)トイレ。ゴミ分別も徹底した、まさにヒッピー・フェスです。ただ興味深いのは、ここにいる人たちは、私たちがよくイメージする60年代米国発祥のSex, Drugs, and Rock ‘n’ Rollのヒッピーたちとは若干違い、英国の中世時代に回帰しているような、独特なカラーを放っていました。J・R・R・トールキン『指輪物語』の世界にいるような感じです。
癒し、エコ、オーガニックといった言葉が容易に使われる今、机上の空論ではなく、自分たちの体と人生を使って、自分たちの信じる自然回帰の世界を作り出そうとしている人たちが、そこにはいました。鉄のような意思とそれを体現していく力強さ。自分の手を土や血で汚し、汗水垂らして真剣に取り組む姿。考え方すべてに同意はできませんが、口だけ番長ではない彼らは、尊敬に値します。その彼らを象徴するのが、大鎌で草刈りをするScythingなのです。
最近大鎌は、ナショナルトラストなどのチャリティー団体が、使い方をボランティアに指導し、保全のいち道具として普及し始めています。すでにヒッピーたちだけのものではなくなり、人々がその良さを再確認し始めたようです。なによりも、腰回り、太ももが気になるあなたには、ぜひともオススメしたい。ScythingでExercising。一度お試しあれ!!
参考資料:
大鎌草刈り講座 monktonwyldcourt.co.uk
Green Scythe Fair www.greenfair.org.uk
Sorry, the comment form is closed at this time.