25 8月 ジルちゃんとDeco Boco Walking @ コッツウォルド・ウェイ(春編) #2
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二日目:豪華な朝食でバッチリ腹ごしらえをして、バードリップのB&Bをあとに。車道に出てすぐコッツウォルド・ウェイの標識を見つけ、森の中へと入って行きました。湿気を帯びた暑さは、昨夜の嵐ですべて流され、ヒヤッとした空気が、足元から湿った大地の匂いを運んできます。新緑も恵みの雨を喜んでいたのか、艶やかな光を放っています。雨上がりは、独特の静けさと清らかさがあり、歩いていると洗礼を受けているような・・・。私利私欲にまみれている私たちには、なおさらそれがビシビシ強く感じられるのでしょう。胃も心も満たされ、「極楽じゃ〜」と、まったりしてきたふたり。歩く速度もノロノロ。上を見上げれば、ブナの葉で覆われた空は、緑で埋め尽くされ、その隠された青空が逆に地面から湧き上がってきたかのように、ブルーベルの群集が足元からどこまでも続いていました。ここウィットコンブ(Witcombe)の森は、英国国内でブルーベルの名所といわれているだけあります。本当に可愛らしい春の光景。日本の桜を愛でるときに感じる、美しさと儚さへの賛美とは、また違う味わいのお花見です。
生い茂る高木の中をひたすら歩いていきます。気温が徐々に上がり、熱気が篭り始め、じとーっと汗が出始めました。時々ポコっと視界が開けるスポットで、風にあたり涼みながら、遠くの田園風景をボーと眺め、そしてまた森の中を進む。それを繰り替えしていきます。コッツウォルドの景色は、まさに「Chocolate-box ー おみやげ用のチョコレートの包装箱に載せている写真のような美しさ」。どこをとっても絵になります。コッツウォルズ地方は、14〜16世紀に羊毛産業で栄えましたが、18世紀産業革命後、時代は毛織物から大量生産の綿製品へ移り、時代に取り残されてしまいます。しかしそれは逆に奇跡的に荒らされることなく、古き良き英国を今に残すことができたました。英国ので「カントリー(Country)」の意味は、日本で言う「田舎」のイメージとは違います。美しい田園地帯に家を持つことはステイタスであり、逆に都会にしか住めない人たちは、労働者といった感覚があります。つまり、カントリーライフは、英国人にとって、洗練された憧れの生活なのです。その夢見るカントリーライフで一番人気エリアが、このコッツウォルズ地方。ロンドンから2時間ほどで行ける理想郷として世界中の観光客を魅了し、英国セレブやリタイアしたひとたちが、こぞって家を購入する人気のスポットとして返り咲いたのです。その後、この美しい景観を守っていこうと、1966年にArea of Outstanding Natural Beauty – AONB(特別自然美観地域)に指定され、国、地方自治体、住民が協力して、持続可能な景観保護と地域社会に努めています。その効果の現れなのか、外国人の私たちでも歩いていて、「なんか知らないけれど、懐かしいなぁ〜」とそんな気分にさせてくれます。
タラタラ歩いていると、そこへ突然とてつもない急な坂に出くわしました。「この暑い中、マジでここを登るのか・・・」と地図をなんども見直しましたが、そこに選択の余地はありません。諦めて登り始めていきますが、距離がそうないためか、上まできれいな直線の道になっており、乾いた土で足は滑るは、暑さで息がさらに苦しいはで、ヘトヘト。「朝食のエッグベネディクト食べ過ぎなければよかったよー」と叫ぶふたり。後悔先に立たず・・・というか、先に進まず。ようやくの思いで登りきり、広場へと出てきたところで、ふたりともまさに「Time!! ー ちょっと待った!」。地べたに座り込みひと休みしなくては、動けませんでした。「なんじゃ、ここは」と水を飲みながらガイドブックを見ていると、英国の奇祭のひとつであるThe Gloucestershire Cheese Rolling ー チーズ転がし祭りが開催される丘ではありませんか。日本のテレビ番組で、お笑い芸人さんがこの祭りに参加した模様が放送されていた、あの丘です。「こんなところ、チーズ追いかけて転がり落ちていくなんて、アホか!」ふたりとも首を横にフリフリ「英国人の考えること、本当によくわからないよねー」と苦笑い。
今回の旅を通して印象的なのが、訪問客だけでなく、地元のひとたちが、犬の散歩やランニングをしている姿をよく見かけたことです。コッツウォルド・ウェイは、AONB指定地域の一番西側に、北から南へと道が一本引かれてたところになります。観光客が訪れるチッピング・カムデン、ブロードウェイ、バースなどを通過しますが、コースのほとんどは、地域住民の生活圏内を通り抜けていきます。ですので、観光ツアーで出会う景色とは違い、コッツウォルド本来の姿が垣間見れる。観光スポットが表なら、このトレイルは裏道を歩いているような感じです。トレイルと聞くと、アウトドアや観光目的で、お客さま向けのものと考えがちですが、英国の場合は、まず住民が日常で利用しているフットパスがベースになっています。レクリエーション目的でのフットパス保護運動は、300年前に始まりましたが、それ以前から普通に通勤通学で使っていた生活歩道がフットパスです。そして、それをより面白くしようと作られたのが、数多くあるフットパスを一本に繋げた、今回のコッツウォルド・ウェイ含むレクリエーショナル・トレイルです。米国のウィルダネスを歩くトレイルとは、まったく異なる文化がそこにはあります。だから、ヘタレな我々凸凹コンビでも、そんなにトレーニングもせず、気軽に歩きに行けるトレイルが多いのです。
その後も森の中を歩き続け、車道にでてきたところで、今回のコース最後のポイントになる丘陵の上にできたもうひとつの森、ペンズウィック・ビーコン(Painswick Beacon)にあるパブを発見。キンキンに冷えた飲み物求め、倒れこむように中へ。炭酸水を一気飲みしたジルちゃんは、「もー、蒸れて我慢できないよ」と靴を脱ぎ、サンダルへ履き替え始めました。一息ついた後、重い腰を持ち上げて、もうひと踏ん張り、ペンズウィック・ビーコンの中を歩き始めます。暑さで体が怠く、二人とも無言に・・・。でも、これはこれで、心地よい時間が流れているのです。途中、この地方の家々に使われいる蜂蜜色の石灰石、コッツウォルド・ストーンを扱っている石屋の敷地内やゴルフ場を抜けて行きます。人の家に勝手に入り込むようで、外国人ふたりは戸惑うのですが、でもいいんです、勝手に入って。「通行権という印籠が、目に入らぬか〜ぁ!!」と、石がゴロゴロあっても、ゴルフボールが飛んでても、堂々と歩いて行きます。そうこうしているうちに、最終目的地のペンズウィックの村に到着し、やっぱり最後はビールで旅のシメとしました。
まずは、地元のひとたちが歩いてなんぼ。それが英国のトレイルの根底にはあることを、今回のコッツウォルド・ウェイを歩いていて強く感じました。逆に、地域住民たちが歩かない道に、郷土愛からくる愛着もなければ、整備し続けていこうと思わせる気持ちも生まれない。安易に観光資源としてトレイルを管理していても、道は存続できない。その姿勢が、国内外でも定評があるAONBコッツウォルズが進めている持続可能な景観保護に繋がっているんだろうと感じました。ただのポッシュ気取りのエリアではないんだな〜、コッツウォルズ地方は・・・。ふたりでチョコレートを頬張りながら、そう思ったのです。
8th May 2016, Sun @ Cotswold Way (Birdlip – Painswick), Gloucestershire
トレイル情報:
コッツウォルド・ウェイ オフィシャルサイト
Cotswold Way : Trail Guide (Aurum Press, 2012)
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