08 8月 ジルちゃんとDeco Boco Walking in ウェールズ南西部編 #1
ある日、義理の甥っ子が訊いてきました。
「ねー、シノ。パフィン知ってる?」
「知らない。何それ?」
「鳥だよ。体は小さいのに、大きなオレンジ色のくちばしと足をもった鳥だよ。俺、鳴き真似できんだよ。」
「ほー、どんな感じ?」
「ウィいいいい〜ン。ウィいいいい〜ン。」
「は?何じゃい、その変な鳴き声。バイクのエンジン音みたい。鳥でしょ?」
「そうだよ、こうやって土の中で鳴くんだ。うそじゃないって。この前実際に聞いてきたんだから・・・。」
「どこで?」
「スコーマー・アイランド!!」
このエンジン音みたいに鳴く謎の鳥は、いったいどんな鳥なのか? スコーマー島って、どこ? 7歳のチビ男くんに、詳しく話を聞くが想像できず、こりゃ、百聞は一見に如かずだなっと思い、私のバディであるジルちゃんに次回の旅にどうかと提案してみました。大の鳥好きの彼女は二つ返事で了解。Deco Boco Walking、ついにスコーマー島があるウェールズに初上陸です。
スコーマー島は、大西洋に面したウェールズ南西部にあるペンブルックシャーにあります。ペンブルックシャー海岸沿いは、独特の自然と歴史的建造物が点在する、英国で唯一沿海にある国立公園に指定されています。また、その海岸線は、ペンブルックシャー・コースト・パス(Pembrokeshire Coast Path)というナショナル・トレイルのひとつで、およそ300キロの道を歩くことができます。随所に泳ぐのに最適なビーチもあり、泳ぐの命のジルちゃんにはうってつけ。学校の夏休みが始まる1週間前のギリギリ7月初めに、B&B最後のひと部屋をゲットができ、もうコレは「行け!」と神様のお告げだと、凸凹コンビは、慣れない地へと車を走らせるのでした。
さて、改めてエンジン音を発するこの鳥は、北大西洋と北極海に生息する海鳥、パフィン(Puffin)ことニシツノメドリということがわかりました。ジルちゃんが住んでいるブリストルから車で3時間弱で行ける、我々にとって一番近い繁殖地が、ペンブルックシャーの海に浮かぶ、チビ男くんも熱く語っていたスコーマー島になります。この730エーカー(2.95km2)の小さな島には、天敵となるネズミや狐がいないため、ニシツノメドリ以外にも、冬季に過ごしたアフリカや南米から10,000km以上かけて渡っているマンクスミズナギドリ(Manx Shearwater)、細長い赤いくちばしが特徴のベニハシガラス(Chough)など鳥たちのコロニー(集団繁殖地)になっています。そのため南西ウェールズ・ワイルドライフ・トラスト(The Wildlife Trust of South & West Wales)が、厳重な管理を行なっています。
この海鳥たちの楽園の島。当然バードウォッチャーたちが英国国内からだけでなく世界中から集結します。(余談ですが、バードウォッチャーたちの熱量って、マジ半端ない。カモフラージュ服着て、機材もパパラッチ並み。私たちとは、気合が違います。)そのスコーマー島では、6月中旬から7月中旬が観察できるピークとなり、8月ごろには彼らは姿を消します。そのため、必然的に大勢の人たちが来るので、上陸するにもひと苦労です。島に上陸できる人数は、1日250人までと限定されていて、ランディング・チケットという時間指定された上陸許可券を朝イチでゲットしなくてはなりません。私たちもがんばって、朝6時半にチケット売り場に行き、2時間行列に並び、無事に券を購入できました。高校生時代に外タレのコンサートチケットを購入した時以来の、ドキドキ感。思わず二人でガッツポーズ!
一度B&Bに戻り、しっかり朝食を取ってから、午前11時半のボートに乗り込み、いざスコーマー島へ。もう、これ以上は望めないぐらいの晴天で、波も穏やか。今年最高の夏模様に、すでにボートの上で、テンションマックスのふたり。15分ほどすると、島の玄関となる入江に入ってきました。崖のいたるところに巣作りしている海鳥たちの鳴き声が、キーキーとサラウンドで響き渡る。親鳥たちは、エサを捕まえに次々と海中へダイブしていく。ご多忙の鳥さんたちのところに、人間の私たちがちょいとお邪魔しま〜すといった感じでした。
上陸後すぐには解放されず、トラストのレンジャーたちによるレクチャーを受けます。今暮らしている鳥たちや島の状況説明、注意事項、望遠鏡の貸し出しや最低限の水と食料の販売などがありました。2018年の調査を元に繁殖している鳥たちの数が、手書きで表示されたボードが立っててあります。「マンクスミズナギドリは、35万羽!? え、なにその数!!」どうやってカウントされたのか不思議に思うぐらいの数字です。またご親切に、今生息している動植物リストもありました。管理体制がしっかりしていてることを、実感します。
レクチャー後、まずは島の全体をぐるっと反時計回りで見ていこうと、港がある東側から北へと早速歩き出します。夏の太陽の暑さを、肌でジリジリと感じますが、海風がそれを冷やしてくれるほどの、完璧なウォーキング日和。英国は、北海道よりに北に位置しますが、西岸海洋性気候で、暖流と偏西風により、期間は短いですが、夏はかなり暑くなります。また、海沿いは湿度も高く、歩くと汗ダラダラで、正直歩くのが辛くなります。ただ、スコーマー島は、崖を上ると平地で吹きっさらし。西を向けばケルト海が広がり、その向こうは大西洋です。今日のような天気は天国。ただ、雨風なら地獄絵になるだろうと、シダと短い芝に包まれた島を見て想像ができ、恐ろしくなります。晴れて本当によかった。
ここは、鳥たちの島。当然邪魔者の人間は、決めれれたフットパスしか歩けません。天敵のいないパラダイスに、人間が害を与えてはなりませんもんね。気をつけながら歩を進めます。時々、可愛らしいアケボノセンノウやギョリュウモドキ(ヒース)の花が海風に揺れて、手を振っているかのよう。お目当のニシツノメドリは、遠目に数えるほどしかまだ確認でませんが、それでもその可愛さに胸がキュンキュン。スコーマー島に滞在するニシツノメドリは、3万羽ちょっと。スカンジナビアあたりでは、エサとなる魚が減り、巣からかなり離れた場所まで採りにいき、新鮮な魚をヒナに与えることができず、数を減らしているそうです。そのためもあり、1959年この島は保護区に指定されました。いかにこの島が重要なのかが、わかります。
平坦な道を、北から西、そして南へと、気ままにスナックを食べたり、時にボーと景色を見渡しながら、ダラダラ歩いていきます。お天道様もてっぺんまで上がり、木陰がまったくない道を行くのは、さすがに暑さが勝り、ペースダウンしてくる。持参した水もどんどんなくなっていく。そんな道中、悲惨な鳥の死骸が目に付き、なんじゃこりゃ?と思いながら通り過ぎていくことが、多々ありました。あとで聞くとマンクスミズナギドリがカモメに襲われたあとだそうです。彼らは、冬の間過ごしたアルゼンチンや南アフリカからはるばるここまでやってきたのにもかかわらず、その哀れな姿に心が痛みます。しかも彼らは、長距離を飛ぶことに特化していて、うまく着地ができないそうです。嗚呼、なんということか・・・(涙。
3万羽いるニシツノメドリちゃんたちは、一体どこよっ!と思っていたその時、視界いっぱいに、ミニラグビーボールぐらいの大きさの物体がひゅーひゅーと飛び交っているではありませんか。その物体は、私たちが立っている崖の下に広がる海から、ポンポンと現れ、次の瞬間には、我々の足元近くに、ぴたっと飛び降りてきています。背中側が黒く、腹側が白い。目元に歌舞伎の隈取のような模様があり、全体のサイズに対して、大きく目立つオレンジ色の嘴。なんとも不恰好なニシツノメドリたちが現れました。小魚を嘴いっぱいに咥えながら、人間の存在を感じていないかのように、テクテクとペンギンのように歩きながら、地中にある小さな洞穴に入っていきます。そして、穴からでてきて、再び海へと飛び出していきます。ニシツノメドリの親鳥たちは、新鮮な魚をひなに与えるべく、フル活動中でした。
呆気にとられて見ていると、ウィいいいい〜ンというチェインソーのような不思議な音が、地面下から聞こえてきます。飛んでいる海鳥たちのピーピーと鳴く音とは明らかに違うもの。「どこかで、木を切っている?いやいや、木は生えていないよこの島。えっ、まさか、コレは・・・。」その音こそ、7歳のチビ男くんが言っていた、ニシツノメドリの鳴き声だったのです。ゆるキャラの姿とチェンソー音のミスマッチ。なんとも不思議な生き物に、ますます萌えてしまいます。鳥大好きジルちゃんは大興奮で、ずーとニシツノメドリたちに話しかけている怪しい人になっているし・・・。最後には、「カバンに入れて持って帰っていい?」と云い出す始末。とにかくキュートなニシツノメドリたちに囲まれた、渡り鳥たちのパラダイス。いつまでも、その癒し系キャラを眺めていたいと思ったふたりでした。かわいすぎるよ、君たち!!
4th July 2019, Sat @ Skomer Island, Pembrokeshire, Wales
トレイル情報:
スコーマー島 www.welshwildlife.org/visit/skomer-island
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