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国の遺産と言われても、よくわからない  2018年2月平昌冬季オリンピック。日本人選手の大躍進で、日本では大盛りあがりだったようですね。日本において冬季五輪は、夏季ほど注目されていないイメージがありましたが、世界に通用する実力選手たちが、幅広くいろんな競技で活躍しているおかげで、立派なメジャーイベントにまで発展したようで、驚きました。これは、ひとつに長野オリンピックが残した遺産が、形になって現れた結果なのかもしれませんね。それと同時に、あの狭い日本の国土が、どれほどバラエティに富んだものなのか、物語っているとも感じました。夏季、冬季五輪両方での強豪国は限られ、大抵は大国です。例えば、同じ島国の英国は、夏季は強いですが、冬季は競技人口が少なく、ほとんどの選手は欧州に拠点を起き、自国でトレーニングできる環境がありません。冬季は、ウィンタースポーツの大会。つまり、自然の中で行われるのが基本にある、アウトドアスポーツです。それができる環境、雪山や凍湖があるのかが前提にあります。夏季、冬季両方のスポーツが楽しめる多様な土地が、ギュッとコンパクトに詰まっている国。世界にも稀に見るユニークなもので、日本の大事な遺産であると考えられないでしょうか。  さて、ここで2回も安易に「遺産」という言葉を使いましたが、そもそもこの最近よく耳にする「遺産」とは、なんぞや?とずっと疑問に感じていました。遺産=お金のイメージがまず先にきますが、よくメディアで見聞きする「遺産」は、それとはちょっとニュアンスが違うようです。英語では、国レベルの遺産という意味では、"Heritage""Legacy"と表現することが多いようです。前者は、歴史的・文化的な価値のある文物が、代々受け継がれていくもの。一番わかりやすい例は、UNESCO World Heritage、ユネスコ世界遺産。後者は、財産などの金銭的価値のあるもの、例えば、施設、インフラ、経済活動が、次へと受け継がれること。東京五輪誘致の際に、よく「オリンピック・レガシー」という言葉が使われていたのが、記憶に新しいです。しかし、日本語ではどちらも「遺産」と捉えるため、私の中でHeritageとLegacyの両方の意味が混在して、いまいち英語のニュアンスがわからない。そこで、「国の遺産」を英国ではどう捉えているのか、この目で直接確かめようと、家をと飛び出しました。 デヴォン州、シドマス付近。三畳紀の露頭が圧巻。約2億年前の地球の状態を教えてくれる赤褐色の層が、目の前で見れる  はじめに、Heritageを理解しようと、2001年から世界自然遺産に登録されているドーセットと東デヴォンの海岸、通称ジュラシック・コーストと、2017年に世界文化遺産へ登録されたばかりのイングランド北部にある湖水地方を覗いてきました。そして、Legacyでは、2012年に開催されたロンドン五輪のその後の街の様子を、観察してきました。世界遺産にしろ、ロンドン五輪レガシーにしろ、多くのレポートが専門家によって書かれていますが、今回は、一般の訪問者としてぶらぶら歩きながら感じたことを、素直に書いてみたいと思います。 世界自然遺産ジュラシック・コーストへGO! [osmap markers="SX9989181167!red;エクスマス" zoom="0"][osmap_marker color=red] イングランド南西部 エクスマス  まずは、イングランド南西部にある世界自然遺産ジュラシック・コーストへ。"Jurassic Coast World Heritage Site - 95miles of coastline ...

 花鳥風月を気にし始めたら、それは老いてきた証拠とよく聞きます。私も気がついたら、周りにある自然をボーと眺めながら、季節の移り変わりに心動かされるような人間になっていました。大都会・東京で仕事と遊びに明け暮れ、お天道様を拝むことがほとんどない生活をしていた私。どうしたのでしょう。そのギャップに私自身が一番驚いているぐらいです。そんな少々老いてきた私が今気になっているのが、花鳥風月の「鳥」です。かわいらしさ、美しさはもちろんなのですが、今いる鳥は、恐竜の子孫、つまり恐竜そのものだという話を聞いて、私の中で注目度がさらにアップしました。その今も生き続けている「恐竜さん」がどんなものなのか、まずは見てみようとバードウォッチングのまねごとをして、双眼鏡をのぞいて見るのですが・・・、あれ、なんで?鳥が見つからない。 フル装備で、大きな単眼鏡と望遠カメラを抱え、湿地帯にくるバードウォッチャーたち  19世紀に英国から発祥したバードウォッチングは、今でもこの国のお家芸のひとつと言っても過言ではない、とてもポピュラーで身近な遊びのひとつです。私の住んでいるエセックス州は、湿地帯が多く、バードウォッチャーに大変人気なエリア。特に冬は渡り鳥たちが多く見られ、天気の良い日には、ハンティングウェアでカモフラーシュし、どデカい双眼鏡、または単眼鏡で、鳥たちを観察し、撮影している熱心なバードウォッチャーをよく見かけます。約300万人のバードウォッチャーが、この国には存在すると言われていて、それを象徴するのが、世界的にも有名な自然保護団体、王立鳥類保護協会(RSPB - Royal Society for the Protection of Birds)です。1889年に発足して以来、野鳥の保護とそれを取り巻く自然環境保全を促進してきた長い実績があり、会員メンバーが100万人以上の世界最大の野生動物保護団体です(RSPB HPより)。 真冬は、たくさんの渡り鳥が水辺に集まる。寒さより、野鳥観察  そのRSPBが1979年から毎年冬に行ってきた一大イベントが、Big Garden Birdwatch。約50万人のイベント参加者全員が、ある指定された週末一斉に、自宅で見れる野鳥をカウントし、その結果をRSPBに報告。その後団体によって集計され、英国に生息する野鳥の数とその変動を把握する貴重なデータとなります。今年は、1月27日(土)、28日(日)、29日(月)の三日間行われ、そのうちの日中1時間を自由に選びカウントします。庭がない人は、近くの公園、自然保護区、会社の敷地など好きなところを選ぶこともできます。家の窓から観察するのもよし、外でじっと観察するのもよし。集計結果は、指定された報告書に記入し郵送する、もしくはネット上で報告する2パターンのどちらかを選べます。 Big Garden Birdwatchへのカウントダウンを知らせる投稿。フェイスブックのページより © RSPB Essex  これはいい機会だと、私も早速自宅の庭に訪れる鳥たちを、双眼鏡片手にカウントにトライしてみました。ひとり庭の一角に構え、コーヒーを飲みながら、ハンターのように存在を殺し(ているつもり)、じっと鳥たちが来るのを待ちます。「ピヨピヨピョ〜」、「チュンチュンチュン」。2、3種類の鳥の鳴き声があちらこちらから聞こえてきますが、残念ながら鳴き声だけで、鳥の種類を確定できる知識は私にはありません。双眼鏡で「どこにいるの?」と木々の枝をくまなく見ていきますが、なかなか鳥そのものが見つからず、ひと苦労。「あ、いた!」と思っても、よく見たら木にぶら下がった萎れたリンゴだったり。これでは、カウントどころではありません。どうやら思い描いていた以上に、目が慣れ、コツを得るまでに時間と経験が必要なようです。よく考えたら私の主人は、子供の頃からハンティングをしていたからでしょうか、どこへ行こうと野生動物を見つけるのが得意で、毎回何気なしに指をさしながら、「ほら、あそこ」と教えてくれます。しかし、コンクリートジャングルのネオンばかり見てきた私は「どこ、どこ?」と聞いても、まだどこにいるのかわからないほど、ポイントずれずれです。バードウォッチングは、もともとハンティングから、野鳥を殺さず見て楽しむ遊びへと進化させたものです。つまり基本は獲物を見つけるのと同じということなんですね。 なかなか鳥の姿を見つけられず、カウントどころではない。それでも、ひたすら探し続ける  そんなバードウォッチング音痴の私ですが、めげずに探し続けました。カウントより、まずは鳥を見つけ出すこと。肉眼と双眼鏡両方であっちかな、こっちかなと見て回ります。ようやく開始して30分後くらい、木の上から美し歌声を響かせているヨーロッパコマドリを発見。誇らしげにジャズの即興ソロように歌い続けている姿を双眼鏡越しにキャッチ。この鳥は、12月中旬の寒さが厳しい時期から繁殖期の囀りを始めるそうです。きっと見たのはオスで、アピールに必死だったのか、かなり長い時間パフォーマンスを披露していました。次に登場したのは、鮮やかな黄色のボディ、その真ん中に顔からすっと黒いラインが入っている戦隊ヒーローみたいな模様をしたシジュウカラ。日本にいるシジュウカラとは、亜種が違い見た目が少し違います。警戒しているのか、せっかちなのか、忍者のようにぴょんぴょんと枝々を跳ねながら、「ティーキティーキ」とサイレン音のような鳴き声をだします。仲間にサインを送っているのかも。 ウェブでは、1時間のカウントダウン・タイマーとそれぞれの鳥のボックスに数値を記入できるようにしてある。とても便利 © RSPB  寒さが気にならないほど夢中になり、あっという間に1時間が経ちカウント終了。その後もハト、カラスなど合計5匹を目で確認できました。きっともっといたはずなのですが、残念ながら姿が見つからず。その後RSPBのウェブを通して、カウントした野鳥を報告し終了。とても気楽に参加できるイベントで、うまくカウントはできませんでしたが、それでもバードウォッチングを体験し、野鳥生態調査に参加できたことは、とても面白かったです。 私のカウント結果が、パイグラフで表示される。もっとカウントできたら・・・© RSPB 全体の途中結果と去年の集計結果もチェックできる © RSPB  野鳥観察を通して、自分の周りで一体何が行われているのかを知る。普段どこかで接点があるにもかかわらず、私たちが見過ごしている世界を意識することで、新たな視点を手に入れたように感じます。一番身近な自然と向き合い、意識を集中することは、少し瞑想に似たような、自分の存在や位置を再確認する行為なのではないかと思いました。何かとせわしない現代社会に生きる私たち。たまには立ち止まり、360度見渡してみる。野鳥たちがガイドとなり、未知なる世界へと連れて行ってくれる。バードウォッチングの魅了は、かなり深いようです。 参考資料: RSPB  ww2.rspb.org.uk 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022...

庭に置かれたバードフィーダー(餌台)。ハトやシジュウカラがそれぞれ好みの餌を食べに来ています  初霜が降りると、クリスマスプレゼントや年賀状のことを考えだし、年末年始のお祝いモードを徐々に感じ始めます。このちょっとウキウキした感情は、宗教関連の祭り事が続くこともあり、どこかでみなと共有したい、分かち合いたいと身勝手ながら思うものです。私も「自分たちだけご馳走ばかり食べて申し訳ない」と感じます。そして「一緒に冬を乗り切ろう」とエールを送る意味も込めて、日頃楽しませてくれている野鳥たちへバードケーキを作り、庭の木々に吊るします。  バードケーキとは、鳥の餌をラードで固めた、主に冬に与える練り餌のことです。英国では、バードウォッチングが盛んで、庭に野鳥用の餌台バードフィーダーや水浴び用のバードバスなどを設置する人が多くいます。そこに集まってくる鳥たちを家の窓から眺めて楽しむことは、ごくごく普通の光景です。どこのスーパーマーケットへ行っても、ペット用品コーナーには、犬猫用の餌と同様、野鳥用の餌や餌箱が必ず陳列されています。それだけ野鳥は身近な存在のようです。 スーパーマーケットには、いろんな野鳥用のエサが棚に置かれています  木々の枝に吊るされたバードケーキは、ちょっとしたクリスマスデコレーションのようで、お祝いモードをさらに盛り上げてもくれます。餌が少なくなる寒い冬を生き抜くために、ナッツや穀物だけでなく、ラード、チーズ、ドライフルーツを混ぜて、タンパク質、糖質、脂質ばっちりのハイカロリーなケーキを作りました。レシピは、こちら。 ① ボールに、細かく砕いたナッツ、ドライフルーツ、オーツ麦、鳥の餌など、キッチンで余った食材をうまく活用し、自由に選んで入れていきます(塩や砂糖などが入っているものは少し控えめ、パンなどの穀物を加工したものは入れず、なるべく素材そのままを使用)。 野鳥たちが寒さに耐えられる体力作りを助けるために、タンパク質、糖質、脂質の三大栄養素を、バランスよく入れてあげるようにします。(ボールは、ラードでベタベタになるため、洗うのが大変です。ワックスペーパーやアルミフォイルなどを使用すると、洗う手間が省けます。) ② チーズをおろし器ですりおろしながら、加えます(塩分があるので、入れすぎないように注意)。 ③ 寒さ対策のために、ラードを小さく切り、ボールへ。ちなみにこのレシピは、冬用になります。 ④ ラードを指先で潰しながら、体温で柔らかくしていきます。(手は、油でベタベタになるため、のちほど洗うのに苦労します。必要とあれば、ビニール手袋を使用すると便利かもしれません。) ⑤ 溶けたラードと餌をうまく混ぜます。 ⑥ 写真のように、まんべんなく混るまでかき回します。  クリスマスっぽく、赤いリボンやひもで吊るし、松ぼっくり、アイビー、月桂樹の葉、乾燥させたラシャカキグサの花穂、オークの枝などを使ってデコレーションしていきます。ナチュラルテイストに、そして食後のゴミを考えエコなものでと思い、すべて自然素材にこだわりました。バードケーキは、子供達と一緒に作ってもきっと楽しいはずです。手をベタベタにしながらケーキを作り、庭にあるものを自由に使い飾り付け、外に吊るして野鳥観察。冬のアクティビティにオススメです。 鳥たちがうまく餌を食べれるよう工夫し、彼らに警戒させないよう自然素材で飾ってみました。クリスマスを意識して赤と緑ペースの色合い。童心に返ります。  リスやネズミなど鳥以外の野生動物たちが食べに来ることもあるので、それを避けるために、小鳥たちだけが食せるような木の枝を探し、吊るします。この時に忘れないようにしているのが、鳥たちの水飲み場です。冬の時期、餌は結構あげている方がいますが、水のことも気にかけてあげることが重要です。凍結で飲めない状態になり、脱水症状を起こしやすいのが、意外にも冬にはあります。 バードケーキの上にも、シリアルやナッツをトッピングして、さらに可愛く美味しそうに。大きいナッツは、彼らの足場になればと思いました。地面に落ちたら、他の野生動物が処理してくれることでしょう(笑)。 雪が降った後や霜で地面が凍っているときにあげると、鳥たちも喜びます。  バードケーキを吊るし始めの2、3日は警戒しているのか、それとも気がついていないのか、ノータッチでしたが、その後餌を見つけた鳥たちが、頻繁に突きにき始め、1週間後ぐらいには影形もなく、平らげていました。残念ながら私のカメラにはその様子を収めることができませんでしたが、英国で人気ナンバーワンのヨーロッパコマドリ、人懐っこいシジュウカラ、ビートルズの歌"Blackbird"でも有名なクロウタドリなどが、私の特製クリスマスケーキを堪能していました。私の気持ちが野鳥たちに通じて、日頃の糧を一緒に感謝し祝えたように感じ、寒さで冷えた体をポッと暖かくしてくれるものでした。野鳥との距離もぐっと近づき、彼らのことを今まで以上に気にかけるようになり、もっと知りたいと思うようになりました。野鳥との出会いは、散歩の楽しみをも、さらに広げてくれます。みなさんも、ぜひバードケーキを作って、庭に訪ねてくる野鳥さんたちと真のご近所交流してみてください。 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022...

 「2017年総選挙、与党の保守党は過半数を獲得できず、宙ぶらりんの「ハング・パーラメント」。求心力を弱めたメイ首相、EU離脱交渉がますます困難に。」  6月8日(木)、英国下院議会・解散総選挙が行われた翌日、英国国内に激震が走りました。日本を含む世界へもこのニュースは流れ、去年行われたEU離脱を問う国民投票以来の注目を浴びました。市民権保持者ではない私には選挙権がないため、いち住民として、またある意味傍観者として、ことの成り行きを見守ってきました。そんな中、総選挙に絡んで、チャリティー団体の動きが活発になり、ちょっと気になりました。SNS上には、景観・自然保護団体、スポーツ・レクリエーション推進団体が、国政選挙に向けて、どんなアピールや政策提言ができるのか、団体が関心を寄せている諸問題を各党がどう解決していこうとしているかなど、連日フィードに投稿されていきました。 選挙運動期間中、連日私のフェイスブックのフィードには、チャリティー団体から選挙関連の投稿が・・・。© CPRE  私の勝手な思い込みですが、チャリティー(慈善団体)やNPO団体と聞くと、政治とは別枠、中立な立場で国がカバーできない部分を補い、市民のために活動をしているイメージがあったのですが、どうやらそうでもないようです。雇用、医療、難民、貧困、差別など国民ひとりひとりに直接関わることで、各党のマニフェストの焦点となる分野ならともかく、ウォーキング、サイクリング、乗馬などの、自然、スポーツ、レクリエーション、観光といった遊びは、生活に絶対になくてはならないものとは言い切れない(もちろん、必要だと思う方も多々いらっしゃいますが・・・)、政治とは別ものでは?これらの遊びは、もとは英国貴族から始まっており、生活(または心)に余裕がある人々が考えることなんだと、どこかで思っていました。地方や地域ベースだけでなく、国政レベルまでキャンペーンを展開するのは、やはりチャリティー大国ならではのことなのでしょうか。欧州でのチャリティーは、キリスト教の教えに基づく教会から起きた活動が元のようで、政治に関与することに、政教分離ではないけれど、なんとなく違和感があるのですが、国教がある英国は、日本とは状況が違うのかもしれません。毎日フィードに、絶え間なくアップされる投稿に 「こうゆうこと、するんだ・・・」とちょっと戸惑っていました。例えば、各団体の主張は、こんな感じです。 The Wildlife Trust(野生動物保護団体)  自然を保護することは、自然の一部である人間を保護することである。我々は多くの野生動植物を守り、自然をもっと身近なものとするべきと考える。環境保護に関する規制は、現在EUベースで行われており、離脱後、独自の環境保護法を制定し、世界をリードする目標の高いものにする必要がある。また、海上の自然保護区をいち早く定めるべき。  自分たちの選挙区の候補たちに、自然保護がどれだけ大切なのか、どのような保護活動を考えいるのか、話を聞きに行くよう勧める。理事長によるビデオメッセージも紹介。 ザ・ワイルドライフ・トラストのウェブサイトより。政策提言と理事長からのビデオメッセージが掲載されている。© The Wildlife Trust Sustrans(サイクリング推進団体)  我々は、よりよいサイクリング環境を作るために、他のサイクリング、ウォーキング推進団体と組んで、それぞれの政党に、3つの提言をする。 a)新しい大気汚染防止法の制定。毎年約4万人が大気汚染により死亡しており、全国の道路80%は、基準値をはるかに超える汚染度である。ディーゼル車の排気ガス規制、サイクリングやウォーキングを推進、排出ゼロへシフトできるような仕組みを強化するべき。特に離脱後も、継続してこれらの問題を解決できるような法整備が必要。 b)サイクリストや歩行者が安全な道を利用できるよう、道路整備の予算を、主に高速道路へ使うのではなく、地方道に使うべき。一マイルにつき、2万7千ポンドを投資するれば、イングランドの97%の地方道が整備される。(*高速道路は、一マイルにつき、110万ポンド。イングランド全体の3%の道しか整備されない)。 c)サイクリングやウォーキングを推進するために、予算をもっと割くべき。それにより、国民の健康向上、公共交通費の値下げ、商店街の活性化、大気汚染減少などの効果が見込まれ、最終的に大きな財政削減対策になりえる。 サストランズのウェブサイトより。車ではなく、持続可能な交通手段の利用を推進する団体。彼らの政府への要望は、かなり野心的。© sustrans Living Streets(街における歩行者を守る団体)  上記のSustransと組んで、キャンペーン活動をしている。3つの提言を、各政党がどのようにマニフェスト上で提言しているのか、比較したリストを公開。また、政権を握った政党が、きちんと提言通りに3つのポイントを実行するか、常に監視していこうと訴える。 リビンク・ストリートのウェブサイトより。サストランズと共同キャンペーンを展開中。それぞれの政党は、彼らの関心事をマニフェスト上で、どう提示しているのか、比較している © Living Streets CPRE – Campaign to Protect Rural England(イングランド地方保護団体)  総選挙に向けた団体独自のマニフェスト ”Stand up for the Countryside” を発表。 CPRE のマニフェスト。各政党が発表する前に、すでにリリースされていた © CPRE  美しい田舎を守り、よりよいものにするということは、地方経済に大きく貢献することであり、人々の生活向上につながり、個人や地域のアイデンティティを確立するものである。これらのことを次世代に残すべき以下の提言をする。 1)緑地帯、国立公園、AONB(英国版国定公園)をより積極的に守る。特に近年の住宅開拓からこれらを守る必要がある。 2)財政面だけで農業、環境をサポートするのではなく、地産地消を推進することで、安全な食を国内で生産し、美しい景観を残し、レクリエーションの機会を増やし、地方経済を潤す、新たな補助金システムが必要。 3)財政を主要道中心とする公共事業ばかりに投資するのではなく、持続可能な社会を形成するために、鉄道やバスなどの公共交通機関の充実、サイクリングやウォーキングによる移動を可能にする環境作りが必要。 4)ゴミ処理による公害対策の強化。リサイクル環境をさらに良くし、美しい自然を守る。 5)EU離脱後も、現EU環境法を継続できるよう、そのまま国内法へ移行し、新たに強固な環境法を制定するべき。 The Ramblers:(ウォーキング推進・環境保護団体) ランブラーズのマニフェスト。チャリティー団体が、政党顔負けのマニフェストを制作 © Ramblers  総選挙に向けた団体独自のマニフェスト”Manifesto for a Walking Britain”を発表。 1)EU離脱に伴い、政府は農産業への投資を保証し、カントリーサイドへのアクセスを改善するべき。アクセス権(通行権含む)があるエリアを規定通りに管理している農家へは報酬を与え、逆に満たない農家へは、補助金を減らすシステムを提案。 2)国民の健康問題は、ますます深刻になり、財政面でも大きな負担となっている。歩くことは、人が心身ともに健康になる最適の方法である。それを実行するために、予算を確保し、歩ける環境整備と医療機関と連携ができるシステムを構築するべき。 3)都市は、車移動をベースにデザインされており、自転車や歩行者がより安全で、緑を楽しめるような環境にするべきである。次期政権には、国民すべてが、自宅から徒歩10分以内に緑地へ辿り着けるような環境作りを求める。 4)ナショナル・トレイル存続の保証。前政権は、2020年までにイングランドすべての海岸線を歩けるようトレイル整備への予算投入を約束。次期政権でも継続されるよう保証が必要。また、他のナショナル・トレイルが、長期存続できるような保全・管理体制を求む。  上記のマニフェスト発表以外にも、”General Election 2017 Hustings Guide”として、選挙運動中の候補者に、どのように話をしに行くのか、どこで候補者による集会が開催されているのか、実際の集会でどのようなことを聞いたらいいのか、選挙後当選した国家議員をグルーブ・ウォーキングにどう招待するのかなど、具体的なアドバイスをしている。 車、自転車、歩行者が、道をどう安全に共用できるのか、問われている  ざっと、ランぶら歩きする環境を保護している代表的な団体が、選挙中提示した内容です。かなり積極的で、限られた国家予算をどれだけ自分たちの活動目的に役立てるか、法を制定できるか、非常に政治的な面が見えてきます。ただ、倫理的な気持ちベースでアピールするのではなく、多くのデータに基づいた政策提言であり、自分たちの利益ではなく、政府や国民にとっての利益のためにというスタンスは、絶対に外してはいません。また、具体的にどこの政党、候補者を支持しているということはありません。あくまでも団体のポリシーを表明し、それぞれの政党の考えを比較し、その情報を国民に公開することで、判断基準のひとつにしてもらおうとしています。もちろん、EUの厳しい規制に不満を持つ農家を筆頭にこれらの提言に反対する人々もいますし、アウトドア愛好家の中でも、政治色が強すぎるキャンペーンを嫌う人達もいます。ただ、環境を守るということは、自分の周りだけの問題ではなく、国全体、または欧州、果ては地球全体で考え、取り組まなくてはならない。自然現象に国境はない。その考えをベースに全EU加盟国が今まで協力して行ってきた環境保護が、英国EU離脱により、大きく変化するかもしれない。行き先の見えない不安が、一層これらの団体の声が上がる理由かと感じます。 ロンドンでは、オリンピックを機に貸自転車をあらゆる場所に設置した  自然保護やレクリエーションを楽しむために、政治の場面でも、イケイケで押し捲る、ガンガンプレッシャーをかけて、自分たちの目的を達成するアグレッシブさは、私には新鮮に映ると共に、どことなく感覚で理解できない部分があります。のどかな美しい田舎、森林浴でやさしい癒し、豊かな自然の恵みといった日本人が持つ、のんびりソフトな静のイメージからは想像しにくいものなのかもしれません。ただこの行動は、英国人(欧州人)特有の自然観からくるものと片付けられず、19世紀に起こった産業革命により、ほとんどの自然と多くの歴史的建造物を失い、公害による健康への悪影響で苦しんできた経験があるからこそ、ここまでのモチベーションを保てるのではと感じます。何かを失った人たちが持つ強い気持ちは、石のように硬い。今回は、ちょっと違う角度から英国政治を追う、私にとってそんな総選挙になりました。 選挙期間中のランブラーズ・ウェブサイト、2017年総選挙ページより © Ramblers 参考資料(総選挙関連ウェブサイトページ): The Wildlife Trust www.wildlifetrusts.org/GE2017 Sustrans www.sustrans.org.uk/blog/general-election-2017-sustrans-cycling-and-walking-manifesto-asks Living Streets www.livingstreets.org.uk/what-you-can-do/blog/general-election-where-the-parties-stand-on-walking CPRE www.cpre.org.uk/local-group-resources/item/4595-general-election-resources-for-branches The Ramblers www.ramblers.org.uk/policy/vote-for-walking-manifesto.aspx 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022...

 約10年前に英国で出会ったカナダ人のジルちゃんと日本人の私。毎度おなじみ凸凹コンビが、ワンダーランド・ブリテン島を歩いて旅します。 [osmap markers="TR3214741255!red;ドーバー" zoom="0"][osmap_marker color=red] ドーバー  2017年第一弾は、英国南東部にあるケント州、ドーバー海峡を見ながら歩くイングランド・コースト・パス(England Coast Path)。コースは、ハイズ(Hythe)ー フォルクストン(Folkestone)ー ドーバー(Dover)ー セント・マーガレット・ベイ(St. Margaret Bay)。ドーバーは、ブリテン島が欧州大陸に一番近いポイントで、英国の玄関口になっており、大きな港町です。フォルクストンは、ドーバー海峡を渡る海底トンネル・ユーロトンネルの入り口となっています。大昔から現在に到るまで常に英国・欧州間の関係に影響されてきた地域であり、また真っ白なチョーク(白亜)岩壁が有名なところでもあります。そんな産業・歴史・自然がミックスされたユニークな海岸線を、ランぶら歩きしてきました。 ロンドンで開催された、ジルちゃんデビュー小説"The Last Wave"の出版記念パーティーにて。ジル先生のご著書にサインをいただいております  今回の滞在拠点は、フォルクストン。ロンドンから電車で一時間という立地の良さもあり、19世紀ヴィクトリア王朝時代のリゾート地として栄え、今もその雰囲気が残されています。一日目は、ここから、ドーバーを通り抜け、セント・マーガレット・ベイまでの東へ向かう約19キロ。二日目は、逆に西のハイスへ7.2キロ歩きました。今回は、いつものランぶら歩きだけでなく、もうひとつ大きな目的がありました。それは、ジルちゃんの長年の夢であった小説家デビュー作”The Last Wave”が今春に出版され、その本の舞台になったのが、このドーバー。ということで、聖地巡礼、出版記念歩き。主人公が、ドーバー海峡を横断泳するチャンネルスイマーということで、実際に挑戦した人たちの偉業を生で感じる旅でもありました。 [osmap centre="TR2883740680" zoom="4.50" gpx="https://rambleraruki.com/wp-content/uploads/2021/11/English-Coast-Path-_-Folkestone-to-Dover.gpx" markers="TR2247235405!red;出発点: フォルクストン|TR3697244595!green;終着点: ドーバー"] [osmap_marker color=red] 出発点: フォルクストン [osmap_marker color=green] 終着点: ドーバー  一日目:天候は、良好。六月初めですが、すでに夏の日差しが照りつけ、少し暑いぐらいでした。夏のホリデーシーズンにはまだ早いですが、週末ということもあり、ぶらぶら歩いている人たちが、結構いました。フォルクストンの港を通り過ぎ、町から徐々に離れていくと、早速白亜の崖が見え始め、テンションが上がります。 街を離れてすぐに白亜の岩壁がお目見え。空の青さが、チョークをますます白く輝かせる おなじみナショナル・トレイルのどんぐりマーク。今回は、England Coast PathとNorth Downs Wayのダブルどんぐり。非常に珍しい  今、イングランドでは、海岸線を2020年までに全開通させる新たなナショナル・トレイル、イングランド・コースト・パスの整備が着々と進んでおり、ここケント州は、1/4のコースが2016年に開通し、2020年に向けて残り3/4を作業している最中。今回は、開通したコースのほんの一部を歩いたことになります。このイングランド・コースト・パスが全開通すると、総距離4500キロ。ウェールズは2012年に、一足先に1400キロ全開通しており、それと合わせると計5900キロとなり、世界一長い海岸線トレイルとなります。海岸線といっても、砂浜ばかりではなく、今回のドーバーのような岩石海岸、湿地帯、砂利浜を歩くことも。目の前に広がる海の表情、波によって荒く削られた岩の彫刻、人々と海の暮らしがある風景、波と石がぶつかり合う音、潮の香り漂う風を感じながらの歩きは、山のトレイルとはまたひと味違う、五感を刺激する独特の面白さがあります。新鮮な魚介料理がいただけることも、進む足をさらに加速させます。 生い茂る草と蒸し暑さの中登り続ける。ああ、しんどい  崖歩きは、山歩きのような蛇行した道ではなく、想像以上に急なアップダウンがあります。今回も少し憂鬱な気持ちで、草で覆い隠された道を上がって行きました。日陰らしい日陰もなく、直接太陽が頭の上を照りつけ、早速ムシ暑さで汗が一気に出てきます。涼しい潮風はどこへ?と思いながらしばらく登り続けると、視界がパッと広がり瑠璃色の海が果てしなく続き、空と混じり合っていました。私が慣れ親しんでいるエセックスの湿地帯が続く海岸線とは明らかに違い、スケール感があり思わず「きれーい!!」と声を上げてしまいました。ロンドンからそう遠くない場所に、青い海があることにびっくりです。下を覗くと、白亜岩壁をぶち抜いたトンネルに電車がちょうど入っていき、さらにテンションアップです。 チョークの崖をくぐり抜け走る電車が見えた。車窓から眺める海もまたひと味違うのかな・・などと想像してみる 過去と現在が交差する。青年たちは何を思いながら飛び立ったのか。想像計り知れない。バトル・オブ・ブリテン記念館にて  崖の上に立ち、広がる平野を見ながらホッと一息。潮風で涼みながらさらに進むと、突如整備された広場が現れました。はじめ何の施設は分からず進むと、大きな男性が座っている像があり、その奥に名前が刻まれた黒い石碑。ここが第二次世界大戦、ドイツ空軍と英国空軍が最大の航空戦を繰り広げた「バトル・オブ・ブリテン」で勇敢に戦った兵士たちを追悼する場であることが、のちにわかりました。美しい海の上で、悲しい涙が多く降ったのかと思うと心が痛みます。英国連邦諸国であったカナダから参戦した人もいて、ジルちゃんも神妙な面持ち。この土地が持つ運命を感じずにはいられませんでした。 明るく美しい風景とは対照的な暗い過去が、そこにはあった アボッツ・クリフ(Abbots Cliff)。崖ぎりぎりのところを歩き、スリル満点。後ろにある家は昔、密輸入業者を上から見張る場だったそう。地元の小さな歴史を知ると、なぜだかその地に情が湧いてくる  さらに歩を進めていきます。崖の上は、思いの外、野生動植物が豊富で、野生ランも咲いていました。ハヤブサの一種であるチョウゲンボウが、時々崖の上をホバリングしながら、餌を探している姿が見えます。農場では、トラクターが、急斜面をアップダウンしながら干し草を収穫していき、放牧された馬や羊たちはのんびり草を頬張る。その農地を割るかのように高速道路が敷かれていて、船への搭乗を待つ巨大トラックが、長蛇の列を作っていき、その先にはクレーンが並ぶ港町ドーバーが、見えてきました。田舎の明るくノホホンとした風景と産業的で忙しない港の姿。まるで現代社会を凝縮したかのようなこの眺めは、この土地ならではと感じます。 海と牧草。港と巨大トラックの列。白亜のステージには、2つの異なる世界が共存していた シェイクスピア・クリフ(Shakespeare Cliff)と呼ばれるこの崖の下にある浜から、ドーバー海峡横断泳者たちは、スタートする。海峡横断泳協会に正式に登録し、記録を残さないと挑戦できない。成功者は、現段階で2199名。 ドーバーは、ナショナル・トレイルNorth Downs Way、England Coast Pathだけでなく、欧州大陸に続くEuropean long-distance pathsのE2とE9のルートでもある。ロングトレイルでも、重要な拠点 夏休み前だが、家族や友人たちと歩く人々が、ちらほら ドーバーの街並み。丘の上には、守りの城ドーバー城が見える。ローマ人時代すでに、要塞港として使われ続け、今も人とモノの行き来を監視し続けている 世界的に有名な英国人グリフィティ・アーティスト、バンクシーの作品。ドーバーの街中で見ると、EU 離脱のリアリティーが増し、どこか寂しさが込み上げてくる チャンネルスイマーたちのパブ、The White Horse。店内の壁・天井一面に、スイマーたちのサインが書かれている。ジルちゃんは、ここに自分の処女作を置いてきた 海沿いを歩くなら、やっぱり新鮮な魚介類を食するのは、外せない  ドーバーの街に入り、腹ごしらえを兼ねて、チェンネルスイマーたちが集うパブ、The White Horseへ。パブに入ると壁や天井一面に書かれたスイマーたちのサインが、目に飛び込んできます。ジルちゃんの小説には、このパブが登場します。去る前に、オーナーに一冊本をプレゼントし、記念撮影。さっそくみなに宣伝してくれるそうです。多くの人々に作品が読まれたらいいなと思います。 家の至近距離に、白い崖が・・・。地震大国日本では、あまり見られない光景かと 左を向けば、コンクリートで人工的に作られた港、左を向けば、蝶が野花の中を飛び回る自然保護区。何とも不思議な風景  お腹が満たされると眠気が襲い、足が急に重くなります。だらーんとしながら少しつづ先へと進みます。街中を通り抜けて、また白い崖の上へと登ります。ここからは、ナショナル・トラストが管理するThe White Cliffs of Doverになります。海を見ながら、岸壁の上を歩いたり、ティールームやビジター・センターでお茶をしたりできる自然と第二次世界大戦時中に兵士たちが住んでいたシェルターなどの歴史にも触れられます。ここは、観光地として有名であるため、今まで歩いてきた道とは違い、車椅子でも訪問できるようきれいに整備されており、この日は乳母車を引く家族や海外観光客が多く歩いていました。同じドーバーでも歩いてきた西側とは確実に雰囲気が違います。 白くて可愛らしい灯台が黄金の麦と青い空を繋いでいた  海の向こうには、フランスがはっきりと見えており、ドーバーと同じ白亜岩壁に驚きました。昔陸で繋がっていたことがよくわかります。突如、携帯がピピット鳴り「フランスへようこそ。ここからは、フランスの携帯会社がご案内させていただきます。」とメッセージが届き、さらに驚きました。なんだか、人間の作る国境って、なんだろう。よくわからないなと考えてしまいました。 ジルちゃんの処女作"The Last Wave"。表紙の絵にも使われているドーバーのホワイト・クリフにて記念撮影 この瞬間のために、歩くと言っても過言ではない。© Gillian Best  日照時間が長い6月とはいえ、だんだん暗くなり始め、足もさすがに疲れてきたころに、ようやくゴールのセント・マーガレット・ベイにあるパブ、Coastguardに到着。這うようにバーに行き、恒例の地元ビールで、乾杯。今日一日の旅の疲れを癒しました。その後、タクシーでフォルクストンまで帰る道中、トルコ人の運転手さんが、カナダ人と日本人のコンビが、ここで何をしてきたのか聞くので、ずっとここまで歩いて来たことを話すと驚いていました。確かにかなりの距離があることが車で走っていてもわかります。運ちゃんの「よく歩くね」とでも言いたい不思議そうな顔が印象的でした。 やはり海に行ったら、水には触りたい。セント・マーガレット・ベイにて 10th June 2017, Sat @...

 森や草原を歩いていると、多くの野生動植物を目にし、時の移り変わりを感じることができます。水仙の花が春の訪れを伝え、ツバメのスイスイ飛ぶ姿が夏を運び、リスがナッツを土に埋め出すと秋が近く、霜で真っ白になった木々が冬の静けさを演出。自然を観察しながら歩く、これがランぶら歩きの醍醐味のひとつではないでしょうか。そんな野生動植物を保護しているチャリティー団体、ザ・ワイルドライフ・トラスト(The Wildlife Trusts)が、今月2017年6月から全国一斉に、30 Days Wildキャンペーンをまる一ヶ月実施します。ザ・ワイルドライフ・トラストは、英国内にある2300ヶ所の自然保護区を所有、または、共同管理し、保護活動を展開しています。うちの近所にもエセックス・ワイルドライフ・トラスト(Essex Wildlife Trust)管理下の自然保護区があり、よくランぶら歩きしに行きます。 30 Days Wildキャンペーンパック申し込みウェブサイトより © The Wildlife Trusts 野花の種を無料配布  トラストはここ最近、Living Landscapeキャンペーンを展開。これは、トラストや他の団体が持つ保護区に現存する野生生物を守るだけでは、 自然保護としては不十分であり、彼らが数を増やせる環境を広げることで、生物多様性の世界を実現しようという目的で始まりました。具体的には、自宅の庭や校庭に野生動物が住めるような工夫、例えば庭の囲いは垣根にする、鳥たちが食す植物を植える、害虫を駆除してくれる虫たちの巣箱を庭に設置する。そして自然観察する。つまり、自宅で自然保護区を作ってしまおうというものです。そして今回の30 Days Wildキャンペーンは、Living Landscapeキャンペーンの中から派生した、自然体験強化キャンペーンで、”Random Acts of Wildness”のスローガンのもと、自然に触れる何かしらのことを毎日続けて、それを一ヶ月間記録に残そうというものです。野生動物が好む餌を置いたり、バードウォッチングしたりするだけでなく、ランチを外で食べたり、夫婦で庭でワインを楽しんだりと一日ほんの少しの時間でも自然と向き合う。人々に日頃から自然に馴れ親しんでもらい、野生動物に目を向ける習慣を身につけてもらうことが、目的のようです。  先日、エセックス・ワイルドライフ・トラストから、30 Days Wild Packが届きました。中身は、一ヶ月のカレンダー、シール、野花のタネ、キャンペーン活動の提案など。それぞれのグッズは、遊び心満載のワクワクさせるデザインで、子供はもちろん、大人も童心に帰って、自然の中へ飛び出していきたくなります。余談ですが、英国のチャリティー団体は、かなりデザインやPRにこだわっていて、よく研究されています。有名な広告代理店が関わっていることもあるようで、それだけ世間に上手にアピールすることが、活動を理解してもらい、会員を増やす結果になることを知っているのでしょう。シンプル&スマートで、親しみのある、インパクトが強い、エキサイティングなデザインが、施されている。とても真面目で、時には深刻なテーマで取り組んでいる団体もいますが、それとは裏腹にヴィジュアルは、キャッチーでクールな興味の引くものが多いです。 キャンペーン中に何ができるか、トラスト側から沢山のアイデアが提示されている。30 Days Wildキャンペーン・ウェブサイトより © The Wildlife Trusts スマートフォンでアプリを使い、参加もできる  今回はSNSも駆使し、#30dayswildのダグをつけて、お互いの活動を報告し合うことも、キャンペーンの目玉のひとつとなっています。専用のアプリをダウンロードすることもできます。さて、私は明日から、どんな野生動物に会え、彼らに何ができるのでしょうか。Go Wild!! 参考資料: ザ・ワイルドライフ・トラスト www.wildlifetrusts.org 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022 ...

 社会に向けて、自分たちの主張を通す手段として、デモ行進という表現方法が英国(欧州)にはあり、歩く行為が個々の内面を体現することになりえることがあります。表現の自由、参政権、抗議デモは、この国では人が人であるための権利として法律で保証されていますが、それは長い間、多くの人たちが血と涙を流しながらも訴え続け、ようやく勝ち取ってきた権利です。 子供達のために、お母さんたちもデモ行進に参加。Unite for Europeのデモ行進にて  ここ最近では、女性中心に起こる運動が注目を浴びていて、米国トランプ大統領就任式翌日に、女性たちによる抗議デモが世界規模で起こり、全世界で数百万人に上ったことがニュースになりました。英国でもロンドンを中心に各地で、女性たちがピンク色に着飾り、ユーモアに、そして平和に包まれながら歩く姿の写真が、SNS上で飛び交っていました。また、毎年3月8日の「国際女性デー」に因んで開催される行進では、年を追うごとに盛り上がりを増しています。2015年には、英国で女性参政権を求めて戦った人々を描いた映画「未来を花束にして(原題 : Suffragette)が上映され、その関連の企画展がロンドン博物館で開催。映画共々好評を得ていました。劇中では、活動仲間の女性の死を悼み、「神が勝利を与えてくださるまで、戦い続ける」と書かれた大きなバナーを掲げながら、白いドレスに黒い腕章、そして花のリースを持つ女性たちが行進するシーンもでてきます。そんな彼女たちの活躍もあり、1928年に、21歳以上すべての女性に選挙権が与えられました。権利とは国民ひとりひとりが唯一平等に持てるもの。ただ、その権利は上から与えられるのではなく、自分たちで勝ち取っていくことなんだと、これらを通して学んだことです。一歩、また一歩と進んでいく、そのアクションに大きな意味があることを、私は英国で初めて認識しました。= ピーク・ディストリクト北部は、別名ダークピークと呼ばれ、グリットストーンとムーアランドが続く  そして、1928年の女性参政権獲得から4年後、1932年4月、また別の権利を巡って、世の中を騒がす事件が起こります。舞台は、打って変わって大都市から、英国のへそにあたるピーク・ディストリクト国立公園北部にあるヒースで埋め尽くされた荒涼とした高原。キンダー・スカウト(Kinder Scout)と呼ばれるこの一帯で一番標高が高いムーアランド(低木のみの荒野)に、400人ほどの若者を中心としたランブラーたちが結集していました。 キンダー・スカウトは、ランブラーの聖地となり、今でも多くの人々が歩きに来る [osmap markers="SK1226185562!red;キンダー・スカウト" zoom="0"][osmap_marker color=red] ピーク・ディストリクト国立公園 キンダー・スカウト  19世紀ごろに起こった産業革命で、英国の人々の生活は一転。工業都市に人口が集中。都市部の労働環境と住宅事情は悪化。公害問題もあり、人々の健康が損なわれました。その反動で、労働で賃金を得た人々は、休みを利用して、健康改善や気分転換のため、革命後急激に発展した鉄道を利用して、自然豊かな地に出かけることが、一大ブームになりました。 ここピーク・ディストリクトは、イングランドの背骨と呼ばれるペナイン山脈が南北にはしり、二大工業都市、東のシェフィールドと西のマンチェスターに挟まれる位置にあります。そのため毎週日曜日になると、日頃過酷な労働を強いられている若者たちが、汽車に揺られこの地域に歩きにどっと押し寄せてくる現象が続き、20世紀初頭には、数千人単位に膨れ上がっていたそうです。ただ、ここ一帯は、有名な雷鳥の猟場で、有力者が個人で所有している土地がほとんどでした。ゲームキーパー(Gamekeeper:この場合のgameは、狩りの獲物のこと)と呼ばれる猟場番人を雇い、一般の人々が入れないよう遮断された地でした。ほんの一部の歩くことが許されたエリアが、人でごった返すことに限界を感じ始めたランブラーたちは、広範囲で散策したい気持ちを徐々に強めていきました。大昔から人々が通行のために使っていたフットパス(歩道)を歩かせてほしいと、100年以上嘆願し続けてきましたが、土地所有者たちは、多くの労働者が自分の土地に入り込むことをよしとせず、却下し続けてきました。ランブラーたちと土地所有たち間の軋轢は、徐々にエスカレートしていきます。 今でも週末になると、多くの人々が電車に揺られ、サイクリングやウォーキングにやってくる ナショナル・トレイル第一号のペナイン・ウェイは、ここからスタートする  しびれを切らしたハイカーたちが、キンダー・スカウトへ集団強行侵入を、1932年4月24日に決行したのです。歩いている途中、この土地の所有者であるデボンシャー公爵に雇われたいたゲームキーパーたちと揉め、ハイカー数十名が逮捕・投獄されました。このニュースは、たちまちメディアを通して全国へ伝えられ、「労働者の権利」の象徴として多くの同情と支持を得ました。その後通行権を求める運動が全国へと広がり、法案提出へと一気に勢いを増し、ついに第二次世界大戦直後の1949年、「国立公園設置と地方へのアクセスを定める法(The National Parks and Access to the Countryside Act)」が国会で可決され、通行権が、正式に法律に組み込まれ、全国のフットパスを自由に歩く権利を獲得。と同時に、ピーク・ディストリクトが英国国立公園第一号に認定されました。 キンダー・スカウト集団強行侵入記念式典の様子  キンダー・スカウトへ集団強行侵入から85年経った2017年4月、地元のキンダー・ビジター・センターを中心に、ピーク・ディストリクトで活動するナショナル・トラスト、ダービーシャー・ワイルドライフ・トラスト、ランブラーズ、英国山岳協議会(The British Mountaineering Council)、英国山岳レスキュー協会(Mountain Rescue in the UK)そして、ピーク・ディストリクト国立公園管理局(Peak District National Park)が一斉に集まり、記念式典を開催。私も、ちょっと覗いてきました。通行権を獲得するために長年戦い続けた先人たちを称え、今後彼らの努力を無駄にしないよう、この国立公園をどのように次世代に継承していくのか、それぞれの団体が話をしてくれました。継続する難しさはどこも同じようで、特に費用の確保が年々大き課題になっているようです。そこへさらにEU離脱となると、今までEUから受けていた補助金や環境負担軽減の規制がどうなるのかわからず、みなさん不安は隠せないようです。 各団体がパネルで保護活動内容を説明  それでも、諸先輩たちの逞しい行動力に勇気付けられ、前へ進もうと努力している姿は、彼らが誇りに思っている英国の歩く文化の重みを感じます。EU離脱問題で、「英国らしさを取り戻すんた!」と頻繁に聞きますが、私にはこの歩く文化の中にこそ真の”Britishness(英国らしさ)”があるように思います。それがまさに今、次へと受け継がれていこうとしています。たとえそれが険しい道でも・・・。 22nd April 2017, Sat @ Edale Village Hall 参考資料: キンダー・スカウト集団侵入を今に伝える、キンダー・ビジター・センター www.kindertrespass.com ナショナル・トラスト キンダー・スカウト www.nationaltrust.org.uk/kinder-edale-and-the-dark-peak 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022 ...

 公園を散歩したり、ウィンドーショッピングしながらぶらぶらしたり、自然の中でハイキングしたりと、ウォーキングという言葉には、のびのびリラックスした健康的なイメージがどこかあるのではないでしょうか。ただ、歩くという行為は、時に熱を帯びた過激なパフォーマンス手段と変貌する時があります。 子供が手作りのプラカードを掲げていた。なかなかのセンス  英国は今、ひとつの大きな壁にぶち当たっています。Brexit : EU離脱問題。2016年6月の国民投票により、英国はEUからの離脱を決定。2017年3月、正式に離脱宣言を欧州理事会に通告。ただ国内では未だ残留派も多く、国を二分する危機に直面。大きく揺れる中、6月に下院解散による総選挙が実施され、再度国民に離脱賛成・反対を問おうとしています(*これを書いているときは、総選挙2週間前です)。テロ事件も立て続けに起こり、国民の将来への不安は益々高まっています。この国の市民権を持っておらず選挙権がない私は、傍観者として行く末を見守っていますが、この問題を英国国民は、井戸端会議から国会まで、それぞれの視点から意見を述べ議論を盛んにしていて、「議会制民主主義が生まれた国なんだな」と感心してしまいます。どんなにアホな考えであっても、まったく同意できない意見であっても、誰しも意見を述べる権利、そしてそれに反論する権利が尊重されているのは、この国が階級社会であるゆえ、その壁を乗り越える手段のひとつとして、主張する権利が大切にされているユニークな社会なんだと思います。そして、時に個々の主張が塊となり、アクションを起こす。国を動かすデモンストレーションへと発展。庶民の表現手段として一般的なのが、歩くパフォーマンス、デモ行進です。 ロンドンで開催されたUnite for Europeのデモ行進。街頭がEUカラーの青色に染まる  3月25日、離脱宣言三日前、そして欧州連合が欧州経済共同体設立条約に調印したローマ条約60年周年のこの日、EU残留派による大規模なデモ"Unite for Europe"がロンドンで行われ、私も参加してきました。人生一度も政治的な活動をしたことがない私は、デモがどうゆうものなのか半ば興味本位で、そして選挙権がない私が唯一自分の意見を主張できる手段として、集合場所であったハイドパーク脇にあるパーク・レーンへ向かいました。この集会五日前には、ロンドン・ウェストミンスターでテロ事件があり、厳戒態勢の中デモ行進が行われようとしていました。このタイミングでのデモそのものにも疑問視する意見もあり、かなりピリピリした雰囲気。私も今まで、ぶらぶら歩くことでこんなに緊張した経験はなく、一歩一歩の重みを考えると胃がキリキリしていました。 青色コーディネートファッションの女性。手には花束が エルヴィス・プレスリーも天国からデモに参加?! テロで殉職した警官を偲んで、警備のパトカーには沢山の花が飾られていた  会場へ到着すると、各地から到着した大型バスから、地下鉄出口からEUカラーの青色のコスチュームに身を纏い、それぞれの主張が書かれたプラカードが掲げられ、何かを祝うお祭り、フェスのような賑やかさがあり、想像と違いカルチャーショックを受けました。それでもテロ直後ということで、派手さやおふざけはかなり自粛され、命を失った人々への哀悼の意を捧げるために、多くの人たちが花を持っていたことが印象に残ります。 車椅子にバナーを立て参加する女性  約一時間遅れでデモ行進がスタート。ある政党のロゴを掲げるグループ、小さい子供や乳母車に赤ちゃんを乗せて歩く家族、コスプレした人たち、大きなEUの旗を振る学生、車椅子のひと、ヨーロッパからの移民、スコットランドやウェールズの旗をマントのように羽織る人々、犬を連れて歩くリベラル中流階級の中高年夫婦、ひとり地味な格好で静かに参加している女性などの集団が、ロンドンの大通りを青の波にし、黄色い星たちが浮かぶ、まるで天の川とでもいいましょうか、ゆっくり流れ進んでいきました。バイドバークから、有名な高級ホテル・リッツ・ロンドンがあるグリーンパーク脇を抜けて、トラファルガー広場へ出てから、国会議事堂・ビックベンがあるウェストミンスターへの2マイル(約3.2キロ)の歩き。10万人(警察発表。BBCは5万人参加と報道。どうして差があるのかは、よくわかりません)のデモ行進がゆっくりと、シュプレヒコールを大合唱しながら、時にはバンドが音を奏で、参加者が歌にのせてEUに残りたいと叫び、歩を進めていきます。あるグループは、スターウォーズのオープニングテーマ曲に合わせて歌いながら、離脱反対を訴えていました。テーマは重いのに、なぜかみな笑顔で平和な行進が続きました。トラックの運ちゃんが、クラクションを鳴らして応援したり、道沿いの部屋からスピーカーを出してきてビートルズの”All You Need is Love”を爆音でかけ盛り上げた住民がいたり、いつもは車でぎゅうぎゅう詰めになっている車道を、人々が歩いていく非日常的光景に、みなのテンションもマックスとなります。 スコットランドの旗を巻いた男性。ウェールズの旗も見られた  デモ隊の中には、個性的なコスチュームやウィットに富んだスローガンとインパクトあるグラフィックによるプラカードが注目され、多くの人々にスマートフォンで写真を撮られるスターも誕生していました。どうやらSNSが広がった現代では、デモ行進 = 歩くストリート・アートといった要素もあるようです。ウェストミンスターでは、集会も開かれデモ参加者が次々に到着し、ステージ上の演説者に耳を傾けていました。事後報告によりますと、事故なく、けが人も出ず、無事にデモは終了した模様です。 自作グラフィックが彼らの主張をうまくアピールしている 将来を不安に思う親の肩に乗り、子供たちも沢山参加していた 街頭を進むデモ隊。ウェストミンスター宮殿が見えてきた  正直今回のデモ行進が政治にどれだけの影響を与えたのかは、わかりません。ひとによっては、ただ派手な格好でぶらぶら歩くお気楽な行進に、社会を変えるだけのインパクトはないと言う人たちも多くいます。効果はともかく、自分の主張を形にして公共へ発信していく。ネットなどによりアピールする場は多様化した今でも、大昔から行われている原始的方法のデモ行進は、やはり民主主義を生み出した英国(または欧州)の伝統文化なのだと、今回参加して思います。大勢で一緒に歩くことで生み出す力、平和的アピール方法でも、彼らの熱は十分に感じ取れました。逆に、ストリート・パフォーマンス・アートとして、ライブ感覚でSNSを通して全世界へ発信する、また短時間で写真集を発売するなど、デジタル社会だからできる要素も加わり、デモ行進自体も時代とともに変化してきているようです。道は、ただ人が歩いたり、車が走ったりする交通目的だけのものではなく、表現できる場でもあることを人々は、デモ行進を通して再確認し続けているのかもしれません。世界的に有名なストリート・アーティスト、バンクシーがこの国から生まれたのも、なんとなく理解できるような気がします。歩くことは、時に武器にもなりえる。道は、表現の自由を体現できる場にもなりえる。とても有意義な政治活動初心者入門体験となりました。 路上に"We♥︎EU"。きっと子供たちが書いたのでしょう。彼らの未来を感じた一瞬 *第二部は、こちら >>。 25th March 2017, Sat @ Central London 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022...

 「私たちみたいな物好きが、結構いるんだ。」氷点下まで下がった冬の晴れた朝、駐車場に到着した友人と私は、寒さに震えながら驚いていました。  年が明けて、ガーデニング仲間から連絡があり、久しぶり会うことになりました。冬は、天気の都合でガーデニング仕事は、やれることが限られ、暇な時間が多くなります。そんな時は、普段できない家のことをしようと張り切るのですが、二、三週間すると家に籠っていることが段々苦痛になってきます。そんなころ、同じようにイライラし始めてきた仲間からの連絡。みなで散々「冬の屋外作業は最悪!」とブツブツ文句を言っていたのに・・・、職業病ですかね。 [osmap markers="TQ6625187435!red;ラングドン自然保護区" zoom="0"] [osmap_marker color=red] イングランド東部 ラングドン自然保護区  どこか歩きに行きたいということで、彼女が昔働いていたラングドン自然保護区(Langdon Nature Reserve)へ行くことになりました。ラングドン自然保護区は、野生動物保護団体であるエセックス・ワイルドライフ・トラスト(Essex Wildlife Trust)が管理している地域です。ロンドン市内から東に約51キロ、バジルドン(Basildon)という第二次世界大戦後にできた大きなニュー・タウンがあり、その端すれすれの461エイカー(約56万坪)を保護区として、団体が所有しています。  車で到着すると、寒さ厳しい平日の朝にも関わらず、すでに車7、8台が駐車され、予想以上に訪れているひとたちがおり、びっくりして思わず友人と顔を見合わせてしまいました。普段は、冬の湿気(英国は、基本冬が湿気が高く、夏が乾燥してます)のためにぬかるんでいるであろう道も、石のようにカチカチに凍結し、吐く息が白い煙となって舞い上がるほどの冷え込みの中、友人の犬二匹を引き連れて、歩き始めました。斜めから降り注ぐ朝日が眩しく、大地からの冷気と共に、体を完全に眠気から覚させてくれます。  産業革命で損なわれた自然を取り戻そうと、19世紀後半から自然保護運動が英国で盛んになり、そこで生まれたチャリティ団体のひとつであるワイルドライフ・トラスト。銀行家であり動物学者であったチャールズ・ロスチャイルドが、自然破壊と大衆に広まったスポーツハンティングによる乱獲によって激減した野生動物を守るために、1912年に設立した団体が始まりとなります。その後1957年に各地で独自に設立されていた野生動物保護団体が結集し、全国規模での連盟を組む動きとなり、自然保護チャリティ団体トップのひとつにまで成長しました。現在は、ワイルドライフ・トラスト(正式名は、The Royal Society of Wildlife Trusts。チャールズ皇太子がパトロン。)として全国レベルの活動やキャンペーンを取りまとめ、その傘下に47の地方保護団体が存在し、各地域の保護活動を行なう、二段階組織となっています。47団体の財布は、それぞれ別になっており、活動内容も地域により微妙に異なりますが、野生動物を守るための環境作りという信念を共有し、ロゴやPRでのデザインを統一することによって、連帯感を強く打ち出しています。会員登録数は、現在80万人。 看板右上にあるのが、アナグマを使ったトラスト全国共通ロゴ  ここラングドン自然保護区も、住宅街脇にあるとはいえ、野生動物が住みやすく、それでいて訪れる人々が自然を楽しめるよう、保全とレクリエーションのバランスをうまく考えて管理しているのが、歩き始めてからすぐわかり、ワイルドライフ・トラストの信念が窺えます。友人のガイドのもと、丘の麓から、斜面を登りながら上へとゆっくり歩いて行く中、森に響き渡る野鳥の鳴き声に耳を傾け、半分凍った池にいる水鳥が羽を膨らませ肩を寄せ合う姿に同情しつつも笑い、野生動物の餌となる虫が好む草花を植えてある庭に興味惹かれと、なかなかバラエティに富んでおり、飽きることがありません。 ワンコたちも、散歩でリフレッシュ  このラングドン自然保護区を所有しているエセックス・ワイルドライフ・トラストは、エセックス州内の自然保護区87ヶ所、自然公園2ヶ所、ビジター・センター11ヶ所を所有・運営・管理していて、ワイルドライフ・トラスト47地方団体の中でも、規模が大きく、今一番勢いがある団体のひとつです。つい最近も新たなビジター・センターがオープンしました。人口が集中し、地価が上がったロンドンからエセックスに移り住む人々、特に小さなお子さんがいる家族が、子供たちと一緒に安全でお金をかけずに楽しめる場所として、エセックス・ワイルドライフ・トラストの保護区を訪れているようです。都会にいた人たちは、身近にある自然のありがたさを、飢えていた分よくわかっているので、熱心な支持者になってくれているように見受けられます。そんな子供たちを持つ家族や学校をさらに呼び込もうと、2016年に作者のビアトリクス・ポター誕生150周記念の一環で、ピーターラビット™・ウッドランド・トレイル(The Peter Rabbit™ Woodland Trail)と題し、 ピーターラビットに登場するキャラクターの木彫が、ラングドン敷地内のところどころに設置され、子供達に訪ねてもらうトレイルがイースター(復活祭)にお披露目となりました。湖水地方に行かずともピーターに会えるということで、人気となっています。またビジターセンターには、ピーターラビット関連商品がたくさん陳列されていました。きっと契約上でのお約束なのでしょう。  友人と世間話をしながら歩いていると、向こうから、ヘッドフォンで音楽を聴きながら、腕には何かを計測するものを装着し、ペットボトルを腰に巻きつけてランニングしている女性が、「おはようございます」と言って走り去っていく。そうかと思えば、車椅子に乗った男性が、二匹の犬を連れて散歩しながら、「今日は寒いけど、清々しい天気ですね」と笑顔で挨拶してくる。きゃっ、きゃっと声がするなと思ったら、自然学習の一環で訪れているのであろう20人ぐらいの小学生たちに、引率の先生が「こっちに行きますよ」と叫んでいる姿が見えました。  エセックス・ワイルドライフ・トラストの自然保護区は、どこもそうなのですが、利用者に対して、特に保護理念を押し付ける感もなく、歩道には必要最低限の情報しか提供せず(その分、入り口やビジターセンターではしっかり保護区の説明がされているが)、しかし、さりげない工夫が随所にほどこされており、訪れた人々も気楽に、自分たちのスタイルで利用できる。だから、野生動物観察、自然授業、ランニングなどのスポーツ、犬の散歩など、年齢も、タイプも全く違う人々が、それぞれの目的でこの場を楽しんでいる姿があり、歩いている私も野生動物観察だけでなく、人間観察もできてなかなか面白いです。 歩道が整備されているので、車椅子でも楽々  「私が勤めている時に、この保護区で、アゲハチョウ目撃情報が入ってきて、一時大騒ぎになったことがあったの」と蝶のために萌芽更新で伐採された木々を横目に、友人が話し始めました。「私は、そんなの英国で絶対にありえないと言っていたけれど、温暖化だの、気候変動で動植物が北上している話などがあって、もしかして・・・って、みな思い始めていたの。正式に公表しようと動き出した矢先、実は近所の住宅街でアゲハチョウをお土産にどこかから持って帰ってきて、外に放したひとがいたことがわかったのよ。アゲハチョウが、ここで生き残れるはずがないじゃない。お騒がせな話よ。信じられない」と彼女の笑い声が森中に響き渡りました。エセックス・ワイルドライフ・トラスト存続のためには、保護区での活動や会員に対する教育向上はもちろん大切ですが、それと同時に敷地周辺の地域住民や地方行政の理解を深めていくことがさらに大事なんだなと教えられました。きっとそんなこともあり、ビジターセンターで購入した案内書の説明文中に、”A large amount of the reserve is surrounded by houses. This brings many unnecessary pressures on the reserve.(この自然保護区は、ほぼ住宅に囲まれていて、不必要な弊害を受けています。)”と書かざるおえなかったのかなと彼らの苦労を感じます。 プラットランド最後に残った家  ラングドン自然保護区には、自然以外にも、ちょっとユニークな歴史があります。ここはもともと、農地でした。ところが1900年代に入り、硬い粘土質の土地を耕す労力と安い輸入食品による生産力の低下により、このあたりの農地が徐々に売りに出されました。そして1930年代ごろから、田舎の空気を吸いたいロンドン住民がプロットランド(Plotlands)と呼ばれる小さな土地を買い始め、簡易コテージやバンガロー、物置小屋などを建て始め、週末や休日をここで過ごすようになりました。全盛期には、200件ほどの建物や庭があったそうです。第二次世界大戦に突入すると、人々は難を逃れここに疎開し、本格的に住み始めるようになりました。しかし大戦後は、ニュータウン開発でほとんどの土地が取り込まれ、プロットランド最後のコテージも、1980年代に住み手がいなくなり、エセックス・ワイルドライフ・トラストに寄贈されました。保護区内には、プロットランドであった時代の旧跡も随所に残されており、活気に溢れていた時代を語り継いでいます。 霞んでいなければ、ロンドンが見える  丘に上がると、ところどころで展望が開け、なだらかな大地が続いていくのが見えました。友人が目の前を指差して「この先にロンドンの中心街が、霞んでいなければ、はっきりと見えるの。聞いた話によると、ここに疎開してきた人たちは、この丘の上で、ドイツ軍の空爆によって焼かれていくロンドンを、ただただ見つめていたそうよ。」野生動物のパラダイスから、地獄絵へと一転。戦争が急に身近に感じられ背筋がゾクッとしました。この大空襲のように悲惨な戦争をヨーロッパで二度と起こさないために、欧州連合(EU)ができた経緯があります。しかし、そのEUから英国は今離脱しようとしている。複雑な思いで、遠くに見えるであろうロンドンを眺めていました。人々の生活を激変させてしまうような歴史的出来事について、何かの記念碑が立っているわけでも、どこかに記録されているわけでもない、ひょっと訪ねた土地で、ごく普通の一般市民から話を聞く。これほどリアルで強烈なものはありませんでした。  今回は、気分転換のために、たまたま訪れたラングドン自然保護区。しかし思いもよらず、いろいろな話を通して、環境保護とは何ぞや?と改めて考えさせられる機会となりました。まずは人々の暮らしが守られて初めて、野生動物や自然について考えられるということは、確かだと思われます。 19th January 2017, Thurs @ Langdon Nature Reserve, Essex 参考資料: エセックス・ワイルドライフ・トラスト www.essexwt.org.uk 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022...

 二日目:前日の天気とは打って変わってピーカン照り。ようやくリゾートの夏が味わえそうな陽気に心は踊りますが、11マイル(17.5キロ)を歩いた翌日ということで、足がだるだるで痛い。ということで、体を伸ばす程度の軽い歩きになりました。昨日と同じスタート地点のトーキーから、今度は逆に東へ進みババコン(Babacombe)というビーチまでランぶら歩き。トーキーの街中から、別荘地が並ぶ高級住宅街がある丘へと登り始めました。途中にあるベンチに腰掛け、一服しながら広がる海辺の景色をボーと見つめる。また、ちょっと進む。その繰り返し。老夫婦の朝の散歩といった感じで、だらだらのんびり歩くのも、贅沢な時間の過ごし方で、それはそれでとてもいい。 [osmap centre="SX9260964273" zoom="6.50" gpx="https://rambleraruki.com/wp-content/uploads/2021/11/SWCP-_-Torquay-to-Babbacombe.gpx" markers="SX9146463468!red;出発点: トーキー|SX9240465733!green;終着点: ババコン"] [osmap_marker color=red] 出発点: トーキー [osmap_marker color=green] 終着点: ババコン ようやくリゾートの夏らしい風景に出会う。ミードフット・ビーチ(Meadfoot Beach)にて  昨日歩いたベリー・ヘッドが、湾の向こう側にはっきりと見えてきました。4億年前に誕生した大陸の一部が目の前に存在することの不思議さを改めて感じます。4億年という時空が、自分の想像をはるかに超えていて、私の小さな脳みそではまったく理解できません。ただ、それを証明する塊と自分が対面している、なんだか奇跡的なことに思えくるのです。旅は、こうゆう奇跡の連続で、だからワクワクするものなのでしょうか。 昨日歩いたベリー・ヘッドが海の向こうにお目見え  天気の影響もあり、トレイルは、犬を散歩するひとたちが、とても多くいました。愛犬と一緒に歩ける道がそこかしこにある。これもまた、英国のフットパスの魅力のひとつ。そして、犬が集まりやすい広場やトレイル出入り口には、犬のフン専門のゴミ箱が設置されている。犬にとっても快適な道作りがこの国にはあるようです。ビーチでは、泳いでいたり、カヤック、ボート、スキューバーダイビングなどのマリーンスポーツを楽しむ人々で賑わっていました。英国の夏は、日本より短いです。貴重な時間を存分に楽しむぞという気合いが人々からは感じられます。しかし、英国のシーサイドはどこも、北国独特の哀愁のようなものが漂っており、夏の終わりが近づく寂しさも重なり、なんとなくブルーな雰囲気があります。カリフォルニアやハワイのようなスカッとする爽快さも垢抜けた感じもなく、産業革命で花開いたヴィクトリア朝のリゾート開発の面影がどこかに残っていて、カナダ人と日本人のふたりには、ちょっと不思議に感じ取れます。  そうこうしているうちに、ホープス・ノーズ(Hope's Nose)と名付けられた岬の上に出てきました。ここも、昨日訪ねたベリー・ヘッド同様デヴォン紀の石灰岩がむき出しになっている場所で、その時代に生息していた証となる珊瑚、三葉虫、二枚貝などの化石が多く発見されている場所です。今回は時間がなく、海岸まで降りませんでしたが、岩の中に埋もれている化石を探すのも、きっと面白いと思います(ここはSSSI保護区*1のため、発掘は禁止されています)。 60マイル先のウェイマスまで、はっきりと見える。ここが、世界自然遺産に登録されているジュラシック・コースト(ドーセットと東デヴォンの海岸) 本来のコースが崩落し修理のためクローズ。親切に、仮のルートへ行くよう看板が教えてくれる  夏が燃え尽きるかのように強い日差し。カラッと乾いた風が、潮の匂いを運んできてくれる、とても心地いい日曜の午後。東へ60マイル(96.5キロ)、ドーセット州にあるウェイマスまで伸びていく海岸線がくっきりと、岬の上から見えます。この上をサウス・ウエスト・コースト・パスが一本で繋がっています。近い将来、私が住んでいる南東部のエセックス州を通り、北へとその道は続くことになります。なんとも遠大なプロジェクトです。この海岸線沿いに歩道を通すだけでも大仕事なのに、さらに大変なのがそれをキープしていくことのようで、浸食や嵐で道が崩れたり、丸ごと失うこともあるのが、コースト・パス。特にデヴォン州、コーンウォール州は、大西洋の荒波と風が直にぶつかるところであるため、リスクが大きいようです。今回歩いたルートの一部も、2014年2月の嵐による大波で崩落し、2016年9月現在でも、まだ通常ルートが開通できない状態が続いています。 オディコン・ビーチ。その向こうに、地滑りを起こしたペルム紀の新赤色砂石と、その奥に、デヴォン紀の石灰岩。まったく色が違う レトロなケーブルカー。とてもかわいい  4時間半ほど歩いて、ババコンのビーチに降りてきました。デヴォンの夏はこれを食べなきゃ終わらない。ということで、濃厚なデヴォンアイスクリームを買い、食べながら最後のお楽しみ、ババコン・クリフ・レールウェイ(Babbacombe Cliff Railway)という、崖を一気に上がるケーブルカー乗り場へと向かいました。このケールブカーは、1926年に建設されたもので、レトロな車体がとてもキュート。2005年に廃線の危機に見舞われましたが、地元民が立ち上がり、日本で今注目せれている株式有限責任会社という形で、運営を続けることができました。早速乗り込むと、ブギーボードの3人娘、大きな麦わら帽子に小綺麗な身なりのご婦人たち、水着姿の子供を連れているファミリー、ウォーキングブーツを履いたシニア夫婦など、多種多様な人々で箱は埋め尽くされました。ギシギシと少し不安になるような音を立ててゆっくり上がっていきます。ババコンのすぐ隣にあるブルー・フラッグに認証されているオディコン・ビーチでは、多くの人たちがくつろぐ姿が見えます。そして、そのビーチの向こう側には、ペルム紀の新赤色砂岩の崖があり、そのすぐ隣に、デヴォン紀の石灰岩が突き出しています。しかも、新赤色砂岩は、2013年に地滑りを起こし、海へと雪崩込んでいます。どうやら一軒の家が流れてしまったようで、立ち入り禁止になっています。家主はお気の毒ですが、大昔の大地が、未だに呼吸し生き続け日々変化していく事実に驚愕し、とても新鮮に感じられ心惹かれます。ぜひ、一度この地域で地層を見て回るフィールドツアーに参加してみたい。理解するには、少し勉強しないとですけど・・・。 ナショナル・トレイルのどんぐりマークが、あちらこちらに現れる。まるで宝探しのよう この辺りを歩いて一周回るコースの案内看板。なぜここが世界の地学において大切なエリアなのか、人々に伝えて理解してもらうことがとても大切  こうして、凸凹コンビの2016年の夏は、終わりました。歩いて回ると、どうしてこの地域がユネスコ・世界ジオバークに認定されているのかが、よくわかります。全く知識のなかった私にも、何気なく置かれた資料やポイントごとにある地層の説明看板によって、地学の世界をちょっとだけ覗き見ることができました。それは、巨大な博物館を歩き回るようで、壮大なロマンが地の奥深くにあります。そして、まったく地学に無関心だった私の興味を引いたということ、それが世界ジオバークに認定された目的なのだと思います。 11th September 2016, Sun @ South West Coast Path (Torquay - Babbacombe), Devon トレイル情報: サウス・ウエスト・コースト・パス オフィシャルサイト イングリッシュ・リベイラ・グローバル・ジオパーク オフィシャルサイト ユネスコ・世界ジオーパーク デヴォン州南部トーベイ オフィシャルサイト Walks Along the South West Coast Path: Exmouth to Dartmouth (Coastal Publishing, 2011) South West Coast Path: Falmouth to Exmouth: National Trail Guide (Aurum Press, 2015) 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022...

 今から、約4億1600万年前から約3億5920万年前。生命が地球上に誕生したのちに、魚を含め多くの生物が海洋で生息していました。その後大陸変動で山脈が現れ、雨が降るようになった大陸に河川や湖沼が形成され、シダ植物が繁栄し、種子植物が出現しました。淡水にも魚が進出し、動物が徐々に陸地へ移動していきます。この時代を、地質年代上では、デヴォン紀(Devonian period)と言うそうです。 [osmap markers="SX9260263635!red;トーキー" zoom="0"][osmap_marker color=red] トーキー  カナダ人のジルちゃんと日本人の私がいく凸凹コンビの旅。今回の舞台は、このデヴォン紀の名前の由来となっている、英国南西部のデヴォン州。海が見たいというジルちゃんのリクエストに答えて、海岸線沿いにある道、サウス・ウエスト・コースト・パス(South West Coast Path)を歩いてきました。この道は、ナショナル・トレイル(イングランド・ウェールス代表格のロングトレイル)の中で一番最長の630マイル(1014キロ)になり、コーンウォール、サマーセット、ドーセット州にも続いています。そして今、このコースをさらに延長させ、2020年までにイングランドすべての海岸線を歩けるイングランド・コースト・パス計画が着々と進められている最中です。今回はこの元祖・海岸沿いトレイル、サウス・ウエスト・コースト・パスの一部で、ユネスコ・世界ジオーパークに登録されているデヴォン州南部のトーベイを拠点に歩きました。 地球の歴史を知ることができる貴重なエリア。摩訶不思議な岩がそこかしこにある。歩いて見るのが一番最適で、地学の知識があれば、きっと面白いこと間違いなし。 海岸歩きの醍醐味は、船に乗り、海からも景気が見ることができ、二倍楽しめること。  デヴォン州は、海の美しさから人気のリゾート地であり、温暖で過ごしやすい気候のため、英国人が退職したら住みたいエリアのひとつとして有名です。英国文化のアフタヌーン・ティーで一番人気のクリーム・ティー(スコーン、ジャム、クロテッドクリーム、紅茶のセット)発祥の地であり、酪農が盛んなところでもあります。また、地質学では「魚の時代」と言われたデヴォン紀の名前の由来となる地層が発見され、多くの魚貝類の化石が出土されている大変重要な拠点でもあります。トーベイは、そんなデヴォン要素がぎゅっと凝縮された地で、「イングランドのリベイラ」とヴィクトリア時代から称される景勝地です。一日目は、このトーベイの中心地であるトーキーから漁師町のブリックサムへ船で渡り、西へ向かって歩きキングスウェアへ。二日目は、逆に東へ進みババコンにあるビーチまでランぶら歩き。晩夏の強い日差しが、これでもかと肌に刺さる中、優雅なリゾート地の雰囲気とは正反対、シャツの袖を肩まで捲り上げ、「あっちー!!」と叫びながら、汗だくだくの旅となりました。 [osmap centre="SX9020253960" zoom="5.00" gpx="https://rambleraruki.com/wp-content/uploads/2021/11/SWC-Path-Brixham-to-Kingswear-new.gpx" markers="SX9314256659!red;出発点: ブリックサム|SX8817251174!green;終着点: キングスウェア"] [osmap_marker color=red] 出発点: ブリックサム [osmap_marker color=green] 終着点: キングスウェア ブリックサムの港には、ヨットから漁船まで多くの船が停泊していた。  一日目:前日大雨が通過したトーベイは、まだどんより曇り空で、少し肌寒い朝を迎えました。船が出るのか心配しましたが、無事にトーキーを出航。波に侵食された新赤色砂岩と言われる真っ赤な岩壁が続く上に、リゾート地特有の鮮やかな白やクリーム色の建造物群が立ち並び、絶妙なコントラストを彩ります。この新赤色砂岩は、2億8000万年前ごろのペルム紀に形成されたもので、この辺りの大地は、今よりもっと南にあり、サハラ砂漠のような温暖で乾燥した土地であったことを証明しているのだとか。だからでしょうか、海からボーと眺めていると、この土地が醸し出す独特の異国のような雰囲気が、一瞬自分がどこにいるのかわからなくなる、なんとも不思議な感覚を覚えます。 ベリー・ヘッドにある要塞跡。壁の向こう側には昔、石灰岩の採掘場があり、今は海鳥たちの営巣地になっている。岬から、今来たトーベイ全体が見渡せる。 4億年前から、常に変化し続けるベリー・ヘッド  あっという間に、ブリックサムの港に到着。17世紀に名誉革命で即位したオランダ総督ウィリアム3世の銅像が、お出迎えしてくれました。オランダ軍を率いてこの港に、私たちと同じように上陸したそうです。観光客で賑わう町をあとに、ナポレオン戦争時代の要塞があるベリー・ヘッド(Berry Head)という岬へと向かいます。ここは、先ほど船から見えていた赤色砂岩とは全く違う、デボン紀の石灰岩でできていて、うっすらピンク色がかったグレーの岩壁がのぞいています。1969年まで約300年間、石灰岩の採掘場があり、地元の大きな産業のひとつとなっていました。その跡地は今、海鳥たちの営巣地になっており、約500種ぐらいの野草が生息する自然保護区に指定されてる場所です。海にはハンドウイルカやウバザメが遊びに来るようです。岬の上にでると、そこには息をのむ光景が広がっていました。天気はすっかり晴天となり、荒々しく削られ複雑なカーブを描く海岸線、ターコイズブルーの海がますます美しさとダイナミックさを強調させていきます。そして、陸にはアウトラインのように見える垣根に囲まれ、パッチワーク模様を描く田園が続いています。長い年月をかけて形成された大自然と人間の営みが見事に重なり合う、まさにこれぞイングリッシュ・カントリーサイドといいましょうか、とてもプリティー。 トレイルに何気なく置かれていた女神像。見守るように海を眺めていた。地元の人が制作したのか、愛を感じる 地元のポランティアが、積極的に道の整備をしているようで、とてもよく整備されていて、歩きやすい 放牧している家畜が逃げないよう、人(または犬)だけが通れるスタイル(stile)と呼ばれる踏み越し台。デボン紀の石灰岩で作られているであろう、立派なもの。雨に濡れて、少し赤みを帯びている  感動の余韻に浸りながらも、まだ先は長いぞと進むことにしました。気温が上がり、雨が染み込んだ大地からモヤーとした湿気が上昇してくるのを足で感じながら、切り立った岩壁の上を歩いて行きます。潮風に吹かれながら爽やかで、軽やかな歩きを想像していた私たち。ところがどっこい。今まで経験してきたぶらぶら、だらだら歩きとは明らかに違い、かなり本格的な山登りのような砂利道を、上がったり、下がったりの繰り返し。山道はまだ蛇行していますが、ここはまっすぐ上がり、まっすぐ降りる。かなりキツい!息が上がり、汗が一気に噴き出してきました。さらにデヴォンの海岸線歩きは、ハードな登り下りだけでなく、大きく湾曲している道を行くので、距離と時間も読みづらい。次のポイントは目の前に見えているのに、くねくねとカーブした道を進むので、前進しているようで、していないような・・・。おいおい、こんなにしんどいとは、聞いてねーぞ。ふたりの顔に笑顔が消え始めたころ、砂浜に降りてきました。間髪を容れず、リュックと靴を投げ出し、汗でまとわりつく靴下にイライラしながらも、ダッシュで海に入り、蒸れた足を大西洋の冷たい水に浸しました。今まで縮こまっていた細胞ひとつひとつが解放されるかのように、疲れた足が徐々に癒されていきます。なんともいえない気持ち良さ。水着を持参していたらきっと泳いでいたはず。 まるでプライベートビーチのような、波の音だけが聞こえる落ち着いた空間。ぜひとも次回は泳いでみたい 後半になると、疲れからペースは落ちてきたが、ちょっとしたウォーキング・ハイになり、足を止められない おなじみナショナル・トレイルのどんぐりマーク。これを見ると安心する 途中野生ランを発見。日本のハクサンチドリに似ている  リフレッシュしたので、靴を履き、再度歩き出す。こんなに長く海辺を歩くのは、人生で初めて。右側に陸、左側に海が映し出される景色の真ん中を裂くかのように、歩き続ける。右に放牧された牛が急斜面を物ともせず、4本の足でしっかり踏ん張りながら、ひたすら草をむしり食べている時、左ではポイントを目指し、スキューバーダイバーたちを乗せた船が、波を切りながら走っていく。こんな二つの全く違う世界を見渡せることができるのは、海岸沿いトレイルの面白いところではないでしょうか。グループ、カップルで歩いているひとやトレイルランニングするひとなど、お互い邪魔しないよい距離間で進む様子が見られました。十代の女の子二人で何気なく話をしながら、ぶらぶらしているのにも遭遇。きっと近くに住んでいるのでしょう。逆に、私たちのような、わざわざ遠くから歩きに来ているひとたちや、ホリデーできたひとたちが、ちょっと歩いて海岸線を散策している様子もうかがえました。 西日に照らされた岩壁もまた趣深い。歩いてきた甲斐がある  デヴォンの主要産業のひとつは、観光業です。年間7億6500万ポンド(約1165億円)*1の収益をもたらします。そのために、PRや情報発信に力を入れるだけでなく、自治体、博物館などの教育施設、宿泊施設、船を含む公共交通機関などの連携も強化されており、観光客に安心して楽しめる工夫と多くのオプションを提供しています。特にウォーカーやサイクリスト誘致を強化し、1、2時間のショートコースから、丸一日かけて巡るような長いものまで、実に多くのルートを観光案内所でも、ウェブでも提供していて、力の入れようが伝わってきます。ただのリゾートホリデー客と違い、ウォーカーやサイクリストたちは、よいリピーターになってくれる可能性が高いからなのかと推測します。その努力の甲斐あってか、ここ最近は、デヴォン州を含む南西部への国内ビジター数は、ロンドンを訪れる数を上回っています*2。旅行目的が以前のような観光名所回りから自然観察へと変化してきていることも*3、数を増やしている要因と考えます。  残り三分の一まで来ると、ベリー・ヘッドから歩いて来た海岸線は完全に隠れ、終着点のキングスウエアがあるダート川へと続く沿岸を進んで行きます。西日に照らされ暑さは一向に引かず、残りの水も少なくなり始め、疲れから足取りもスピードが落ち始めてきました。それでも、この先にあるであろう別世界に期待しながら、ふたりとも足を止めることはありませんでした。何も話さず黙々と歩く。暑さと疲れで脳が働かず、空っぽで動き続けると、ちょっとした擬似瞑想状態になり、ウォーキング・ハイになってきます。それもまた心地よいものです。けしてエベレストの頂上を目指しているわけでも、アマゾンのジャンクルを探検しているわけでもない、スケールはとてもとても小さなものではありますが、それでも自分と自然が一体化していき、どこかで時空を超えながら地球を感じ始めています。 ブラウンストーンの砲台。第二次世界大戦時の1940年に、ドイツ軍が海から上陸するのを阻止するために作られた軍事防衛施設 大砲をこのレールで運搬していたそう。今はその上を歩くトレイルコースの一部となっている  途中、ナショナル・トラストが管理しているエリアに入ると、ダートムーア・ポニーが放牧されていました。とても小柄で、雨風に強いスタミナがあるこの小型の馬は、このあたりで長年作業馬として活躍してきましたが、時代の流れとともに数を減らし、今はデヴォンにある国立公園のひとつ、ダートムーアに、ほぼ野生の状態で放牧されながら保護されています。その親しみやすい姿に、思わず笑顔がこぼれます。さらに進むと、ブラウンストーン・バッテリー(Brownstone Battery)と言われる砲台跡が現れました。第二次世界大戦時に、ドイツ軍が海から上陸するのを阻止するために作られた防衛施設ですが、実戦で使用することはありませんでした。とはいえ、ガランとした砲台の建物や錆びついたレールを見ると、とても生々しい。目の前に広がる穏やかな海の雰囲気とは交わることがない、異様な光景です。しかし、これもこの地域の歴史であることには違いない。今は、ナショナル・トラストによって大切に保管されている国の遺産です。  やっとの思いでキングスウエアにたどり着きました。地元の人たちがサッカーの試合中継を楽しんでいるパブへ直行。地元エール・ビール抱えて外へ。道の向かいにある低い壁にパイントグラスを置き、靴を脱いで裸足になり、体を壁の上から投げ出し、川の向こう岸に見えるダートマスの街並みを眺め、ぐびぐびと飲むビールは、二人の体を達成感で満たしてくれます。 ダート川の河口付近。海の交通と防衛の要所として長い間占めてきた  バスに乗り宿へ戻る道中、若い男性ひとりが、我々に話しかけてきました。明らかに地元の人間でもなく英国人でもない女性ふたりが、ここで何をしているか不思議に思ったのでしょう。ブリックサムから海沿いを歩いてきたことを話すと、男性もよくこの辺りを歩くようで、話が盛り上がりました。「僕は、以前陸軍に所属していて、世界各国を駐在してきたあと、ここに戻ってきたとき、いかに自分が美しいところにいたのかを実感したんだ。でも、地元の人たちは、文句ばかりこぼし、どれだけ素晴らしい環境にいるのか気がついていない人たちがほとんど。君たちが歩いて来た道の存在すらも知らないひとも多い。実にもったいないと思うよ。」灯台下暗し。案外地元のひとたちにとっては、そんなものなのかもしれません。時間やお金をかけなくとも、意外と身近に心奪われるような景観はあるものです。ただ、歩くことを忘れかけている私たちは、そのことに気がついていないのかもしれない。そんなふうに思いました。  今回の旅は、目の前の風景を楽しむだけでなく、その奥深くにある時間の経過をも理解する、よい機会となりました。人の歴史だけでなく、なぜここにこのような地形ができたのか、なぜその動植物が生息するようになったのか、自分の視野を少し広げてくれたように感じます。パノラマ風景が目に入った一瞬に、太古から現代まで駆け巡り、時の流れを感じる。自分がまるでタイムトラベラーになったようで、ちょっと興奮します。そして、自分の足で回ることで、知らなかった英国の姿を発見した瞬間、ジワーと何か暖かいものが体に広がり感動している自分がいます。いつもは、へんてこな国だなと思う英国に対して、愛情と親しみが少し湧いてくるのです。これが癖になってやめられない!! *二日目のリポートは、こちら >> 10th September 2016, Sat @ South West Coast Path (Torquay - Kingswear), Devon 参照: *1 Regional Factsheets 2015, Visit England *2 England Domestic Overnight Trips Summary - Holidays - 2016, Visit England *3 The Value of Activities for Tourism, Visit England トレイル情報: サウス・ウエスト・コースト・パス オフィシャルサイト イングリッシュ・リベイラ・グローバル・ジオパーク オフィシャルサイト ユネスコ・世界ジオーパーク デヴォン州南部トーベイ オフィシャルサイト Walks Along the...

The Bard of Avon エイヴォンの詩人。  これは、英国を象徴する超有名人のニックネーム、その人物を表す隠語です。場合によっては、The Bardだけで呼ばれることもあります。このザ・詩人さん、詩はもちろん、劇作家として演劇・文学に多大なる影響を与え、彼のお芝居は世界中で上演されており、今もなお第一線で活躍していると言っても過言ではありません。また、英語という言語の可能性を広げた功績は大きく、英語圏の方にとっては、言葉の神のような存在です。そのため、彼の故郷であるストラトフォード・アポン・エイヴォン(Stratford upon Avon)には、世界中から巡礼に訪れる方々が、年間50万人以上に登るそうです。 [osmap markers="SP1963755124!red;ストラトフォード・アポン・エイヴォン" zoom="0"][osmap_marker color=red] ストラトフォード・アポン・エイヴォン  その人物、エイヴォンの詩人こと、ウィリアム・シェイクスピア。今年2016年は、彼の没後400年記念の年で、各地で上演やイベントが一年通して行われています。 お恥ずかしい話ですが、私は大学時代にシェイクスピアの授業を受け、とにかく彼の古典英語、特に詩がわからず、泣く泣く勉強した思い出があり、未だにシェイクスピア=小難しいイメージから抜け出せずにいます。ただ、英国に暮らしていると、新聞や雑誌の記事、テレビ報道、身近なところでは、結婚式スピーチなどで彼の言葉が引用されているのをよく見聞し、そのたびに彼の存在の大きさを感じさせられています。  そんなシェイクスピアのシェの字もわかっていない私が、観光客魂丸出しで、冷やかし半分、シェイクスピア誕生記念パレード&式典が行われた4月最終週末に、ストラトフォード・アポン・エイヴォンを訪れました。ただ、単なる観光ではつまらんと、私なりの巡礼方法で、お参りさせていただきました。それは、Shakespeare's Walking Weekという、地元ランブラーズ・グループによるイベントに参加し、歩きで彼の故郷を知るということです。ストラトフォード・アポン・エイヴォンは、英国中部地方都市・バーミングハムから、少し南下したところにある、エイヴォン川沿いの小さな町です。静かな田舎に、突如大勢の人たちで溢れかえるスポット出現。町中を歩いていても、英語だけでなく、世界中の言葉が飛び交っていました。記念行事があったためか、とにかくシェイクスピアに対する熱がすごい。彼の作品を理解できない私でも、人々の彼に対する深い尊敬の念は、肌でひしひしと感じられました。 Shakespeare's Walking Weekへ参加  そんな熱気に包まれた町の広場の一角に、ランブラーズのロゴがプリントされた反射チョッキを着た人たちが現れました。ストラトフォード・アポン・エイヴォンのランブラーズ・グループ(the Stratford-upon-Avon Group of the Ramblers)のみなさんです。ランブラーズ(Rambers)とは、英国におけるレクリエーション・ウォーキングとその環境保全活動をしているチャリテイー団体です。全国各地にウォーキング・グループがあり、自由に参加することができます。ストラトフォードのグループは、地元のウォーキング・ガイドブックを制作して観光案内所で販売したり、整備ボランティアを結成してフットパスをメンテしたりと、かなり精力的に活動しているグループで、この記念すべき年に、Shakespeare's Walking Weekを企画したそうです。「普通なら、Walking Festivalと打ち出すところだけれど、そんな大げさなものではないから、あえてWeekにしたの。みんなで、一年前から準備してきたんだけれど、それはまるで誰かの結婚式を準備するみたいだった。ささやかだけれど、私たちなりの方法で、この記念すべき年を祝いたかったのよ。」イベント・リーダーのスーザンさんが話してくれました。実際に参加してわかったのですが、役所、観光局、シェイクスピア関連団体が関与しているわけでなく、純粋に彼らだけで計画した、手作り感満載のウォーキング・イベント。一週間シェイクスピアゆかりの地12コースを歩く、こじんまりとしたものです。コースは、7、8キロ程度の短いものが中心で、中には車椅子で参加できるものも用意されており、気軽に参加してもらいたい彼らの思いが垣間見えます。現グループ所属メンバーは、300人ほどいるそうですが、実際に歩ける人は半分ほど。つまり高齢者が多いということです。そのため、このような機会が新しいメンバーを増やすきっかけになればと考えているようでした。 シェイクスピアが参加?!  30人前後の参加者が集まり、道に溢れている大勢の人たちをかき分けるように、ウォーキングはスタートしました。地元や近郊からの参加もあれば、アメリカ、アジア、中東からの観光客も一緒に混じり、中高年から若いカップル、学生仲間、ひとり旅の女性など、さまざまな人がいる光景は、ここストラトフォードならではだと思います。町を一歩出ると、今までの喧騒がうそのように、静かで穏やかな田園風景が広がっていて、まるで時空を越えたかのよう。緑の麦畑と黄色い菜の花畑のコントラストが永遠に続く大地の真ん中を、エイヴォン川がゆっくり蛇行し、ストラトフォードの町を通過していきます。シェイクスピアが眠る教会の尖塔が、天を指差すような鋭さで輝きを放っていて、その奥には、日本でも人気があるコッツウォルズ地方が見えていました。ストラトフォードの町中には、チューダー様式の建物が多く残されおり、シェイクスピアが生きた時代を体感でき、訪れた人たちを楽しませています。ただ私には、それらの建物より、むしろ丘の上から町とその周辺の景色を、地元の人たちと一望に収めたときのほうが、シェイクスピアの世界をリアルに感じられました。  散策しながらその土地を楽しむ。地元の人たちと歩を共にし、同じ時間を共有することで、その場だけが持つ独特のエネルギーと空気感をじっくり味わう。そこで生活している人々の話を通して、その地が刻んできた歴史や生活を知る。そうすることで、真の姿が見えてくる。歩く旅だけが持つ醍醐味のように思います。きっと英国人たちは、とうの昔にそのことに気がついていたのでしょうね。同じような歩くイベントが、UK各地で盛んに行われているのも、うなずけます。ストラトフォードという町は、シェイクスピアというひとりの天才によって成り立っているように思っていましたが、そこにある長い年月と共にできてきた自然と人々の暮らしが、彼の才能を開花させ、多くのすばらしい作品を残してくれたんだと、歩いていて初めて実感しました。そう思うと苦手意識の強かったシェイクスピアも、ぐっと身近に感じられ、自然に情が湧いてきます。「一度彼の演劇、観に行ってみようかな」とふと思う自分がそこにいました。 シェイクスピアも、この道を歩いたのかもしれない 23rd April 2016, Sat @ Anne Hathaway's Cottage & Hansell Farm, Stratford upon Avon 参考資料: ストラトフォード・アポン・エイヴォン ランブラーズ www.stratfordramblers.com 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022...

 英国の長い冬が明け、暖かさを感じ始める頃、牛舎に閉じ込められていた牛たちが野に放されます。牧草地を猛ダッシュで駆け回りながら、キャッキャッとはしゃぐように、飛んで跳ねる姿は、それはもう、なんとも愛くるしい。でもこの時期、はしゃいでいるのは、牛だけではなく、人間も同じ。 青い花の海が広がる、春の訪れ  英国は、日本よりはるか北にあるのにもかかわらず、冬はそれほど厳しくはありません。ただ日照時間が短く、どんより雲と長雨でぬかるんだ大地に挟まれて、何とも憂鬱な気分になります。 ですので、イースターあたりになると、家に引きこもっていた人々が、一気に外へと飛び出していきます。太陽が少しでも照り出しそうものなら、薄着とサンダルで出歩き、公園の芝生で日光浴をし、パブの外でビールを飲む。中には、ビキニ姿になって日焼けしようとする人までいます。冷静沈着で理性ある態度が良しとされる英国人ですが、心の中では浮き足立って、ソワソワ、ワクワクし、今にも弾けそうになっているのが透けてみえるのが、これまたなんとも愛くるしいのです。  そんな彼ら同様私も家を飛び出して、イングリッシュ・ブルーベルを見に、友人と近所の森へ出かけて行きました。4月末ごろから5月始めにかけて英国南部では、ヒヤシンス科であるブルーベルが開花し、澄んだ青紫色のカーペットが森の中に広がります。まさにその名の通り、ベル状の青い花が頭を垂れるように咲き、日本の春が桜なら、ブルーベルは英国において春の季語になる象徴的な花です。 [osmap markers="TL9454828076!red;イングランド東部 ウエスト・バーゴルト" zoom="0"] [osmap_marker color=red] イングランド東部 ウエスト・バーゴルト  エセックス州ウエスト・バーゴルト(West Bergholt)にあるブルーベルの森で有名なヒルハウス・ウッド(Hillhouse Wood)に行ってみると、静かな小さな村に突如多くの人たちが次々と現れ、森周辺だけ車が道脇いっぱいに駐車されていました。以前全国紙で取り上げられたこともあり、知る人ぞ知る人気の森のようです。まだ新緑が生えてきていない木々の間からこぼれる淡い太陽の光を受けて、キラキラ輝く花たちが足元から広がっている森は、まるで水辺に立っているかのようです。その中を、なんとなしにブラブラとみんなが歩いています。犬を連れて歩いている老夫婦、昼食前の腹ごしらえも兼ねて森を散策している親子3代。きっとこのあとは、パブでサンデーランチを楽しむのでしょう。イヤフォンをふたりでシェアし、音楽を聞きながら歩いている若者カップル。おしゃべりが止まらない女友達。乳母車を押しながら静かに花を楽しむ夫婦。サイクリングの途中で寄ったであろう家族。森を探検する父と息子。週末のひと時、それぞれが自分たちのスタイルで歩くことを楽しんでいる、英国でしか見ることができない光景に思います。 親子でどこへ行くのかな?  日本ではお花見に代表されるように、花を愛でながら宴会やお茶をするのが人気ですが、英国では、花や野生動物、森全体で感じる雰囲気、そしてそこから見渡せる美しい田園風景を、あてもなく歩いて楽しみながら愛でるスタイルが主流です。このような歩きをイギリスではレクリエーション・ウォーク(Recreational Walk)と言います。まさに、Re(再度)creational(創造するような)、身も心も心機一転、リフレッシュするために公園、森、田園、丘、川、海沿いなどをただ歩く。お金もかからず、健康にも良いという点においても、質素な英国人好みなのかもしれません。ただ彼らがすごいのは、そのブラブラ歩きをしたいがために、全国網の目のようにある歩道・フットパス(Footpath)をきちんと整備し、管理していることです。またその道を歩くことを保証するために通行権(Right of Way)を法律で定めています。しかもこの法律を通すまで、ああでもない、こうでもないと話し合いが行われ続けてざっと200年。ここまでの徹底ぶりとしつこさには、脱帽してしまいます。そこまでしても歩きたがる英国人の心理とは・・・?どうやら一筋縄ではいかない深いものがそこには潜んでいるように思います。 いくつになってもラブラブ♡  このヒルハウス・ウッドにも、もちろんフットパスが通っていますので、道伝いに歩くことができます。またここはAccess Landにも指定されている森のため、フットパスから外れて、自由に歩き回れる散策権もあるエリアで、好き勝手に歩くことも可能です。とはいえ、最低限のマナーはみなさん守っていました。今後もずっとブルーベルを楽しみたいですもんね。そしてそれらの道を含めたこの森を、森林保護チャリティー団体・森林トラスト(Woodland Trust)と村のボランディアグルーブ・Friends of Hillhouse Wood が管理し、メンテしています。こういった地道な努力に支えられて、英国の歩く文化は発展し、今日も多くの人が訪れることのできる森として存在することを可能にしているんだなと感心しながら、笑顔で歩く人々の姿を私は愛でていました。 17th April 2016, Sun @ Hillhouse wood, West Bergholt, Essex 参考資料: 森林トラスト www.woodlandtrust.org.uk 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022...

 先日、ヨークで行われたチャリティー団体・ザ・ランブラーズ(The Ramblers)のイベント、Ramblers Members Day (ランブラーズ・メンバーの会)に参加してきました。その時の様子を簡単にまとめてみたいと思います。 イベントブログラム Ramblers Members Day 開催地: ヨーク大学講堂内 日時: 2016年4月2日(土) 参加者人数:約150人ほど イベント内容: 9:00 受付開始 9:30 ザ・ランブラーズ会長グラハム氏と理事長サウスワース氏挨拶 10:00ー12:00 ワークショップ 2つのワークショップに参加 11:00ー13:30 昼食 12:00ー13:50 各ブースでの展示会 14:00ー15:45 公開インタビューノース・ヨーク・モアーズ国立公園運営委員会会長ウィルソン氏エキスパートに質問コーナーノース・ヨーク・モアーズ国立公園運営委員会会長ウィルソン氏英国赤十字ビーチ氏登山家ヒンケス氏Memory Map(デジダル地図)バドミントン氏Cotswold Outdoor(アウトドア洋品店)カーンズ氏ボランティア大賞授賞式 16:00 ウォーキング(1時間、1時間半のコース4つの中から選択) 参加してみて ランブラーズ理事長サウスワース氏  今回は、実際にフットパスを歩いている会員向けイベントで、ランブラーズの理念や活動を理解してもらい、さらに快適な歩きを楽しめるよう、ウォーキング技術のアドバイスやボランディア活動への勧誘などを目的としたものでした。全員参加の講堂での講演や報告会以外にも、理事会メンバー、会員、そしてアウトドア業界人が、直接情報・意見交換できる場として、ワークショップやブース展示会などが設けられていました。  まず、驚いたのは、予定通りにすべてうまく進行していったことです。普通このようなイベントは、時間が押してしまいがちです。ただ、そこは設立してから80年以上の歴史ある全国区のチャリティー団体だけあり、イベント運営やボランティアの使い方に慣れているようで、すべてスムーズでした。今回の会は、ランブラーズとしては初めての試みで、参加者も主催者側にも静かなる熱気を感じました。会員は中高年がメインなので、ヒートアップすることはありませんでしたが、それでもワークショップや質問コーナーでは、それぞれの意見やアイデアが積極的に述べられていました。ちなみに、参加者の多くは中流階級の白人中高年がほとんどで、白人以外では、私含め3人ほどでした。ヨークは、ほぼイギリスの中央にありますので、地元周辺の方々が参加者の過半数を占め、遠くてもそこから2、3時間内で来れる方々が来場していたようです。参加費は無料。受付後には、大会のプログラムと共に、協会のグッズや防水スプレーなどのサンプルが入ったバックをいただきました。会場にはコーヒー、紅茶、水と茶菓子が常備されて、昼食は会場の学食できちんとした料理、そしてケーキまで用意されていました。下世話な話ですが、協会の財政力は、それなりにあるよう見受けられました。 [embed]https://youtu.be/5sSTRRbzECo[/embed] © Ramblers GB 会場で上映されたランブラーズ最新プロモ映像  実際に大会がどのような感じであったかお伝えするために、参加したワークショップ2つ、訪れたブース、公開インタビューについて、具体的に説明していきたいと思います。午前中にあったワークショップは、1時間が2本立てで行われ、5テーマの中から2つを選択できました。その5テーマは以下の通りです。 通行権とランブラーズの関わり ランブラーズのキャンペーン活動、昔と今 読図入門 ランブラーズのグループウォーキングとは ウォーキングでの応急法 通行権と当団体の関わりについて、説明  私はランブラーズのことをよく知りたいと思い「通行権とランブラーズの関わり」と「ランブラーズのキャンペーン活動、昔と今」を受講しました。まず通行権の会では、プロジェクターを使って通行権の歴史と規定内容を紹介。またランブラーズがどのようにその過程で携わってきたのか、説明を受けました。ざっと内容を書きますと、 通行権を獲得するまでの歴史を簡単に解説 通行権獲得後のその他の法整備(国立公園制定、散策権、海洋・海岸アクセス法など) ランブラーズの関わり方 訴訟、全国区規模のキャンペーン展開 各地での活動内容(フットパスの不具合を報告・フットパス実地調査・予算確保・歩く環境により良い政策のためのキャンペーン活動・フットパス整備・フットパス設置と保全・【フットパスの存続を脅かす可能性のある】土地開発問題への関与・Definitive MapとOS Map上にフットパス表示を求める活動) 通行権とは何か? 法内容を説明 フットパスを含む通行権のある道の説明と標識 柵や踏み越し台の設置 農場でのフットパス保全(農作作業・家畜による障害にどう対応するか) 自転車、乗馬利用者との共有 不法侵入の定義とは 散策法とは何か 海洋・海岸アクセス法とは何か(2020年までにイングランドの海岸線をすべて歩くことができるようになる。ウェールズは、すべに2012年に開通済み【世界初】) Pathwatch活動について(フットパスがどのような状態にあるのか、オンライン上で文字や写真で近況報告し合う、会員参加型の調査・保全活動。イングランド全土45%まで登録済み) 1時間ですべてを網羅するのは大変そうでしたが、政策担当者が一生懸命説明していました。ランブラーズの存在意義が少し理解できたように思います。  次は、ワークショップ「ランブラーズのキャンペーン活動、昔と今」に参加しました。通行権は19世紀末ごろから主に労働者階級の人たちが、長年にわたり請求してきた過程があります。各地で発生した活動は徐々に規模を大きくしながら団結し、その中からランブラーズが誕生しました。その経緯もあり、同団体はフットパスなどの歩く環境に関係する政治・政策活動に積極的に関与しており、ほかの主なチャリティー団体同様、大規模なキャンペーン活動を盛んに行っています。このワークショップでは、今までを振り返り、そして今行われているキャンペーンをどのように進めるべきか、隣の人と話し合いをしてから、各グループの意見を発表し、全体で意見交換を行いました。話し合いの議題は2点。 ①今までの協会の活動の中で、一番社会に貢献したことは?  ②将来、協会はどのような問題に直面するだろうか?  私は、以前エセックスに住んでいて、退職後はヨーク郊外に住んでいる男性と話し合いました。ロンドン近郊のエセックスと北部の田舎であるヨーク地方では、多少環境の違いがあり、興味深かったです。例えばエセックスでは、ロンドン地価高騰でエセックスに移り住む人々が増えた関係で、新興住宅地が多く建設され、フットパスや自然保護区の保全への影響が懸念されています。一方ヨーク地方は、英国の主な工業地帯のひとつですが農場も多く、農作業後にフットパスが穀物で通れなかったり、きちんと整備されないことが多発しているそうです。地方自治体に通報しても、農協の政治力と財政危機で対応してもらえていないとのこと。ほかのグルーブからの意見を聞いていても、ここ7~8年の財政削減による影響は各地に現れてきているようで、大きな悩みのひとつのようです。ただ、自治体や土地所有者に文句や圧力をかけてもしかたがない。みな状況は同じで、誰かを責めても始まらない。ほかに解決策はないか模索する必要があるとの意見もありました。  例えば、歩くツーリズムと地元観光業の発展、市民の健康問題の解決策として、ウォーキングとフットパスの重要性を感情的にではなく、しっかりとデータで示し、どれだけメリットがあるかを訴えべきだと主張していました。また、英国乗馬協会などのチャリティーで、ランブラーズ協会よりももっと積極的に道のデータ収集や整備をしている団体から学ぶべきだという声も。道の整備は、できるならボランティアの力を借り、自治体に頼らなくてもできるようにしていくべきだ。また、州や市レベルではなく、教会区(一番小さい地方行政区。日本でいう町内会規模)に話をした方がいいのではという意見も出てきました。ただ、その一方で近年の英国では、安全衛生法が厳しくなり、保険の問題や使う作業用具の調達などの負担、土地所有者との揉め事を回避したいこともあり、ボランティアが道整備をするのを、地域によっては自治体が渋る傾向があるのも事実だそうです。お互いの気持ちと利益がうまく重なり、ウィン・ウィンの関係ができないだろうかと思いました。あともうひとつ興味深かったのは、協会の会員があまりにも白人の高齢者ばかりで、今後協会が存続していけるのだろうかと、問題提起された方がいらっしゃいました。マイノリティや若者などにも、もっとアピールする必要があるようです。余談ですが、実際に来場していた会員の中で、スタッフ以外では、40代の私が一番若いのでは(しかも、東洋人)と思うほどでした。 「ランブラーズ協会のキャンペーン活動、昔と今」ワークショップの様子  昼食時と同時に開催されたブースでの展示会は、ランブラース協会各部門、季刊誌編集部、そして各地域担当者や、アウトドア・ギア専門販売店、赤十字、ツアー会社、GPSやデジタル地図のサービス提供会社など、全部で13ブースの小規模なものでした。私は、主に協会がNHS(英国国民健康保険)の指導のもと行っているWalking for Healthの担当者と協会の季刊誌”Walk”編集部の人たちと話をしました。  Walking for Healthの活動は、健康に問題がある人、運動不足な人、リハビリが必要な人、身体的に制限がある人、一人暮らしの老人、新生児を持つ母親など、何かしらのサポートが必要な方々に、歩くことで健康になってもらおうと、定期的に開催されるグループ・ウォーキングのことです。地方自治体と各地域の健康保険機関の指導のもと、癌患者支援団体マクミラン(英国最大規模のチャリティー団体のひとつ)からの資金で、ランブラーズがウォーキング実施をサポートしています。  ここ最近、歩くことが心身ともに健康になる一番の方法であるというデータも多々発表され、医療費削減、社会保障問題の解決にも繋がっていくのではないかと、大変注目されている活動です。例えば、健康歩き事業に1ポンド投資すると、国民保険は7.18ポンド削減できるというデータを、Natural England(イングラントとウェールズ内の自然・景観保全活動を仕切っている政府外公共機関)が発表しています。とはいえ、フットパスが全国にある英国においても、何かきっかけがないとなかなか地元の人は歩かないようで、いかにそのような方々を外へ連れ出し、仲間と一緒に歩いてもらうか。健康状態は人それぞれゆえ、いかに上手くその人に合ったウォーキング・ブログラムを提供できるか。そして、歩き始めた人たちに、今後いかに継続してもらうか。グレードアップした人たちが、次に行ける場をどのように提供していくのか。まだ課題は多くあるようですが、少なくとも参加した人たちからは、良い反応が出てきているようです。  特に精神的な面での影響が大きいようで、歩く行為そのものだけでなく、人と会い話ができることが心のケアに大きく貢献しているようですし、単純に楽しめるということが、継続に繋がっているようです。老人、母親、不登校児、身体障害者など孤独になりがちな人たちは、同じ境遇の方々に会うことや逆にまったく違う環境・世代の方々と会うことで良い刺激を受けている。そのあたり十分配慮しつつも、自主性や自尊心を大切にし、強制的にならぬよう、うまいさじ加減が必要のようです。今後は、医療現場でも”prescriptions from illness to wellbeing” ー 従来の治療のための医薬品処方箋から健康で幸福になるための運動の処方箋(緑の処方箋)を、直接患者に渡してもらう。医療とウォーキング活動の連携の向上により、さらに参加しやすいシステムを構築し、参加者(患者)に理解を深めてもらおうと、今年一部の地域で実験的に実施されているようです。  また国は、都市のさらなる緑地化推進や国立公園を地元地域住民の健康改善に役立てる構想を打ち出しており、緑の処方箋を、ただ歩くことからバードウォッチングなどのアクティビティやこれらの地域の整備ボランディアとして参加を推進するなど、もっと幅を広げていこうという動きが、ランブラーズ協会や自然保護団体のサポートのもと、活発化してきているようです。それによって地域の医療負担が減り、財政難でカットされた環境保全活動費への新たな解決策となるのではと期待されています。 [embed]https://youtu.be/_H73kKHc4V8[/embed] キャンペーン映像  次は、協会の季刊誌”Walk”編集部担当者と話をしてきました。この季刊誌は、作りは一般誌レベルのクオリティーで、会員には毎回無料で送られてくる(もしくは、デジダル版にアクセスできる)ものですが、普通に本屋でも購入することができます。ここでもこの協会の「力」がうかがえるように思います。ブースでは、クイズとアンケートが行われており、アンケートには「今後どこへ行きたいか」「今後取り上げて欲しいギアはあるか」といった項目があり、私はそれぞれ「日本」と「ミズノのブレスサーモ」と書いてきました。大きなボードにも同じ質問「今後どこへ行きたいか」が表示され、自由に書き込めるようになっていました。みなの答えは、やはり英国国内とヨーロッパが多く、その他の地域では、ネパール、ニュージーランド、中国、アメリカ、カナダと書かれていました。私も負けじと、日本と書いておきました。いつか海外の方々に、日本へ歩きに行きたいと思わせるようにできるといいなと思います。  編集部の方に直接話を聞いた際にも、日本のトレイルをアピールしてきました。”Walk”では毎号、海外トレイルやハイキング特集”Global walk”というコーナーが掲載されています。どうやら海外のハイキング専門旅行会社の協力で、毎回特集が組まれているようです。欧米、南米、アフリカといった比較的英国から地理的に近い地域を今までは取り上げてきましたが、新たなエリアを開拓したい様子でした。熊野古道などの歴史ある巡礼の道や英国でも大変ショッキングなニュースであった東日本大震災地域で整備しているみちのく潮風トレイルの話から入り、日本ロングトレイル協会加入トレイルについても、できるだけアピールしてまいりました。ついでに韓国の済州島オルレまで話をしました。 ウィルソン氏が、事前に受付けた質問に答える形で、対談が進んでいった  午後に開催された公開インタビューには、ゲストのノース・ヨーク・モアーズ国立公園運営委員会会長ウィルソン氏が登場しました。ウィルソン氏は、第3セクターでキャリアをスタートさせ、国立公園運営以外にも、Natural Englandの評議員、多くの自然保護や持続可能な開発に携わってきた経歴をお持ちの方でした。実家が農家ということもあり、ヨーク地方の農業団体とも強い信頼関係があるようです。ノース・ヨーク・モアーズ国立公園(North York Moors National Park)は、正直申し上げてピーク・ティストリクトや湖水地方などのように、誰でも知っているメジャーな国立公園ではありません。ヨーク地方には、もうひとつヨークシャー・デイルズ国立公園があります。英国独特の美しい田園風景が見られるヨーク地方を代表する地域で、ナショナル・トレイル第1号のペナンウェイで通過できることもあり、こちらの方が有名で、ノース・ヨーク・モアーズは陰に隠れぎみです。認知度を上げ、地元経済を活性化させるためにも、広報活動に力を入れいます。努力が実り、来園者は増え、1997年Customer Service Excellence®(特殊法人顧客サービス適格認定機関)にも認定され、今も保持しているそうです。  ただ、この公園では去年夏に大きな決断を迫られました。公園指定地域内にある炭酸カリウムの採掘計画案が自治体に提出され、地元住民や保護団体なども含め長い話し合いが行われてきました。運営委員会は去年夏に評議員会内で投票を行い、僅差で計画案受け入れが最終可決され大きな話題となりました。実は、ほかの国立公園でも今議論が盛んになっているのが、公園内におけるシェールガス採掘問題です。政府はシェールガス開発を推進したい考えで、地元住民と今後具体的に話し合いが行われる様子です。ウィルソン氏は、国立公園に住む人間の心情としては、観光客が増えたり、採掘事業の受け入れに喜べない部分もあるが、地元経済を守るためには、時として承諾しなくてはならない現実がそこにあるとおっしゃっていました。勝手な憶測ですが、ウィルソン氏はもともと農家出身ということもあり、自然と人の営みの関係を非常に現実的に見ていらっしゃるように思いました。英国でも自然、エコといったワードの持つ美しいイメージが大きくなりすぎて、そこへ金儲けや資源といった話になるとアレルギー反応を起こす方も多いようですが、やはり地元の人たちにとって何が一番いことなのか、それが重要なことに感じました。炭酸カリウムの採掘事業は、なるべく環境や観光業にダメージを与えないよう配慮された計画案だそうで、今後住民がどのように対処していくのか、見守りたいと思います。 ランブラーズのイベント、ウォーキングなしでは、終われない  長々と書きましたが、以上イベントの報告となります。少しでも会場の雰囲気が伝わればなと思います。イベントの最後は、ランブラーズ協会が歩かないでどうするということで、ウォーキングで締めとなりました。私は時間の関係で大学構内を回る短いコースに参加したため、さほど歩いてはいませんが、会員の方々と話をする良い機会となりました。  今回参加して学んだことは、日本の地方や自然保護活動が抱えている問題は、英国でも同じように壁にぶつかっていることを確認できたことが一点。ただ、そこはさすが議会制民主主義発祥の地だけあり、とにかく時間がかかっても話し合いを重ねていく、多くの人々にアピールしていくしかないといった気持ちが感じられました。そして新たに注目されているボランディアの力や緑の処方箋。地元住民の協力で道を整備していくだけでなく、彼らに頻繁に歩いてもらうことが、道を保持していける秘訣のように思います。今後どのように発展していくのか、常に観察していきたいと思います。  最後に、今回ランブラーズの活躍と影響力を改めて感じ、考えてみました。英国における歩く文化を大きく発展させ、フットパスという壮大なシステムを作り上げてこれたのは、彼らの貢献が大きいのは間違いありません。ただ、もともとレクリエーションウォーキングを重要視する知識人と労働者階級から出てきた団体ゆえでしょうか、未だに土地所有者や保守的な人たちにに対しての嫌悪感があり、どうしてもリベラルな政治活動をする傾向があるようです。今回の会でも、言葉の端々にその雰囲気が感じ取れました。私個人でウォーキング好きな人々に取材していても、ランブラーズは政治色が強くて苦手という方たちは、意外に多かったです。私としては、当団体とは違う立場にいる方々にも、ぜひ話をもっと聞いてみたいと思いました。大会は盛りだくさんで、最後は頭がパンク状態でしたが、それでも参加して良かったと思います。やはり生の声を聞くことは貴重で、自分の見方がさらに広がって良い刺激となり、いろいろ考え直させられる機会となりました。特に団体運営サイドだけでなく、会員の方々にいろいろと話を聞けたのが大変貴重でした。次回も開催されるようなら、また参加してみたいと思います。 2nd February 2016, Saturday @ University of York 【安藤百福記念 自然体験活動指導者養成センター紀要「人と自然」第6号2015年度に掲載されたレポート「イギリス・ウォーキング環境保全の現状 ー 英国フットパスの新たな試み」(38から44ページ目)は、この記事を一部に加えて書かせていただきました。】 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 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 英国冬の一大イベント、クリスマス。12月になるとイルミネーションで彩られた街は、買い物客で賑わい、各家ではクリスマスツリーやリースが飾られ、人々の気持ちは高まります。当日は家族や友人が集まり、ご馳走をみなでいただきお祝いし、食後は団欒しながらのんびり過ごす。最近はかなり商業色が強くなってきていますが、それでも英国人にとって家族や仲間を一番感じる、ほっこりする時期です。ただ、リラックスした気分で、ついつい食べすぎ、飲みすぎてしまう。そんな時は気分転換に、外の新鮮な空気を吸いに、全員で散歩に出かける。そんな人たちが、この時期あちらこちらで見受けられます。日本の初詣のように、目的地があって歩くのとは違い、気の向くままにブラブラ好きなだけ歩く。霜が降りた外の寒さは体に沁みますが、全てが白く凍る冬景色をのんびり眺めていくのは、心身共々リフレッシュされていきます。中には、サンタクロースの赤い帽子を被って歩いているひともいたりして、クリスマス気分を満喫しているようです。 大人になっても、クリスマスはウキウキ♡  英国では、人が集まり食事をしたり、同じ時間を過ごすとき、散歩というのがそのイベントの中に組み込まれていることが多いです。これは、クリスマスだけに限ったことではありません。例えば、私たち夫婦が夫の実家を訪ねた時は必ず、食事前後全員で散歩をします。長靴を履いてゾロゾロ歩きながら、近況報告、政治や経済、地元のゴジップなどを話す。四季を表す自然、歴史的建造物、田園風景を愛でる。誰もが参加でき、お金もかけず、全員で一緒に何かを行うことで、しばらく会っていなかった時間もすぐに埋められ、気持ちがぐっと近くになります。ただ食事をするだけでは、この効果は十分に得られないでしょう。心理学でも対面で話すより、横並びのほうが距離も近く、人は心を開くということを聞いたことがあります。しかも同じ動きをすると同調効果が高まるとか。恋人同士がよく散歩しているのも、納得できます。このような散歩をする風習は、もともと15世紀から16世紀の上流階級が、訪問客に広大な敷地内を歩きながら見せて回るおもてなしや消化促進のために食後に歩いたことから始まっているとか。その後産業革命で人々の生活スタイルが変わり、特権階級だけが許された散歩が、気軽に楽しめるレクリエーションとして大衆へ広がり、現在彼らが普通に仲間と行う散歩という形態になっていきました。 全国共通で、黄色い矢印で表記  とはいえ、歩く道が車道では、雰囲気もへったくれもありません。車の通りばかりが気になり、話もできない。景色をじっくり眺めるような余裕もない。自立心の強い英国人には、人によって決められた公園内や遊歩道をぶらつくだけでは満足しない。ではどこを歩いているのか。それは、Public Footpathと言われる歩行専用道路。畑、牧場、森、丘、山、河川敷、公共用地、私有地、入会地などの中を大胆に突っ切り、まるでブリテン島の毛細血管のように、全国あちらこちらに存在しています。総距離は、現在イングランドとウェールズで約22万5000キロ、スコットランドで登録済みなのが、約1万6600キロ、二つ合わせて、地球6周できるほどの距離にまでになります。登録作業は2026年1月まで続き、距離はさらに伸びる予定です。Publicと書かれている通り、公の道であり、誰でも歩く権利が法律上認められています。その昔、公衆の歩行通路として各地域で使われていた道を、交通手段が多様化した現在では、レクリエーション目的のために保存し、みなが歩けるようにしたのです。ロングトレイルといった本格的なハイキングをするための道は他国でも立派なものがありますが、ただちょっと歩くだけのために、日常生活圏内でこのようなシステムを作り上げた国は他に見当たらないのではないでしょうか。それだけ、散歩が生活の一部となっている証拠だと思います。 赤ちゃんも、みんなと一緒に散歩したい  日本の私たちは、産業革命から資本主義国として走り続けてきた英国を、憧れの先輩として崇め、一歩でも近づこうといつも必死に追いかけてきました。しかし、その先輩も、走り続ける中で、失敗を繰り返し、多くのものを失い、そこで初めて真の豊かさとは何かと考え始めたのです。そして先輩が出した答えの一つは、シンプルに歩くことの喜びだったように感じられます。 参考文献 Ramblers, Ramblers Best Walks Britain (Collins, 2010) Ramblers, Walking in Britain (Ramblers advice, 2012) 市村操一(2000). 誰も知らなかった英国流ウォーキングの秘密 、山と渓谷社 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022...

西から来たカナダ人のジルちゃん。東から来た日本人の私。約10年前に英国の大学で出会ったふたりは、卒業後それぞれの道に進みながらも英国で暮らし、今でも家族同然のように付き合いをしています。会うたびに「この国、変じゃねぇー」と、理解できない異文化について語りながら、お酒を飲むのがお決まりです。しかし、文句を言いながらも、どこか愛情を抱いてしまう不思議なこの国。そしてある日、このワンダーランドをあちこち一緒にぶらぶらして、知らなかった新たな一面を発見したいと旅が始まりました。どこそこのトレイルを踏破しようとか、あの山登ろうとか、あそこまで歩こうといったノリは一切なく、ぐうたらなふたりらしい、天気と気分次第で歩くゆるゆる旅です。 [osmap gpx="https://rambleraruki.com/wp-content/uploads/2021/10/Thames-Path-Pitney-to-Richmond.gpx" markers="TQ2451875884!red;出発点: パトニー・ブリッジ|TQ17847444!green;終着点: リッチモンド"] [osmap_marker color=red] 出発点: パトニー・ブリッジ [osmap_marker color=green] 終着点: リッチモンド こちらは、コーチが檄を飛ばすボート  今回は、英国の代表格ナショナル・トレイルのひとつである、テムズ・パス(Thames Path)の一部をランぶら歩きしてみました。テムズ・パスは、ロンドン中心部を流れるテムズ川に沿って歩く計184マイル(296キロ)の道です。イングランド南西部コッツウォルズ地方にある水源地から、オックスフォード、音楽フェスがあるレティング、エリザベス女王が住む城があるウィンザー、パンプトン・コート宮殿、キュー王立植物園、国会議事堂・ビックベン、タワーブリッジ、本初子午線があるグリニッジを通過しながら、テムズ・バリアーと呼ばれる川の障壁までのコースになります。ナショナル・トレイルのなかでも、高低差がないので、私たちのようながんばらないひとたち向きです。本日のコースは、ロンドン西南部にあるパトニー・ブリッジからキュー王立植物園脇を通り、リッチモンドまでの10マイル(約16キロ)になります。川の流れとは逆に歩いて行く、ちょっと肌寒くなってきた秋の紅葉狩りとなりました。 こちらは、コーチが檄を飛ばすボート  お天気は、あいにくの曇り。でもこのグレー色が、ロンドンぽいかも。そんな天気の中でもロンドンっ子たちは、散歩したり、チャリ乗ったり、ジョギングしたりと元気です。川には、ボートが次々と運び出されていました。ここは、毎年4月に行われるオックスフォード大 vs ケンブリッジ大で競われる伝統のボートレースが開催されるエリアで、次の試合に向けて練習しているようです。 昔サッカー日本代表の稲本潤一選手が所属していたフラムFCの本拠地・クレイヴン・コテージが見える  ジルちゃんは、長年勤めたロンドンでの仕事を辞めて、ブリストルに移り新たな生活をスタートさせます。今回の旅は、慣れ親しんだロンドンを離れる前に、一度自分の知らないロンドンを見てみたい。そんな彼女の思いがありました。 緑と金色が美しいハマースミス橋。橋のデザインを見て歩くだけでも、面白い そのハマースミス橋の下を通るランナー。頭、気をつけて!!  川近くまで、ちょっと降りてみた。石がゴロゴロ 途中水近くまで降りてみました。ロンドン中心部あたりだと砂がメインなのに対して、この辺りになると石がゴロゴロ。多少上流に上ってきているんだなとわかります。川幅も徐々に狭くなり始めました。 手を繋ぐカップル。年なんて関係ない!! 若者だって紅葉狩り 川沿いの大きな木々が、色とりどりのアーチを作り出している 川沿いでは、紅、黄、緑に染まった木々の中、週末のひと時を夫婦や仲間と散歩しながらのんびり過ごす姿がありました。今回は本格的な装備をしたハイカーは見かけず、手ぶらで散策しているひとたちが多かったです。たぶん地元のひとたちでしょう。ジョギングしているひとたちは、若いバリバリのビジネスマン&ビジネスウーマンたちが中心で、仕事もプライベートも充実させています!と言わんばかりのパワフルさ。スポーツファッションに身を固め、落ち葉を蹴りながら颯爽と走り抜けていく姿が、散歩族とは対照的でした。トレイルの一部はサイクリングも可能で、20代から50代の男性中心に、フル装備でロードレーサーに跨り、結構なスピードで走っていきます。ボーとしている我々ふたりは、何回もチャリンチャリーンとベルで警告され、慌てて避けていました。 ナショナル・トレイルとしてスルー・ハイカーが歩く道であり、地元のひとたちがふらっと歩く道でもあるテムズ・パス。その上、ジョギングやサイクリングする人たちも加わり、それぞれの目的で好きなように利用している。道は、人々に使われてこそ道になり得るんだと、「道」の存在というものを観察しながら考えていました。 りっぱな標識。重厚感があります 昼食後の散歩か、仲間同士四季を楽しむ 英国の紅葉は、日本とは違った趣があります 水上では、若者が檄を飛ばされながら、必死にボートを漕ぐ姿が。女性チームもいました。「寒そうだし、鼻水垂れそうだし、きつそー。絶対にヤダ!!」「あっ、でもあれ見て。あのボートに座っている女性なら、私にもできそう」などとふたりで、歩きながら冷やかしていました。 サギが見守る中、ボートの猛特訓。寒くないの!? ダッチ・バージと呼ばれているオランダ版はしけ。遊覧用であったり、運河などでは住居として使用されている 大英帝国時代、ロンドンが貿易の中心地となり、このテムズ川は世界で一番交通量の多い場でした。時代が変わり、交通路としての役目をほぼ終えて、今はレジャー目的の船が、行き来しています。最新式のクルーザーもあれば、昔の船を改造したものなどもあり、時代は違えど、活気があったテムズ川の面影がうっすら感じられます。トレイル歩き同様、水上でもそれぞれの目的で好きなように遊び、実に楽しそう。こうするべきといった流儀や流行りはなく、みなが公共の場において必要最低限のルールをきちんと守りながら、お互い干渉せず、秋のクルージングを通して四季を謳歌している。我が道を往く英国人らしさが、そこに表れていました。 グッバイ、ロンドン。別れを惜しむ、ジルちゃん  ぶらぶらしているうちに、だんだん道が賑やかになってきました。どうやらリッチモンドに到着したようです。高級住宅街地域のリッチモンドには、ポッシュなお店も沢山あります。買い物帰りのひとたちが秋の夕涼み!?なのでしょうか、人々がお茶やビールを飲んでいたり、川辺に座り話をしていたり、ただぶらついていたり。私たちもビールで乾杯し、ジルちゃんの門出を祝いました。  しょっちゅう見ていたテムズ川ですが、今回ほどこの川をじっくり眺め意識したことはなかったです。というか、川沿いをここまでじっくり時間をかけて歩いたことが初めてで、違う角度で見慣れた風景を見る面白さを発見し、今まで持っていたロンドンのイメージを少し変えたように感じます。ロンドンのシンボルでもあるこの川は、数千年前から人々の暮らしの中にあり、今も変わらず大きな存在であり続けているようです。そして、遠い昔の人たちも歩いたであろう道を辿ることで、僭越ながら私自身もその長い歴史の一部になれたような気がしました。 26th October 2014, Sat @ The Thames Path (Putney Bridge to Richmond), London トレイル情報: デムズ・パス www.nationaltrail.co.uk/thames-path Rhoebe Clapham, Thames Path in London (Aurum Press, 2012) 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022...

© Blackwater Forget Me Not Walk 2014  9月20日(土)に、私が住んでいるエセックス州、モルドンで開催されたチャリティー・ウォークに、私の在英10周年記念として参加しました。たまたま買い物に行ったスーパーの掲示板で見かけたポスターが目に止まり、地元のイベントというこで、ちょっとトライしてみようかなと思い、エントリーしたのがきっかけです。英国白血病・リンパ腫研究所(LEUKAEMIA & LYMPHOMA RESEARCH)が行なっている”Forget Me Not Walk”と呼ばれるイベントで、30キロのウォーキングにチャレンジし、何事もなく参加者の方々と共に楽しみながら、完歩しました。当日朝から雷雨で、一時はどうなることかと心配しましたが、いざ歩き始めると、雨は上がり、想像以上に快適なスタートとなりました。コースは、地元モルドンの北側を30キロをぐるっと一周するもので、スタート地点がゴールとなります。マラソン・チャレンジと題していたので、てっきりタイムや順位が記録されるのかと思いきや、「では、ぼちぼち歩き始めましょうかね」といったノリでみながゾロゾロと歩き出し、ちょっと驚きました。どうやら、決められた距離を歩ききることが「挑戦」ということだったようです。  今イベントは、白血病で若い息子さんを失ったリーブ夫妻が英国白血病・リンパ腫研究所と協力して、息子さんの思いを忘れないために企画したものです。イベント参加条件は、エントリー代を支払いこと(今回は、£10)とチャレンジ参加者全員、自分についてくれるスポンサーを自分で募り、そのスポンサー代を団体に寄付することでした。イベントによっては、最低限の募金額が設定される場合がありますが、今回は特になく、できる範囲でがんばるというスタンスでした。英国は、チャリティー大国です。福祉国家の英国と言われていますが、国からの支援には限りがあり、チャリティー団体が大きな役割を担っているため、人々にとって身近な存在です。ボランティア活動、チャリティー・イベントは、頻繁に行われています。募金活動も思考をこらして、今回のウォーキング・チャレンジのように、参加者が楽しみながら寄付を募る企画が多くあります。 [osmap gpx="https://rambleraruki.com/wp-content/uploads/2021/10/Charity-Walk-in-Maldon-new.gpx" markers="TL8553011250!red;出発終着点:グレート・トットナム"] [osmap_marker color=red] 出発終着点: イングランド東部 グレート・トットナム  その中で、私が今イベントに参加したいと思った理由は、地元の人が行うイベントだったからです。募金先もあまり大きな団体でなく、白血病・リンパ腫のための治療改善と患者サポートと目的もはっきりしてい ました。大規模なイベントになるとチャリティー・イベント専門企画会社が入り、どうしても商業化された感が強く、私としてはスポンサーを募ることに抵抗があります。今回は、モルドンに住むご夫妻と彼らのご近所さんや友人・知人がボランティアとなって開催されたこぢんまりとしたもので、終始のんびりとアットホームな雰囲気が漂っていました。私のように、祖国を離れてた根無し草の人間としては、住んでいる地域の方々との交流は大きな意味があり、私自身いつもこだわっている点です。 イベント主催者リーブ氏の挨拶からスタート  歩き始め最初の一時間は、いくつもの田園を通り抜けて行きました。このあたりでは、麦、ライ麦、菜の花、亜麻仁、ムラサキウマゴヤシなどが栽培されています。収穫はすでに終り、少し寂しい風景ではありましたが、道中出会った馬、羊、牛、あひる、孔雀たちに、癒されました。気温が上昇し、蒸し暑くなり始め、参加者みんなが着ていたジャケットを脱ぎ始めると、今チャリテ ィー団体のTシャツがお目見え。のどかな田舎道が突如パッと眩しいぐらいの赤色に染まりました。不思議な光景でしたが、宣伝効果は抜群と言えそうです。英国には、フットパスといわれる歩道が、全国に網の目のように数多く存在しています。このフットパス、正式名を Public Footpathといい、人々がまだ歩くことでしか移動できなかった時代に使用していた歩道を、今日レクリエーション目的のために保存しているれっきとした公道です。またPublic Right of Way (PRoW)という名で、誰でもこの公道を歩く権利が法律で認められています。つまり、ひとたびフットパスと認められれば、住宅地であろうが、農地であろうが、ゴルフ場であろうが、歩くことができる。日本ではちょっと考えにくいユニークなシステムであります。ちなみに今回のコースの七割は、フットパスを歩きました。 赤の騎士団、 モルドンの田舎道をゆく 満潮の川を見ながら、土手道を歩いていく  チェックポイントで一息してから、いよいよ前半のハイライトである川沿いを歩くフットパスにでてきました。タイミングよく満潮で、朝の嵐が信じられないような穏やかさが、モルドン独特の朴訥とした風景をさらに美しく演出していました。エセックス州は、平地の州と言われていて、高低差がほとんどありません。 モルドンあたりは特に湿地帯のため、海抜がマイナスの土地も多々あります。ブラックウォーターと呼ばれている河口付近は塩水で、その昔人々はseawallと呼ばれる盛土を手作業で設置し、満潮で浸水しないよう塞き止め、川沿いの土地を農地として使えるよう年月をかけて塩抜きしていきました。その努力の結晶である土手道を歩く、一歩一歩踏みしめるように力が入りました。 昔ながらの帆船が、静かに海へと向う  河口と運河の合流地点に、第二チェックポイントがあり、そこで昼食。サンドウィッチ、スナック、ケーキ、果物、エネルギードリンクなどすべてボランティアの方々が用意され、手際よく給仕してくださいました。きっとみなさんスポーツ ・チャリティー・イベントに慣れていらっしゃる方々なんだと思います。軽く食事をしてから、今度は、運河沿いを歩き始めました。英国には産業革命時代に多くの運河が建設されました。今は、船遊び、釣り、そして運河脇を歩くといったレジャー目的で使われ、国の遺産として大切に保管されています。また、川や運河に停泊しているボートを正式な住居として生活されている方々もいらっしゃいます。私の知人数人もボート暮らしですが、外はどこから見てもボート、でも一旦中に入ると普通の家とまったく変わらず。中には、室内ミニサッカー場を子供のために作ったひともいます。 この日は、釣り人たちが、まるで修行僧が座禅を組んでいるかのように、静かに運河の水面を見つめながら座っていました。 しっかり食べて、後半戦へ  今回のチャレンジや地元のグループ・ウォーキングに参加して面白いなと感じたのが、みなさんの歩くスタイルです。 みなさん歩きながらよく喋ります。老若男女隔たりなく、話している内容もアウトドアや自然と何の関係もないものも多 くて、びっくりしました。地元だからかもしれませんが、景色もそんなに見ていない。中には歌いながら歩いている方や愛犬を連れている方もいらっしゃいました。もちろん歩くことだけに専念しているひとも、静かに歩くことを楽しんでいるひともいらっしゃいましたが、どうやら歩く(散歩) = 社交の場という風習が、英国にはあるように感じられます。何かに懸命に挑戦している雰囲気はなく、このリラックスした感じが実はこのイベントの醍醐味で、今回で4回目の開催を迎えることができたポイントなのかもしれません。 全長約22キロある運河脇を歩きながら、内陸部へと進む  運河を離れた後、今度は鉄道廃線跡を3.5キロほど歩きました。モルドンと近くにある都市とを繋ぎ、地元のために118 年間走り続けてきた鉄道は、車社会化した1966 年に廃線となりました。今は、線路があったであろう築堤はトレイルとして保存され、両脇に生えている木々が長い緑のアーケードを作り出していました。車窓から見えるモルドンの風景はどうだったんだろうか、想像してしまいます。 真っ直ぐに伸びる廃線跡を歩く  最後のチェックポイントを通過し、リンゴ園が広がる丘を登り始めました。ひと昔前までこのあたりは、リンゴ園がそこかしこにあったそうです。1973年に英国が ECC(欧州経済共同体)に加盟後、国外からリンゴが輸入され始め、価格競争に負けた地元の生産者たちは、多くのリンゴの木を処分せざるおえなくなりました。残されたリンゴの木々には、何とも言えない喪失感が漂っています。日本人としてひと事ではなく、生き証人を見た思いです。歩くことでしか発見できない小さな村の物語や歴史がそこにあり、それが世界の大きな動きに繋がる。昔世界史の教科書に記述されていたことが、現実として目の前で見ることができた瞬間でした。  丘を登りきり、静かな家並みを通りぬけ、出発点であったパブに戻ってきてゴ ール。5時間半で、チャレンジを終了しました。完歩記念にメダルをいただきました。スポーツの大会は、中学校のマラソン大会以来でしたので、多少緊張していましたが、終わってみると心地よい疲労と達成感を味わいました。パブがゴールというのも実によく考えられていて、用意された軽食と祝福の一杯をみなさんそれぞれ楽しんでおられました。ひと仕事終えた後の一杯は、やっぱり旨い!! りんご園を通過  今回のチャレンジで、30kmに挑戦した人たちは40名、ショートコースの20kmは31名、合計参加者数71名でした。ある方は、病で失った家族や友人のために、ある方は、病からの復帰を祝うために。それぞれの目的、思いで歩かれていました。最近白血病を克服し、今チャレンジで最後まで歩ききるという強い意志で参加していた女性は、大奮闘した結果、最終グループの仲間と共にゴール。みなから祝福の喝采を受けていたのが印象的でした。家族、友人のみなさまのご協力のもと、私が集めたスポンサー代、最終金額は、£408.41(約7万1413円)となり、無事に全額英国白血病・リンパ腫研究所へ寄付されました。心から謝意を表するとともに、リーブ夫妻からも、みなさんのご厚意に対しての感謝、そして寄付金が有効に活用されるようしっかり見守っていくとのメッセージをいただきました。 多くのスポンサーに、感謝します。みなさんの応援が、力となりました 地元紙にイベントの記事が掲載された © Maldon and Burnham Standard, September 25, 2014  今回の経験で私が学んだことは沢山ありますが、一番の大きな発見は、人間たまには人様のために何かをする。その体験は、己をよく知ることにもなる、ということです。私のように世の中にために役立つ頭脳や才能も無く、子供を産んで育てて次世代社会へ貢献しているわけでもない人間としては、自分の時間を他人のために使うことは、大変有効に思いました。たとえ小さなことでも、偽善的で自己満足な行為でも、混沌とした世の中で人間が持っている可能性や希望を感じることができるよい機会だと思います。さらに、今回は歩くという行動を改めて認識しました。人類の一番の進化は、二足歩行をしたということではないでしょうか。しかし、利便性優先の現代社会で二足歩行をしなくなってきている私たちは、何か大きなものを失いつつあるのかもしれません。歩くことでしか見えてこない世界があるように感じます。 人生初のメダル獲得、嬉しい  多くの方々に支えられた英国生活10年。おかげさまで、チャレンジによってよい節目をつけることができました。モルドンの魅力も再確認することができ、ここに住むチャンスに恵まれてよかったと改めて感じています。最後に、主催者のリーブさんに、「なぜ、このウォーキング・イベントを企画したんですか」とゴール後質問してみました。すると彼はこう答えました。「人は、楽しいことにはお金を出してくれるんです。」う〜ん、なるほど。楽しみながら、目的を達成させる。英国のチャリティー社会、まだまだ学ぶことが多くありそうです。みなさまも、たまには歩いて遠出してみてはいかがでしょうか。きっと面白い発見があると思います。 20th September 2014, Sat @ Maldon, Essex 掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。© rambleraruki.com 2022...