テムズパス・タイトル

ジルちゃんとDeco Boco Walking @ テムズ・パス

西から来たカナダ人のジルちゃん。東から来た日本人の私。約10年前に英国の大学で出会ったふたりは、卒業後それぞれの道に進みながらも英国で暮らし、今でも家族同然のように付き合いをしています。会うたびに「この国、変じゃねぇー」と、理解できない異文化について語りながら、お酒を飲むのがお決まりです。しかし、文句を言いながらも、どこか愛情を抱いてしまう不思議なこの国。そしてある日、このワンダーランドをあちこち一緒にぶらぶらして、知らなかった新たな一面を発見したいと旅が始まりました。どこそこのトレイルを踏破しようとか、あの山登ろうとか、あそこまで歩こうといったノリは一切なく、ぐうたらなふたりらしい、天気と気分次第で歩くゆるゆる旅です。

出発点: パトニー・ブリッジ  終着点: リッチモンド
テムズパス風景2
こちらは、コーチが檄を飛ばすボート

 今回は、英国の代表格ナショナル・トレイルのひとつである、テムズ・パス(Thames Path)の一部をランぶら歩きしてみました。テムズ・パスは、ロンドン中心部を流れるテムズ川に沿って歩く計184マイル(296キロ)の道です。イングランド南西部コッツウォルズ地方にある水源地から、オックスフォード、音楽フェスがあるレティング、エリザベス女王が住む城があるウィンザー、パンプトン・コート宮殿、キュー王立植物園、国会議事堂・ビックベン、タワーブリッジ、本初子午線があるグリニッジを通過しながら、テムズ・バリアーと呼ばれる川の障壁までのコースになります。ナショナル・トレイルのなかでも、高低差がないので、私たちのようながんばらないひとたち向きです。本日のコースは、ロンドン西南部にあるパトニー・ブリッジからキュー王立植物園脇を通り、リッチモンドまでの10マイル(約16キロ)になります。川の流れとは逆に歩いて行く、ちょっと肌寒くなってきた秋の紅葉狩りとなりました。

テムズパス風景1
こちらは、コーチが檄を飛ばすボート

 お天気は、あいにくの曇り。でもこのグレー色が、ロンドンぽいかも。そんな天気の中でもロンドンっ子たちは、散歩したり、チャリ乗ったり、ジョギングしたりと元気です。川には、ボートが次々と運び出されていました。ここは、毎年4月に行われるオックスフォード大 vs ケンブリッジ大で競われる伝統のボートレースが開催されるエリアで、次の試合に向けて練習しているようです。

テムズパス風景3
昔サッカー日本代表の稲本潤一選手が所属していたフラムFCの本拠地・クレイヴン・コテージが見える

 ジルちゃんは、長年勤めたロンドンでの仕事を辞めて、ブリストルに移り新たな生活をスタートさせます。今回の旅は、慣れ親しんだロンドンを離れる前に、一度自分の知らないロンドンを見てみたい。そんな彼女の思いがありました。

テムズパス風景4
緑と金色が美しいハマースミス橋。橋のデザインを見て歩くだけでも、面白い

テムズパス風景5そのハマースミス橋の下を通るランナー。頭、気をつけて!!
テムズパス風景6 川近くまで、ちょっと降りてみた。石がゴロゴロ

途中水近くまで降りてみました。ロンドン中心部あたりだと砂がメインなのに対して、この辺りになると石がゴロゴロ。多少上流に上ってきているんだなとわかります。川幅も徐々に狭くなり始めました。

テムズパス風景7 手を繋ぐカップル。年なんて関係ない!!
テムズパス風景8 若者だって紅葉狩り
テムズパス風景9 川沿いの大きな木々が、色とりどりのアーチを作り出している

川沿いでは、紅、黄、緑に染まった木々の中、週末のひと時を夫婦や仲間と散歩しながらのんびり過ごす姿がありました。今回は本格的な装備をしたハイカーは見かけず、手ぶらで散策しているひとたちが多かったです。たぶん地元のひとたちでしょう。ジョギングしているひとたちは、若いバリバリのビジネスマン&ビジネスウーマンたちが中心で、仕事もプライベートも充実させています!と言わんばかりのパワフルさ。スポーツファッションに身を固め、落ち葉を蹴りながら颯爽と走り抜けていく姿が、散歩族とは対照的でした。トレイルの一部はサイクリングも可能で、20代から50代の男性中心に、フル装備でロードレーサーに跨り、結構なスピードで走っていきます。ボーとしている我々ふたりは、何回もチャリンチャリーンとベルで警告され、慌てて避けていました。

ナショナル・トレイルとしてスルー・ハイカーが歩く道であり、地元のひとたちがふらっと歩く道でもあるテムズ・パス。その上、ジョギングやサイクリングする人たちも加わり、それぞれの目的で好きなように利用している。道は、人々に使われてこそ道になり得るんだと、「道」の存在というものを観察しながら考えていました。

テムズパス風景10 りっぱな標識。重厚感があります
テムズパス風景11 昼食後の散歩か、仲間同士四季を楽しむ

テムズパス風景12
英国の紅葉は、日本とは違った趣があります

水上では、若者が檄を飛ばされながら、必死にボートを漕ぐ姿が。女性チームもいました。「寒そうだし、鼻水垂れそうだし、きつそー。絶対にヤダ!!」「あっ、でもあれ見て。あのボートに座っている女性なら、私にもできそう」などとふたりで、歩きながら冷やかしていました。

テムズパス風景14 サギが見守る中、ボートの猛特訓。寒くないの!?
テムズパス風景15 ダッチ・バージと呼ばれているオランダ版はしけ。遊覧用であったり、運河などでは住居として使用されている

大英帝国時代、ロンドンが貿易の中心地となり、このテムズ川は世界で一番交通量の多い場でした。時代が変わり、交通路としての役目をほぼ終えて、今はレジャー目的の船が、行き来しています。最新式のクルーザーもあれば、昔の船を改造したものなどもあり、時代は違えど、活気があったテムズ川の面影がうっすら感じられます。トレイル歩き同様、水上でもそれぞれの目的で好きなように遊び、実に楽しそう。こうするべきといった流儀や流行りはなく、みなが公共の場において必要最低限のルールをきちんと守りながら、お互い干渉せず、秋のクルージングを通して四季を謳歌している。我が道を往く英国人らしさが、そこに表れていました。

テムズパス風景16 グッバイ、ロンドン。別れを惜しむ、ジルちゃん

 ぶらぶらしているうちに、だんだん道が賑やかになってきました。どうやらリッチモンドに到着したようです。高級住宅街地域のリッチモンドには、ポッシュなお店も沢山あります。買い物帰りのひとたちが秋の夕涼み!?なのでしょうか、人々がお茶やビールを飲んでいたり、川辺に座り話をしていたり、ただぶらついていたり。私たちもビールで乾杯し、ジルちゃんの門出を祝いました。

 しょっちゅう見ていたテムズ川ですが、今回ほどこの川をじっくり眺め意識したことはなかったです。というか、川沿いをここまでじっくり時間をかけて歩いたことが初めてで、違う角度で見慣れた風景を見る面白さを発見し、今まで持っていたロンドンのイメージを少し変えたように感じます。ロンドンのシンボルでもあるこの川は、数千年前から人々の暮らしの中にあり、今も変わらず大きな存在であり続けているようです。そして、遠い昔の人たちも歩いたであろう道を辿ることで、僭越ながら私自身もその長い歴史の一部になれたような気がしました。

26th October 2014, Sat @ The Thames Path (Putney Bridge to Richmond), London

トレイル情報:
デムズ・パス www.nationaltrail.co.uk/thames-path
Rhoebe Clapham, Thames Path in London (Aurum Press, 2012)


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