ロンドンデモ行進0

歩くことで、社会を変える現象 #1

 公園を散歩したり、ウィンドーショッピングしながらぶらぶらしたり、自然の中でハイキングしたりと、ウォーキングという言葉には、のびのびリラックスした健康的なイメージがどこかあるのではないでしょうか。ただ、歩くという行為は、時に熱を帯びた過激なパフォーマンス手段と変貌する時があります。

ロンドンデモ行進1 子供が手作りのプラカードを掲げていた。なかなかのセンス

 英国は今、ひとつの大きな壁にぶち当たっています。Brexit : EU離脱問題。2016年6月の国民投票により、英国はEUからの離脱を決定。2017年3月、正式に離脱宣言を欧州理事会に通告。ただ国内では未だ残留派も多く、国を二分する危機に直面。大きく揺れる中、6月に下院解散による総選挙が実施され、再度国民に離脱賛成・反対を問おうとしています(*これを書いているときは、総選挙2週間前です)。テロ事件も立て続けに起こり、国民の将来への不安は益々高まっています。この国の市民権を持っておらず選挙権がない私は、傍観者として行く末を見守っていますが、この問題を英国国民は、井戸端会議から国会まで、それぞれの視点から意見を述べ議論を盛んにしていて、「議会制民主主義が生まれた国なんだな」と感心してしまいます。どんなにアホな考えであっても、まったく同意できない意見であっても、誰しも意見を述べる権利、そしてそれに反論する権利が尊重されているのは、この国が階級社会であるゆえ、その壁を乗り越える手段のひとつとして、主張する権利が大切にされているユニークな社会なんだと思います。そして、時に個々の主張が塊となり、アクションを起こす。国を動かすデモンストレーションへと発展。庶民の表現手段として一般的なのが、歩くパフォーマンス、デモ行進です。

ロンドンデモ行進2 ロンドンで開催されたUnite for Europeのデモ行進。街頭がEUカラーの青色に染まる

 3月25日、離脱宣言三日前、そして欧州連合が欧州経済共同体設立条約に調印したローマ条約60年周年のこの日、EU残留派による大規模なデモ”Unite for Europe”がロンドンで行われ、私も参加してきました。人生一度も政治的な活動をしたことがない私は、デモがどうゆうものなのか半ば興味本位で、そして選挙権がない私が唯一自分の意見を主張できる手段として、集合場所であったハイドパーク脇にあるパーク・レーンへ向かいました。この集会五日前には、ロンドン・ウェストミンスターでテロ事件があり、厳戒態勢の中デモ行進が行われようとしていました。このタイミングでのデモそのものにも疑問視する意見もあり、かなりピリピリした雰囲気。私も今まで、ぶらぶら歩くことでこんなに緊張した経験はなく、一歩一歩の重みを考えると胃がキリキリしていました。

ロンドンデモ行進4 青色コーディネートファッションの女性。手には花束が
ロンドンデモ行進3 エルヴィス・プレスリーも天国からデモに参加?!

ロンドンデモ行進5 テロで殉職した警官を偲んで、警備のパトカーには沢山の花が飾られていた

 会場へ到着すると、各地から到着した大型バスから、地下鉄出口からEUカラーの青色のコスチュームに身を纏い、それぞれの主張が書かれたプラカードが掲げられ、何かを祝うお祭り、フェスのような賑やかさがあり、想像と違いカルチャーショックを受けました。それでもテロ直後ということで、派手さやおふざけはかなり自粛され、命を失った人々への哀悼の意を捧げるために、多くの人たちが花を持っていたことが印象に残ります。

ロンドンデモ行進6 車椅子にバナーを立て参加する女性

 約一時間遅れでデモ行進がスタート。ある政党のロゴを掲げるグループ、小さい子供や乳母車に赤ちゃんを乗せて歩く家族、コスプレした人たち、大きなEUの旗を振る学生、車椅子のひと、ヨーロッパからの移民、スコットランドやウェールズの旗をマントのように羽織る人々、犬を連れて歩くリベラル中流階級の中高年夫婦、ひとり地味な格好で静かに参加している女性などの集団が、ロンドンの大通りを青の波にし、黄色い星たちが浮かぶ、まるで天の川とでもいいましょうか、ゆっくり流れ進んでいきました。バイドバークから、有名な高級ホテル・リッツ・ロンドンがあるグリーンパーク脇を抜けて、トラファルガー広場へ出てから、国会議事堂・ビックベンがあるウェストミンスターへの2マイル(約3.2キロ)の歩き。10万人(警察発表。BBCは5万人参加と報道。どうして差があるのかは、よくわかりません)のデモ行進がゆっくりと、シュプレヒコールを大合唱しながら、時にはバンドが音を奏で、参加者が歌にのせてEUに残りたいと叫び、歩を進めていきます。あるグループは、スターウォーズのオープニングテーマ曲に合わせて歌いながら、離脱反対を訴えていました。テーマは重いのに、なぜかみな笑顔で平和な行進が続きました。トラックの運ちゃんが、クラクションを鳴らして応援したり、道沿いの部屋からスピーカーを出してきてビートルズの”All You Need is Love”を爆音でかけ盛り上げた住民がいたり、いつもは車でぎゅうぎゅう詰めになっている車道を、人々が歩いていく非日常的光景に、みなのテンションもマックスとなります。

ロンドンデモ行進7 スコットランドの旗を巻いた男性。ウェールズの旗も見られた

 デモ隊の中には、個性的なコスチュームやウィットに富んだスローガンとインパクトあるグラフィックによるプラカードが注目され、多くの人々にスマートフォンで写真を撮られるスターも誕生していました。どうやらSNSが広がった現代では、デモ行進 = 歩くストリート・アートといった要素もあるようです。ウェストミンスターでは、集会も開かれデモ参加者が次々に到着し、ステージ上の演説者に耳を傾けていました。事後報告によりますと、事故なく、けが人も出ず、無事にデモは終了した模様です。

ロンドンデモ行進9 自作グラフィックが彼らの主張をうまくアピールしている

ロンドンデモ行進8 将来を不安に思う親の肩に乗り、子供たちも沢山参加していた
ロンドンデモ行進10 街頭を進むデモ隊。ウェストミンスター宮殿が見えてきた

 正直今回のデモ行進が政治にどれだけの影響を与えたのかは、わかりません。ひとによっては、ただ派手な格好でぶらぶら歩くお気楽な行進に、社会を変えるだけのインパクトはないと言う人たちも多くいます。効果はともかく、自分の主張を形にして公共へ発信していく。ネットなどによりアピールする場は多様化した今でも、大昔から行われている原始的方法のデモ行進は、やはり民主主義を生み出した英国(または欧州)の伝統文化なのだと、今回参加して思います。大勢で一緒に歩くことで生み出す力、平和的アピール方法でも、彼らの熱は十分に感じ取れました。逆に、ストリート・パフォーマンス・アートとして、ライブ感覚でSNSを通して全世界へ発信する、また短時間で写真集を発売するなど、デジタル社会だからできる要素も加わり、デモ行進自体も時代とともに変化してきているようです。道は、ただ人が歩いたり、車が走ったりする交通目的だけのものではなく、表現できる場でもあることを人々は、デモ行進を通して再確認し続けているのかもしれません。世界的に有名なストリート・アーティスト、バンクシーがこの国から生まれたのも、なんとなく理解できるような気がします。歩くことは、時に武器にもなりえる。道は、表現の自由を体現できる場にもなりえる。とても有意義な政治活動初心者入門体験となりました。

ロンドンデモ行進11 路上に”We♥︎EU”。きっと子供たちが書いたのでしょう。彼らの未来を感じた一瞬

*第二部は、こちら >>。

25th March 2017, Sat @ Central London

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